第六十八話 討伐前夜
ブツブツと文句を言いながらもいつも最後にはこちらの言うことを聞いてくれるヒューイ。
とりあえず少し反抗してみたいだけか、と少しおかしくて笑った。
顔を背けたままのヒューイの首元を撫で屋敷へと戻った。
「なんかまた叫んでたけど何してたわけ?」
「え、あー、ヒューイと喧嘩してた」
「は? 喧嘩!?」
「うん、アハハ」
竜と喧嘩するなんて信じられない、とアンニーナは目を丸くした。
「それよりも明日どんな作戦になったんだ?」
「あー、うん、ヤグワル団長から説明があるかと思うけど……」
そう言いながらアンニーナは簡単に一通りの流れを教えてくれた。
明日の作戦はこうだ。
・二人の竜騎士が囮に海面ギリギリを飛ぶ
・二人を狙って海面に現れたバレイラシュを残りの三人で攻撃
・囮の二人は再び潜られないよう、海面ギリギリのところから攻撃
「ざっとだけどこんな感じかしら。細かくはどういった攻撃をするか、とか話してたわね」
基本的にはフェイ、アンニーナ、ネヴィルは上空で待機。
万が一のときのために臨戦態勢を。
それだけ聞いたところで食堂らしき部屋へと着いた。
扉を開けると長テーブルがあり、すでにヤグワル団長始め、キアフスさん、竜騎士たち、フェイやネヴィルも着席していた。
「竜の世話ありがとうな。席に着け」
ヤグワル団長はニッと笑い視線で着席を促した。
ぺこりと会釈し入口に一番近い席に座る。アンニーナも隣に座った。
「明日はよろしくお願い致します。皆様がご無事であられますように」
キアフスさんがそう告げると料理が運ばれて来た。
ヤグワル団長は食事を取りながら、先程アンニーナに聞いたような作戦内容をキアフスさんに説明している。
俺はというとその話を聞きながらも料理に釘付け。
めちゃくちゃ豪華な食事! なんだこりゃ! でっかい皿に何やらちょっぴりの綺麗な料理!
ナイフやフォークがいっぱいある! どれ使ったら良いんだ、これ!
アワアワしながら横に座るアンニーナをチラリと見るとアンニーナも戸惑っていた。ついでにネヴィルもアワアワしている。良かった、俺だけじゃなかった!
「こ、これ、どのフォーク使ったら良いんだ?」
コソッとアンニーナに聞くが、アンニーナも苦笑。
「わ、分かんない」
「両端から使っていったら良いよ」
フェイが小声で教えてくれる。あからさまに表情が明るくなったネヴィルに笑いそうになりながらも、アンニーナも俺もホッとして料理を食べ始める。
「ありがと、フェイ」
小声と視線でお礼を言うとフェイはハハ、と笑った。
普段はこれほど豪華な食事ではないらしいのだが、来客用にもてなしの料理を振る舞うのだそうだ。だから来客があるとキアフスさんたちも豪華な食事を食べることが出来ると笑っていたそうだ。
悪戦苦闘しながらも豪華な料理を堪能していたが……、料理の衝撃ですっかりヤグワル団長の話を聞きそびれてる!
慌てて話に集中……と思ったのに、話終わってるし!!
すでに雑談になってる!! えぇ……。
ま、まあ俺は参加しないしね……邪魔にならないよう離れたところでじっとしときます。
ヒューイが暴走しないようにだけは頑張るかな、ハハ。
豪華な食事を終え、各自用意された部屋へと解散した。
明日朝から討伐開始だ。
ヤグワル団長は一人部屋、竜騎士たちは二人部屋を二部屋、フェイとネヴィルは二人部屋、俺とアンニーナは一人部屋……だったんだけど、一人も寂しいし、と思ってフェイとネヴィルの部屋に簡易ベッドでお願いしてしまった。アハハ。
「明日大丈夫かな」
ベッドに横になり、すでに寝る体勢になりながらボソッ呟いた。
大丈夫だとは思うのだが、予想以上の大きさの相手。何が起こるか分からない。しかも初めて戦闘をこの目で見ることになるのだ。相手が海獣とは言え、やはり不安にはなる。
皆が無事であってほしい。
「ヤグワル団長は最強だからな! 大丈夫だろ!」
ネヴィルは明るく言った。
「うん、きっちりと何の魔法で攻撃をするか細かく作戦を練っていたからね。きっと大丈夫だよ」
フェイもネヴィル同様力強く言い切った。
「うん……そうだな」
不安な気持ちはまだあるが、ヤグワル団長と竜騎士たちの戦闘を見守るだけだ。
そして翌朝、昨夜と同じ食堂で朝食をいただき、竜たちの準備を整え海へと出発!
キアフスさんに見送られながら、ヤグワル団長を先頭に空高く舞い上がった。
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