第八十五話 王都探索

 ヤグワル団長にレグアさんの店の場所を聞き、シーナさんを振り切り、とりあえずディアンと寮の食堂で今後のことを話し合った。


「俺は明日すぐにでも行こうかと思うんだが、リュシュはどうする?」

「俺も一緒に行きたいとは思うけど……仕事をどうするかな。一度育成課に戻って相談してみるよ」

「分かった」


 外出の許可が出たら、翌日朝にディアンの寮へと行く、と約束をしてその日は別れた。


 ディアンと別れたあと、再び育成課に戻ると予想通りロキさんがまだ残っていた。きっとロキさんは遅くまで、下手すると泊まり込みで働いているんだろうな、と思ってた。

 俺やディアンやハナさんにはミントの赤ちゃんが産まれた時点で、寮へ戻って休め、とか言ってくれてたのに、自分は全く休まないんだもんな。ちょっと心配になるよ。


「ロキさん」


 赤ちゃん竜たちが寝静まるなか、小さな灯りで様子を確認しているロキさんに、小声で声を掛けると、驚いた顔でロキさんは振り向いた。


「なんだ、お前、ログウェルや団長に話を聞きに行ったんじゃなかったのか」


「聞いて来ました。そのことで相談が……」


「?」


「明日休ませていただけないかと……」


 ログウェルさんは何も知らず、ヤグワル団長に話を聞きに行ったこと、レグアさんは王都にいるらしいこと、を話した。そしてディアンと共に明日王都へレグアさんを探しに行きたいことを話し、仕事を休む許可をお願いした。


「…………分かった、行って来い」


「ありがとうございます!」


 ロキさんにお辞儀をし、そのまま寮へと戻った。


 寮の風呂へ入りながらロキさんのことを思い出す。


 俺たちがこうやって野生の卵について調べ回っていることにロキさんは反対しないけど……、あの複雑そうな顔……やっぱりなにか思うところがあるんだろうか。

 ロキさん自身、野生の卵が死んでしまうことはやはり辛いだろうしな……。俺なんかより今までたくさんそういうことも経験してきただろうし……。


 ロキさんだって時間があれば調べたいのかもしれない……、でも見ていると……ロキさんは生きているもののことを考えるほうを優先している気がする。死んでしまったものは戻らない。それよりも今生きているものたちを一生懸命に考える。それも大事だよな……。


 でもディアンの気持ちも分かるんだよなぁ。やはり目の前で死んでしまうとショックだし辛い。どうにかして生かす方法はなかったのか、と考えてしまう。ましてや二度も目の前で死んでしまった姿を目の当たりにするとそう思うのは当然だと思う。


「どっちの考え方も分かるんだよなぁぁあ」


 深い溜め息を吐き、湯舟にぶくぶくぶくと潜った。ぐるぐると考えている間にかなりの時間が経っていたらしく…………のぼせました……。




 翌朝、ディアンが住む寮へと迎えに行った。

 エントランスに入ると俺たちが住む寮よりもさらに広いがほぼ同じ造りの景色が広がった。


「おぉ、ひっろいな!」


「ハハ、なに驚いてんだよ、一緒だろ?」


 振り向くとディアンがにこやかに近付いて来た。朝から爽やかだな、おい。


「いやぁ、一緒だけど、人数が違うだろ?こっちのほうが広いよな」


 俺たちが住む寮は竜騎士たちと育成課のメンバーだけ。こちらの寮はそれ以外の城で働くものたち皆の寮だ。そりゃ、規模も違うってもんだ。

 以前食堂にだけ入ったことはあるが、あのときはディアンと話しながらだったからあんまり広さとか覚えてないんだよな。


「今日休みの許可もらえたんだな」

「あぁ、ロキさんに経緯を説明してきた」

「そっか…………。さて、じゃあ行くか!」

「おう!」




 城門を通り抜け、王都まで!! ヤグワル団長に聞いた、レグアさんの店を目指す!


 城までやって来るときはひたすら上り坂のため、息を切らしながら歩いていたが、王都へ向かうのには楽なもんだ。膝は痛くなるけど……。


 城への大通り一本道を下って行くと、徐々に店や居住の建物が増えて行く。道すがらディアンとあれこれ店を覗きつつ、目的地を探す。


「場所分かるか?」

「うーん、こっちで合ってると思うんだけどな」


 ヤグワル団長に聞いた番地を目指し、ひたすら歩く。しかしこの王都、山の麓に広がった街。あちこち高低差はある上に道が細く入り組んでいるため、かなりややこしいのだ。


 ディアンの叔父さんの店に行くのも、かなり入り組んだ道を上がった先だった。その叔父さんの店とは全く違う方向へ歩いて行く。


 大通りから脇道に逸れ、細い道を進むとさらに脇道に入る。一度下ったかと思うと今度はまた階段を昇って行ったり……。


 そうしてたどり着いた裏路地の飲み屋は…………なくなっていた…………。


 えぇぇえ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る