第九十九話 竜人化試験①

 昨夜は緊張でなかなか寝付けなかった。しかしそれでも今朝は目が冴え渡る。食堂で朝食を食べていると噂を聞いた竜騎士たちから激励される。

 フェイも頑張れと言ってくれた。ディアンやアンニーナも応援してくれている。

 きっと俺は大丈夫だ。失敗することを考えるな。成功することだけを考えろ。


「よし」


 気合いを入れ寮を出る。



 演習場にはすでにログウェルさん、ルニスラさん、ヴァーナムさん、リンさんが待ち構えていた。

 その横にはキーアが。


「リュシュ、おはよう。眠れたか?」


 ログウェルさんがニッと笑って聞いた。恐らく緊張していることがバレているんだろうなぁ。


「ハハ、緊張であまり……」

「だと思った、ハハ」


 ルニスラさんやヴァーナムさんも笑う。リンさんは相変わらずの無表情だが、少しだけクスッと笑った。


『あたしは緊張してない!!』


 そう言いながら頭突きをかますキーア。ぐふっ。


「ハハ、その体当たりも久しぶりだな。今や加減をしてもらわないと、俺は死ぬけどな!」

『あたし、もうそんな子供じゃないし!』

「アハハ、そうだよな、大人になったよ」


 キーアの頭にしがみつくとそのまま勢いよく持ち上げられ足が浮いた。


「おーい、いつまでじゃれ合ってんだ。そろそろ始めるぞ」


 ログウェルさんのその言葉を聞き、キーアは俺を下ろす。


「はい」




「向かって左側の魔法陣にキーア、右側の魔法陣にリュシュが立て」


 演習場には二つの大きな魔法陣が描かれていた。一つの魔法陣にはキーアが。もう一つの魔法陣には俺が。二つの魔法陣の中心にお互いが立つ。


 その二つの魔法陣を見守るように四隅にログウェルさん、ルニスラさん、ヴァーナムさん、リンさんが立つ。


「中心に立ったらお互い向き合え。そしてリュシュが立つ魔法陣から人気じんきがキーアの魔法陣に送られていく。人気を送ることに集中しろ。雑念は取り払え、余計なことは一切考えるな! 分かったな!」


 語尾を強くするログウェルさん。


 集中、とにかく集中だな。



 魔法陣はなにで描かれているのか、その上を歩いても消えることはなかった。キーアは飛び上がり、魔法陣の中心にゆっくりと降下する。

 俺が魔法陣の中心にたどり着くのと、キーアが着地するのと同時だった。お互い向き合い、頷き合うと、魔法陣が激しく光った。


 眩い光を放った魔法陣は一度光が消えたかと思うと、よく見ると俺の足元が青白く光っている。

 足元に描かれた文字の羅列、規則正しく描かれている罫線。それらを辿って行くように、俺の足元から光り出し徐々に外へ向かって光が流れ出す……まるで血管のようだ……。


 血が体内を巡るかのように、俺から吸い上げた人気を魔法陣という血管が運んでいるのだ。


 そうして光は俺の魔法陣の一番外側の罫線までたどり着くと、今度はキーアの魔法陣の外側が光り出した。


 俺の魔法陣とは逆に進む光。外側から内側へと向かい進んで行く。俺の人気をキーアまで運んでいるのだ。

 中心部までたどり着くとキーアの足元で強い光を放つ。


 光は脈打つように俺から人気をキーアまで運ぶ。魔法陣の周りを緩やかに風が舞う。


 綺麗だな、なんてぼんやりと考えながら、光に照らされたキーアを眺める。


 人気が送られていく感覚が分かる。人気がなにか、とは説明出来ないのだが、身体のなかをなにかが巡っていて、それらが吸い上げられていくのが分かるのだ。


 気持ちがいいような、気持ちが悪いような、そんな不思議な感覚。気を吸い上げられているからか、少しの貧血のような感覚にも陥る。


 これ、俺の人気は足りるんだろうか、もし万が一足らなかったりしたら…………



「リュシュ!!!!」



 ログウェルさんの怒鳴り声にハッとする。


 魔法陣の光がうねうねと不規則に光り出した。


 な、なんだこれ……。


 魔法陣に渦巻く風が徐々に強くなってくる。俺から溢れた人気は青白い光から変色し赤い色へと変化していく。


 うねうねと光る人気。


 キーアの魔法陣までが赤く光り出す。赤く光る人気が不規則にしかし着実にキーアへと流れていく。まるで血のようだ……。


 こ、これは一体……どうなってしまったんだ!

 俺の集中力が……やっぱり俺のせいなのか……。どうしたら良いんだ! どうやったら戻せるんだ!


 魔法陣が乱れていく。激しく風が吹きすさぶ。ログウェルさんたちの焦った顔。


 お、俺はなにをしでかしてしまったんだ!!



「キーア!!!!」



 キーアが赤い光に包まれた。

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