第九十六話 ナザンヴィアとの関係
「ふざけるのも大概にしていただきたい! 我々は傍観することをお約束したが、協力するとは言っていない! 我々を巻き込むおつもりならナザンヴィアを攻め入っても文句はないということですか!」
珍しく声を荒げるマクイニスにクフィアナは驚くが、今までナザンヴィアから行われてきた行為を考えるとそれも致し方ない、とも思うのだった。
「巻き込むつもりなど毛頭ない! 私は貴女方を信頼しているのです! だからこそお願いしたい! ナザンヴィアを正しい道へと導きたい……過去の過ちは消すことは出来なくとも、これからのナザンヴィアを平和な国へと導きたいのです……だからこそ活動の制限がない場を提供いただきたい」
過去の過ち……竜たちを支配していたことを言っているのだろう。クフィアナは過去を思い出したくはなかった。
建国の英雄と称えられていることすら耐えられなかった。自分は王など相応しくないのだ、と鬱々な気分にさせる。
何百年経とうがナザンヴィアは常にきな臭い話が上がってくる。だからと言って同盟を反故にされ、攻めて来たことは一度もないのだが。
最近のナザンヴィアはそれすら信用出来なくなるほど怪しげな動きになって来た。
それをどうにかしようとこの第二王子が奮闘していることは理解をしている。しかしそれを鵜吞みにし協力しても良いものか。マクイニスを始め、いまだにナザンヴィアをよく思っていないものは大勢いる。
ラヴィリーグがドラヴァルアとの同盟のために動いていることが分かっていたとしても、国内でこのような不穏分子を放置することに国民は納得するのだろうか。
クフィアナには決断する決め手がなかった。
◇◇◇
演習場にフェイたちが戻って来た。
「報告は終わったのか?」
「あぁ、一応ね……」
「一応?」
「う、ん、まあいずれ広がるだろうからリュシュにも話しておくよ。今晩食堂で一緒に食べよう」
「? あ、あぁ、分かった」
なにやら神妙な顔付きの三人に疑問を覚えながらも、竜たちの世話を一通り終えると、夕方寮でフェイとネヴィルと合流した。
ディアンにはアンニーナが外で会って話をするそうだ。
そんなに大事な話か……なんなんだ、一体。
「あー、なんだかよく分からんが、とりあえずおかえり」
「あ、うん、ありがとう」
「おう」
フェイもネヴィルも笑った。夕食を食べながら国境での話を聞く。
国境の砦はどうなっているやら、宿舎はどうだやら、食堂がまずくて大変だったやら、様々な話を楽しそうに話すネヴィルに相槌を打つフェイ。
「そういえば休日にカカニアにも行ったよ」
「お! そういえばディアンから聞いたな、どうだった? 俺の村! ラナカにも会ったか?」
「うん、とっても強い人だね」
「あー、あれは強い女だったな」
フェイがそう言うとネヴィルも思い出すようにうんうんと頷いた。
「ん? 強いってなんか試合でもしたのか?」
「あー、うん」
「お前の姉ちゃん、面白いよな! リュシュの友達だって話をしたら、いきなり試合を申し込んで来たぞ、アハハ」
「えー…………」
な、なにやってんだよ、ラナカ……。
どうやら村へ遊びに行き、散策をしていると偶然ラナカに会ったらしく、話をしているうちに俺との関係を知り、お互い自己紹介をしたと思ったらいきなり試合をしようと声を掛けられたらしい……。
フェイ、ネヴィル、アンニーナ、と三人連続で魔法込みの試合をし、フェイには負けたがネヴィルとアンニーナは引き分けで終わったらしい。
「な、なんかごめん」
「ハハ、いや良い経験になったよ」
「うんうん、あれは竜騎士でもやっていけるよな! 村にずっといるなんてもったいない」
ラナカなら確かにすぐ竜騎士試験受かるだろうなぁ。それほど俺から見ても強かった。フェイはネヴィルの発言を少し気にする素振りを見せたが、俺が全く気にしていない様子を見ると安心したようだった。
俺もこの二年で成長したからな! そんなことはもう気にしない! 俺は俺のやり方で竜騎士を目指すんだ! 育成課の仕事にも誇りを持っているし、色々経験をしてきたと思ってる。強くなれたかは……まあ、置いといて……。
「で、そういえば報告へ行った内容ってなんなんだ?」
神妙な面持ちで報告へ向かった竜騎士たち。戻って来てからもわざわざこうやって落ち着いてから話そうとするということは、軽い話ではないのだろう。
「うん、国境にいたときにナザンヴィアの情報が入ったんだ……」
そうして俺はナザンヴィアの状況を聞いた。
「ないとは思うが…………今すぐでないにしろ……もしかしたら戦争が起こるかもしれないな……」
フェイもネヴィルも眉間に皺を寄せ暗い表情になり、先程までの楽しい雰囲気ではなくなり空気が重くなった。
なんだろう、気持ち悪い。ナザンヴィアの悪い噂を聞くと不快になる。
「リュシュ、大丈夫?」
「え?」
「真っ青だぞ?」
フェイとネヴィルは顔を覗き込んで来た。
「あ、あぁ、大丈夫…………でも……どうなるんだろう」
「「…………」」
戦争になるほどナザンヴィアとの関係が悪化しているとも思えない……そう信じたい。
一抹の不安を覚えながら、その日は眠りに就いたのだった。
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