第九十八話 リュシュとキーア

「え!? 試験て竜人化試験のことですか!?」


 あまりの驚きで思わずデカい声で聞き返した。いや、だってさ! そら驚くでしょ!

 竜人化試験って強化係になってしばらく働いてからじゃないのか!? 俺、まだ訓練係だぞ!? まあもう少しで訓練係も一年くらい経つのだが。

 一体どういうことだ、と目を見開いているとヴァーナムさんが苦笑した。


「お前、めちゃくちゃ変な顔になってるぞ?」


「え、だって!」


「ブッ、ハハ、まあな。本来なら強化係に進むべきところだしな」


「ですよね! じゃあなんで!?」


「うーん、まあ、お前、なんだかんだ、訓練係は長いしな。ヒューイ、キーアとの訓練から考えるともう三年近く訓練係にいるようなもんだろ」


「あー、ハハ、そうですね」


 確かに教育係のときからヒューイとは訓練をしていたから、なんだかんだ三年近く訓練係と関わってるんだよな。


「それならもう試験に挑んでも良いんじゃないか、とログウェルやルニスラとも意見が一致した。それに……」


「それに?」


「キーアはお前としか試験は受けないと言っていてな」


「キーアが……」


「キーアもお前を待って訓練係を二年過ごしているしな。そろそろ良いんじゃないかと思ってな」


 キーア……俺を相棒として求めてくれているんだな。なんだか泣きそうになるよ。


「で、お前はどうする?」


 ヴァーナムさんがニッと笑い聞いた。


 竜人化試験……竜騎士になれるかもしれない試験……ドクンと胸が高鳴った。


 竜騎士試験のとき、力のない俺が竜騎士になれるわけないと一度は諦めた。いまだに魔法は使えないし、強くなれたわけでもない。でも……それでも、俺は……諦めたくなかった……。ならば、返事は一つしかない!!



「もちろん!! よろしくお願いします!!」



「ハハ、そう言うと思った。じゃあログウェルに伝えておく。今日の仕事が終わったら詳細を聞きに行け」

「はい!!」



 そうやって俺とキーアの竜人化試験が決まった。



 その日仕事を終えると事務所へ寄り、ログウェルさんから詳細を聞いた。


 以前ルニスラさんに聞いた通り、竜人化試験とは竜が竜人化するために人間と組み挑む試験。

 無事に竜人化することが出来たならば、さらなる強さが手に入るということだった。


「試験自体は大したことはしない。魔法陣の中に立ち、人気じんきを竜に流すんだ。必要なのは集中力くらいだな」

「集中力……」

「あぁ、人気を流すイメージで集中するんだ。雑念は取り払え、余計なことは一切考えるな。それだけだ」

「それだけ……」


 な、なんかよく分からん試験だな。


「失敗することとかあるんですか?」


「…………まあ、ないことはない」


「失敗するとキーアも騎竜にはなれないんですか?」


 それが一番心配だ。俺のせいで失敗してキーアに迷惑をかけたくはない。


「……まあ、なれなくはないんだが……」


 新たな力が手に入らないとかいうやつか? 無事竜人化出来たやつに比べると雲泥の差とか言ってたよな……。


「気にすると余計失敗するぞ! 成功することだけ考えろ!」

「は、はい……」


 バシーンと背中を思い切り叩かれ、吹っ飛びそうになりながらも、ログウェルさんの言う通りだな、と気合いを入れた。




 試験は五日後に行われることになった。


 立会人はログウェルさん、ルニスラさん、ヴァーナムさん、リンさん。


 竜人化試験のときには訓練はなく、竜たちは竜舎で休んでいるらしい。

 試験の場には俺とキーアと立会人たちだけ。



 試験まではキーアとひたすら信頼関係を深めることに集中した。

 一日中キーアとともに過ごす。キーアも俺に甘えるかのように身体を擦り寄せた。


『あたし、リュシュの相棒になる! 竜人化試験が終わったら、もう一度竜化して、絶対リュシュの騎竜になるからね!』

「ハハ、ありがとな。キーア」


 ちっさい頃からキーアを見ている俺としては、これだけ成長した姿を見るのは感慨深いものがある。

 まるで親の気分だな、と少しおかしかった。


 キーアにはよく激突され、ともに空を飛び、身体を洗ったり、食事をやったりと、長く一緒に過ごした。


 すっかり大人になったキーアが激突することはもうないが、俺のなかでは今もあの子供竜の姿がはっきりと思い出せる。



「キーア、ありがとうな」



 再びそう言い、キーアの首を撫でた。キーアは鼻先を擦り寄せた。




 そして、五日後、竜人化試験が始まる……。

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