第九十七話 成長
フェイとアンニーナは改めて城勤務となり、ネヴィルは各地を巡りたいから、とまた別の国境へと向かった。
俺はというと訓練係へ来て最初に驚いたのが、竜たちの一斉飛翔だった。
教育係や育成係では竜たちが小さいので全く知らなかったのだが、訓練係と強化係は竜たちのストレス発散のため毎日決まった時間に、一度だけ好きなように飛んで良いという決まりがあった。
王都へ初めて到着したときに一番驚いたやつだ!
空一面に無数の竜が飛翔していた。あれは圧巻だった。
今日もヴァーナムさんとルニスラさんの合図とともに竜たちが一斉に空へ舞い上がって行った。やはり圧巻だな。
大きく翼を広げた竜たちは思い思いに空へと飛び立ち、そして自由気ままに飛び回る。とても気持ち良さそうだ。
「スゲー……」
空を見上げながら感嘆の声を上げる。
キーアも気持ち良さそうだ。ヒューイも……。
小一時間ほど経つと、ヴァーナムさんが合図の鐘を鳴らした。それに合わせて竜たちは演習場へと戻ってくる。
竜たちはまだまだ飛び足らないのか興奮状態だったが、ヴァーナムさんの怒声で落ち着きを取り戻していた。
訓練係ではキーアに騎乗するのが日課となったが、キーア以外にも乗せてもらえるようになった。
ただ俺は魔法が使えないから魔法での訓練のときはただ見守ることしか出来ないんだけどね。それが悔しかった。
魔法訓練中は見学がてら自分の魔力を感知することに集中してみたが、腹の辺りになにか感じる気はするのだが、それだけだ……やはり自分の魔力を感知することは出来なかった。
なぜ自分には魔力がないのか、腹の辺りで感じる僅かな違和感はコアなのか、いくら考えても答えが出るはずもなく、モヤモヤとした日々だった。
魔法の訓練の見学は見ていると悔しくはなるが、それでも間近で見る迫力ある魔法はただただ感心するだけだった。
ヴァーナムさんとリンさん、それに竜騎士からも三人と、竜の背で魔法を的に向かって放つ。
的は魔導具で出来ており、魔法耐性を付与されているため、どんな魔法を浴びても壊れることはない。
掌より二倍ほどの大きさの球体。それに鳥の翼のようなものが付いている。風魔法も付与されているらしく、翼は意思があるかのように羽ばたき出し、自由に飛び回る。
予測不能な動きをするそれを竜に乗りながら魔法で攻撃をするのだ。
見ていると突発的な動きで軽やかに攻撃を避けて行く魔導具の的。本当に意思があるようだな。
ヴァーナムさんたちの魔法も凄かった。竜に乗りながら、他の竜にも気を配り、さらに的を追う。竜と動きを合わせなければ、魔法を放ったところで的からは大きく外れる。
強大な魔法というより正確なコントロール。竜との動きを合わせながら、的を狙う正確さを求められる訓練。
素早い動きの的を捉える攻撃は見ていて爽快だった。一言で言ってかっこいい!
素早く繰り出される炎弾や雷撃。
おぉぉ、やら、スゲー、やら、アホみたいな感想しか出ないのも仕方ない。なんせ凄いんだよ!
あぁ、くそっ、俺も魔法を使いたい!
この魔法訓練を見学するようになってからは、常に魔力感知を気にするようになってしまった。しかし俺の魔力は感知出来ないままなのだが……はぁぁあ。
キーア以外の竜との騎乗もそれなりに順調だった。我儘なやつ、全く言うことを聞かないやつ、大人しいやつもいた。
しかしそれすら楽しいと思えた。様々な竜たちに乗ることが出来て、次第にその竜たちとの騎乗も順調に違和感なく乗ることが出来るようになると、自分の成長も感じることが出来る。
そうやって順調に日々を過ごしていると、いつの頃からかナザンヴィアの噂を耳にするようになった。
フェイたちから聞いたような話に、さらには第二王子が消えたとの噂まで。以前までは第一王子と第二王子が対立しているという話だけだったはずだ。
それがいつからか第二王子が消えたという噂に変わってきた……これは……第二王子が殺された……?
本格的にヤバいやつなんじゃ…………カカニアは大丈夫だろうか…………。
フェイたちが持ち帰った情報は城外部には漏れないように箝口令が敷かれていた。だからラナカたちには言えない。
万が一本当にナザンヴィアが攻めて来るなんてことがあれば、真っ先に被害が出るのはカカニアだ。不安で仕方ない……。
そんな不安を打ち払うかのように俺は必死に訓練と魔力感知を続けた。
「お前も随分体力がついたよな」
ヴァーナムさんからふとしたときに言われた一言。
「そうですか?」
「あぁ、まだここに来たころはちょっとした作業ですぐにへばっていただろうが」
「あー、ハハ、そうですね」
確かに体力はついた気がする。いくら訓練しようが力も魔力もない俺でも、ほんの少しずつだけでも成長しているようだ。
毎日竜に乗っているだけでも、最初は疲労感があったものだが、今はかなり長く乗っていてもそれほど疲れない。高所にいることで心肺機能も高まったのかもしれない。
毎日短剣を使い魔導具の標的を叩き落とすことにも慣れ、腕のほうが跳ね返されることなんてこともなくなった。
魔法はいまだに使うことは出来ないが、それでも着実に自分の成長は感じる。それだけでも嬉しかった。
「強化係で試験を受けるか?」
ヴァーナムさんが突然そう言葉にした。
「え!?」
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