第八十六話 行方
「ないじゃん!! ど、どうするよ、これ!!」
「…………、とりあえず周りの店に聞いてみるか」
以前は恐らく飲み屋だったのだろう、という空き家。窓からは中が見えるが、もう長い間使われていなかったかのような廃れ具合。こ、これ……いや、余計なことを考えるのはやめとこう。
ディアンと二人で手分けして周りにある店や人家に聞いて回った。しかし大体返ってくる答えは……
「ん? そこの店? かなり昔に店を閉めていたぞ? 店主の行方? さあ……知らないなぁ」
ほとんどがそんな答えだった。
「マジかよ……みんなレグアさんの行方を知らないんだな……どこに行ったんだよ」
深い溜め息が出た。
ディアンは神妙な面持ちだった。
「もう少しだけ聞き込みをしてみよう」
「……分かった」
あれだけ聞き回っても答えはどれも同じだった。でも……ディアンは諦めきれないよな。うん。もう少し頑張ってみるか。
聞き込む範囲をもう少し広げ、さらに聞いて行くと、店の奥さんの話が出て来た。
少し離れた場所に住むおばあさん。足腰が立たなく軒先で椅子に座りひなたぼっこをしていた。その家の奥さんと話しているうちに、そのおばあさんから懐かしい話をするように飲み屋の奥さんの話が出て来たのだ。
「あの店の奥さんはねぇ、とっても器量よしでねぇ、気立ても良いもんだから街の男たちに人気があってねぇ。レグアさんと結婚するまではあの店の看板娘だったんだよ」
おばあさんは微笑みながら懐かしそうな顔。
「レグアさんがやって来るようになってからは男たちで争奪戦が始まったよ、アハハ」
「そ、争奪戦……」
「争奪戦に勝ち残ったレグアさんが彼女と結婚して、二人であの店を継いだんだよ」
「そ、それで、あの、二人の行方は?」
なかなか話が進まずじれったい。
「二人で店を切り盛りして繁盛してたよ。まあほとんどは奥さん目当てだったかもしれないけどねぇ、ハハハ」
お、おばあさん! それはもう良いから行方を!! と思わず口に出そうになったが、苦笑したディアンに止められた。
「ずっと繁盛していたんだよ……でもね、ある日を境に急に店を閉めちまったのさ」
「「えっ」」
「なんで!?」
おばあさんは少し寂しそうな顔をした。
「どうやら奥さんがね、病気になってしまったらしくてね。それでレグアさんはずっと付きっ切りで看病していたようだよ。でも駄目だった……」
「「…………」」
「奥さんは亡くなってしまってね。それからレグアさんが店を再開することはなかったよ……」
「…………」
「おばあさん、レグアさんが今どこにいるかご存知ないですか?」
「さあねぇ……奥さんが亡くなってからは誰も姿を見てないようだし……」
「そんな……」
結局、なんの手掛かりもないじゃないか。ディアンをチラリと見ると悔しそうな顔。あぁ、どうしたら良いんだ。
「あぁ、レグアさんがどこにいるかは知らないが、奥さんのお墓はあの店からそう離れていない場所にあるよ」
「「お墓……」」
ディアンと顔を見合わせた。うん、なんの手掛かりもないし、とりあえず行ってみるか!
おばあさんにそのお墓の場所を聞き向かってみる。なにかあるわけでもないだろうが、今はそれしか情報がなかったから。
おばあさんにお礼を言い、教えてもらった場所へと向かう。店からさらに大通りとは逆方向へと進み、細い階段をひたすら上に昇って行くと、崖のようになった少しだけ広くなった平地が現れた。
奥には森が広がり、その手前の崖からは王都の街を一望出来る。ディアンの叔父さんの店よりもさらに高い位置にある景色。絶景だ。
その平地には一つの墓石が置かれていた。
街の絶景を眺められるようにここへ建てられたのだろうか。墓石にはおばあさんから聞いた、レグアさんの奥さんの名が彫られていた。
「リュシュ」
「? どうした?」
ディアンの視線の先には墓石に手向けられた花束があった。
「誰かお参りに来てるんだな」
「うん、それも最近」
「最近?」
「この花、生花だろ? ということは、最近手向けられたんだよ」
「なるほど、確かにな」
生花ならばすぐに枯れてしまう。しかし今目の前にある花束はまだ瑞々しい。
「なにか手掛かりがないかな」
ディアンと周りを捜索してみることにした。ディアンは墓の周りを、俺は背後にある森のなかを少し探してみることにした。森のなかになにかあるとも思えないが一応ね。
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