第百十一話 魔法属性

 多くの竜たちが大空を舞っている。地上からは激しい攻撃。大空を舞う竜たちは激しい炎や吹雪を噴き出す。


 俺もそのなかの一人だった。いや、一匹と言うべきか?

 漆黒の鱗に鋭い爪と牙。背には「あの人」が乗っている。


 あぁ、「あの戦い」か。


 あの戦い? なんだっけ?

 思い出せそうで思い出せない。


 地上にいる人間たちに向かい、竜たちは連携を取りながら猛攻撃を繰り返す。


 俺は炎や吹雪を噴き出し、風を起こしそれらをさらに強大にする。

 背に乗る「あの人」は剣を振るい、煌めく魔法を繰り出していた。


 地上の人間たちは炎の矢を一斉に放つ。さらに石礫を放ち、竜たちは回避するため、少し離れる。

 それを見計らったように、なにやら砦に巨大な魔導具のようなものを出して来た。


 なんだあれは!?


 手綱が引かれる。


『あれを壊すぞ!!』


「あの人」が叫んだと同時に俺はその魔導具へ向けて一直線に飛んだ。炎の矢の集中攻撃を避けながら、あともう少しでその魔導具へ「あの人」の攻撃が届く……そう思った瞬間、黒い禍々しいものがその魔導具から放たれた。






「がはっ!!」


 息苦しくなり激しく深呼吸を繰り返しながら、目を覚ました。


「な、なんだ今の……」


 戦いの記憶は今までもあった。その戦いで竜の俺は死んだのだと理解していた。しかし、いつも何が原因で死んだのかは分からなかった。記憶になかったからだ。「あの人」を庇って死んだ、という記憶だけしかなかった。


 キーアの夢を見なくなってきた代わりに、最近は竜だったころの夢ばかりを見る。

 悲しく辛い気持ちで目を覚ますことはなくなったが、竜のころの夢は酷く不快な気分になる。


 なぜ急に竜のころの記憶が蘇ってくるようになったのか……。魔法が使えるようになったこととなにか関係があるんだろうか。


「…………考えたところで分かるわけもないんだよな」


 自分の力がなぜ封印されていたのかも分からない。自分の力がどれほどのものかも分からない。前世の記憶が今さら蘇ってきた理由も分からない。なにもかも分からないことだらけだ。考えるだけ無駄だな、と苦笑した。




 身体を動かすことが楽になって来てからは、ノグルさんの手伝いで村の往診に付き合ったり、ナティの手伝いで買い物に出かけたり、としていると次第に村の人たちとも仲良くなっていった。

 あまり積極的に関わろうとしない俺を、この村の人々は受け入れてくれていた。俺はいつも周りの人間に恵まれている……。

 しかし時折、こんな癒された時間を過ごしていてはいけない、と自身を戒めた。それを気にしてか、ナティはたまになにかを言いたそうに俺を見る。しかし決して口に出しては来なかった。



 出て行く理由にするためにも健康的になろうと、身体を鍛え始めた。すると今までいくら鍛錬をしようが全く強くなれなかった俺なのに、今は鍛えたら鍛えただけ筋肉が付く。力も強く俊敏さもあった。なんなんだ、一体。


 自分自身にイラついた。あれだけ強くなりたかったのだから嬉しいのではないか、と問われても、俺にしたら全く嬉しくはなかった。

 なぜ今なんだ。なぜ今強さが手に入るんだ。なぜ……。


 キーアを殺して手に入れた魔法と力。自分が憎くて仕方がなかった。




 魔法も森の中で、周りに誰もいないことを確認して、どれだけの魔法が使えるのかを確認してみた。


 シーナさんから聞いていた魔力コントロール。あれを意識すれば魔法の発動は簡単なものだった。

 以前発動出来たのは偶然だったが、今は意識してコントロール出来る。


 腹の奥底にある魔力を身体に巡らせ、発動したい箇所に移動させていく。モヤモヤと蠢く魔力が身体を巡り腕に集まって来るのが分かる。


 腕から掌へと移動した魔力は、俺が出したいと思った魔法に変換され放出される。


「炎、水、氷、雷、風、土…………」


「なんだよ、これ……」


 全ての属性の魔法を扱うことが出来た……。


 確かに夢のなかで、竜の俺は炎と吹雪を噴いていた。だからなのか? だから俺は全ての属性を扱えるのか?

 これが俺? 俺なのか? こんな、全ての能力を持っているのが……俺?


 ハハ……。乾いた笑いしか出なかった。


 なぜ今さらこんな力が手に入る。もっと早くに…………


 もっと早くに手に入れていたらキーアは死ななかった?

 俺が最強の力を手に入れていて自信があれば、キーアを死なせずに済んだ?


 本当に? 本当にそうか?


 俺は力さえあれば本当に自信が持てたのだろうか……


 分からない……


「今さらだな…………結局、俺がキーアを殺したことに変わりはないのだから…………」



 掌にボッと炎が浮かび上がる。炎をじっと見詰めキーアを思い出す。しかし月日が経つにつれ、もう涙すら出なくなった。俺は薄情なやつだな……。


「キーア……」

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