第七十五話 決別

 翌朝、シーナさんを残し、俺たちは王都へと帰る。


 早朝、朝食を終えたあと、ヒューイたち竜の準備をする。ヤグワル団長はキアフスさんとなにか話している。シーナさんはというと相変わらず竜たちをあちこちさわさわ。ついでに俺までさわさわされた。ちょ、ちょっと!

 全員顔を逸らしてやがる。おい。


「では、王都へ戻るぞ!」


 ヤグワル団長の号令とともに全員が竜へと乗り上げる。ディアンは竜騎士と一緒に。


「では、キアフス殿、失礼する!」


「えぇ、皆様、ありがとうございました」


 キアフスさん、シーナさんが見送るなか、竜は一斉に羽ばたき一気に上空へと舞い上がった。




 行きと全く同じ航路を飛ぶ。一人の竜騎士を先頭にヤグワル団長、竜騎士たち、そして竜騎士に連れて来てもらったディアンと先輩治療師。その後ろにフェイたちと俺。

 帰りは三人の竜騎士が増えた形だ。


「休憩も挟まず一気に戻るぞ!」


 ヤグワル団長がそう叫び、行きに軽食を食べた岩場をあっという間に通り過ぎ、王都へと帰る。




 王都へと戻る連絡は入れてあったのか、演習場上空へと着くと、眼下には竜騎士たち以外にもログウェルさんたち育成課のメンバーも出て来てくれていた。


「おかえり!」


 ログウェルさんがすぐさま駆け寄って労ってくれた。


「はい! ただいまです!」

「どうやら色々あったようだな、無事で良かったよ」


 肩に手を置きホッとしたように言う。もうすでに報告があったんだな。


「ご心配おかけしました」

「いや、まあ無事だからよし!」


 アハハ、とログウェルさんは笑う。他の皆もどんなだったんだ、と興味津々だ。


「話も気になるがとりあえず竜たちを休ませるぞ。リュシュ、お前も仕事は明日からでいいからもう休め」

「ありがとうございます」


 ログウェルさんたちは竜騎士たちの竜を竜舎へと連れて行く。


「ヒューイ、お疲れさま! お前もゆっくり休めよ?」


 そう言い首元を撫でると、じっと見詰めて来た。ん? なんだ?


「どうかしたか?」


『お前は俺の相棒じゃない』


「ん? う、うん、そうだな」


 相棒になってみたいが、所詮俺は育成課だ。竜騎士の試験を受けられるのはまだまだ先の話。しかしヒューイはあと一年も経てば竜騎士の竜になる試験が受けられるだろう。俺と相棒になれるはずがない……寂しいけど……。


『…………俺は竜騎士の竜になる…………』


 ヒューイの顔を見上げた。ヒューイは真っ直ぐ俺を見詰めた。


「今回の討伐で気持ちが固まったか?」


 竜だし表情が分かるわけではない。でも……真剣な眼差しを向けているのは分かった。俺もちゃんと応えないとな。


「正直、ヒューイとの騎乗は俺にとって大事だよ。ヒューイとは相性が良いと思ってる。でも俺は育成課だから…………」


「この先、お前は竜騎士の竜になるべきだと思ってる。だからこそ、……俺じゃ駄目なんだ」


 真っ直ぐヒューイを見詰めた。


『俺はお前じゃないやつを乗せる』

「あぁ」


 精一杯笑顔を作った。あぁ、ヤバい、泣きそうだ。駄目だ、我慢だ。

 ヒューイは真面目に俺に伝えてくれたんだから。

 本当なら別に相棒でもない俺にそんなことを伝える必要なんてないのに。


 それだけ俺のことを特別に思ってくれていたんだと、そう思えた。ちょっとくらい自惚れても良いだろう。


「頑張れよ、ヒューイ」


 ヤバい! 涙が落ちそうになるのを誤魔化すために、ヒューイの首元に抱き付いた。


「頑張れ」


 ぎゅっと抱き付いたヒューイは温かかった。


 それからヒューイは何も言葉にしなかった。






 それからも教育係を続け、働き出してから一年が過ぎようというころ、キーアたちもすっかり大人と同じ体格になっていた。


「お前らでっかくなったよなぁ」


 もう激突されることもさすがになくなったが、いまだに頭突きをされたり頭で小突かれたりとまだまだやんちゃな子供といった印象だ。


 もう教育係の部屋では窮屈になって来ていたため、そろそろキーアたちも訓練係に移動しようという話が出た。


「それに合わせて、リュシュ、お前も育成係に異動するか?」


 ログウェルさんから打診があった。

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