第百十二話 精霊の力

『リュシュの魔法綺麗ね~』


 そう言ってひょっこりと顔を出したのは赤い髪をした精霊だった。今まで見たことがない。


「お前、炎の精霊か?」


『そうだよ~! リュシュが炎を出したから出て来られた!』


「そうなのか……」


 精霊たちは自分の属性が近くにないと出て来られないらしい。水の精霊ならば水があるところの近くに。雪を降らせた精霊は水の精霊だ。氷を作ることも出来るらしい。


 炎の精霊は嬉しそうに俺が出した魔法の炎を見詰めている。周りをふわふわと飛んでいるかと思ったら、俺の腕の上に降りて来た。


 そのとき炎の勢いが上がりボウッと燃え上がった。


「!?」


 なんだ!? 驚き慌てて炎を消す。


『あぁ、消えちゃった!! もう一度!! もう一度出してよ、リュシュ! じゃないとぼく消えちゃう!!』


「?」


 なんだかよく分からないが、「消えてしまう」と言う言葉にビクッとし、慌ててもう一度炎を出す。


『アハ、ありがとう! 綺麗だなぁ』


「なあ、さっきのはなんだ?」


 この精霊が俺の身体に触れた途端に炎の勢いが増した。あれはなんだ。


『リュシュの魔法が強くなっただけ~』

「は?」

『リュシュは自分で魔力持ってる~』

「うん」

『でも前世人間だったからぼくたちのことも見える~』

「うん、それで?」


『だからぼくたちの力も使える~』


「え? どういうことだ?」


 ぼくたちの力、精霊の力ってことだよな、精霊の力が使える? どういうことだ?


『もう! リュシュってばお馬鹿さ~ん!』


 イラッとしたがここは我慢だ。


『人間はぼくたちの力を使うでしょ? だからリュシュも同じこと出来るよ?』


「同じこと…………お前たちの力も使える?」


『うん、そう』


「俺の魔法に上乗せで?」


『んー、それは分かんない!』


 ガクッ。肝心なところがよく分からん。

 しかし、先程の炎の勢いが上がったことを見ると、俺の魔法にさらに上乗せされたと見るのが無難そうだ。


「ハハハ…………、俺スゲーな…………」


 あれだけ望んだ力だ。最強の力を手に入れたんだよな。ハハハ…………。




 それから魔法の練習がてらに、と色々な魔法も試してみたが、そのとき精霊の力を借りるとさらに強力な魔法が放てることが分かった。

 しかし、普通の人間とは違い、詠唱し精霊の力を借りて発動するわけではない。俺の場合、元から魔力があるため、やはり上乗せのようだ。


 精霊たちが俺の身体に触れると精霊の力が俺の身体を巡り、人気じんきに乗せ魔力を移動させる途中で精霊の気も上乗せされ俺の魔力と混ざり合う。

 その混ざり合った魔力が掌から放出されるのだ。だから基本的にナザンヴィアの人間たちとは魔法の根本が違う。


 精霊の力が混ざった魔力をコントロールするのは厄介だった。魔力を感じにくくなるのだ。その感じにくい魔力を身体に巡らせ移動させて行くのが至難の業だった。

 何度も試し、ようやく慣れて来た、といった感じだった。




 身体の全神経に集中し、精霊の力が混ざり合った魔力を動かす。身体を巡り、腕を通り、掌に集まった。その魔力を掌に放出するのにもさらに集中力がいった。


 集中し放出!


『ゴゴォォォオオオオ!!』


 激しい炎が地面を滑るように目標まで走る。迸る炎。そのまま炎弾を打つ。今まで見たことがある炎弾と大きさはさほど変わらない。しかしその威力は凄まじいものだった。


 巨大な岩を一瞬で砕いた。瓦礫は飛び散り破壊力を物語る。


「あ……ハハハ……」


 あまりの威力に自分の掌を見詰める。なんとも言えない微妙な気持ちになる。嬉しいのか辛いのか分からない。


「…………」


 拳を握り締め……ノグルさんたちが待つ家へと帰った。


 そろそろ潮時かもしれない…………。




「ただいま……」


「あ、リュシュ、おかえり」


 ナティが夕食を用意して待ってくれていた。


「ノグルさんは?」

「んー、どうしたんだろうね、まだ帰ってない」


 いつもならすでに家にいるはずのノグルさんがいない。どうしたんだ。


 先に食べる? とナティが聞いて来たが、とりあえず待ってみよう、と話しているうちにノグルさんが帰って来た。


「おかえり、お父さん、どうかした?」


 なにやら難しい顔をしているノグルさんにナティが聞いた。


「あぁ、ただいま……いや、ちょっと嫌な話を聞いたものでね」

「嫌な話?」

「うん……」


 ノグルさんはチラリと俺を見た。なんだ?


「とりあえず夕食にしよう」


 そう言ってノグルさんは食卓へと着いた。

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