第九十二話 大きな一歩

「うーん、魔力が卵の中を渦巻いているようなんですけど、それが原因なのかどうなのか……」


「ふむ、親のほうはどうだ」


「親ですか?」


 ディアンは言われるがままに番竜に目をやる。そして魔力感知を。


「リュシュ、君もやってみろ」

「なにをですか?」

「アホか! 魔力感知だよ!」

「うぐっ。は、はい!」


 シーナさんに言われた通り、番竜の魔力感知を行ってみる。


 集中……集中……


 じっくりと身体のなかを伺うように探っていくと、コアと呼ばれる魔力の源を感じる。そしてそこから魔力がモヤモヤと身体のなかを巡っている?


「ん?」

「なにかわかったか?」


 俺の反応にシーナさんが聞いた。ディアンも俺と同じように感じたようだ。


「魔力が身体中を巡っています……変だな、いつもなら魔法を放出するときに流れがあるだけなんだけどな」


「それだ!」


 シーナさんがバシーンと背中を叩いた。ぐふっ。


「けほっ。そ、それって……?」


「鈍いやつだな、ディアンは分かるか?」


 グサッ。鈍いやつって……。


 ディアンは少し考えた後発言した。


「卵も親も魔力が身体中を巡っている……お互いの魔力が反応し合っている?」


「半分正解って感じだろうな」


「「半分?」」


 ディアンと顔を見合わせる。半分とはどういうことだ?


「リュシュ、親に卵を温めるように言ってくれ」

「え? は、はい」


 言われるがままに雌の竜に卵を温めるようにお願いする。竜はそっと卵に寄り添った。


「もう一度親の魔力感知をして魔力の流れを追ってみろ」


「「?」」


 ディアンと二人で疑問に思いながらも、雌の竜の魔力感知を行った。


「「あっ!!」」


 雌竜の身体中を巡っていた魔力は、一定方向に流れ出していた。


 そう、卵に向かって……。


 コアから生まれた魔力は先程まで行き場がなく身体中を巡っていたようだ。卵に触れた途端魔力が一斉にそちらへと流れて行く。そしてそれらの魔力は卵のなかへと吸い込まれるように吸収され、卵のなかで目一杯渦巻いているのだ。

 そして少しずつ少しずつコアに吸収されていく。


「だから番竜が温めると無事に産まれるのか! 卵が孵化するには親からもらった魔力がないと駄目なんだな!」


「いや、それが原因かはまだ分からん」


 ガクッ。


「え! なんでですか!?」


「実際野生の卵でその流れを確認してみないことにはな。もしかしたら魔力は全く関係ないのかもしれないし。今の段階では断言は出来んな。あくまでも可能性の一つだ」

「うぅ、そうなのか……せっかく原因が分かったと思ったのに……」


「でも、かなり前進しましたよね! 今度野生の卵が見付かるようなことがあれば、とにかく魔力の流れを感知してみましょう!」


「あ、あ、あ」


「「あ?」」


 なんだ? なんの音だ? 周りをキョロキョロと見回すと、号泣したハナさんが壊れたおもちゃ状態だった。


「ありがとうございますぅぅぅうう!! 可能性の話だとしても、今までなにも分からなかったのに希望が出て来ましたよぉぉ」


 ハナさんは涙や鼻水やらもう大変なことになり号泣し続けている。

 ハハハ……ディアンも苦笑している。


「今後もし野生の卵が見付かった場合、とりあえず番のやつに温めさせることだな!」

「はいぃぃぃい!」


 シーナさんはハナさんの号泣にも動じない。さすがだ。




 そうやって野生の卵が次に見付かったときの方針が決まり、ロキさんにも報告しに行くと心なしか安堵したように見えた。


 ハナさんはそんなロキさんの様子に再び涙を流していた。俺とディアンは何度も何度もお礼を言われ、ディアンは困った顔で苦笑した。


 手放しで喜べなくとも大きな一歩! ディアンと俺は清々しい気分で笑い合った。




 そして、それからしばらく経った後、俺は訓練係となった。

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