第六十七話 喧嘩
竜たちから積み荷を降ろし、身軽にしてやると竜たちはブルルと身体を振るわせた。
「行くぞ!」
颯爽と竜に乗り上げ、一気に上空へ。キアフスさんはその素早さに驚くだけのようだった。俺も驚いていたが……。さすがだよな、決断が早い上に素早く行動。唖然としていたら置いて行かれてしまう。ヒューイは再び動きがあったことに鼻息が荒いが。
すでに日が沈みかけている。夕陽が眩しい。早くしなければ真っ暗になってしまい海の中を泳ぐ鯨など見付けられないだろう。
ヤグワル団長を先頭に竜騎士たちはとてつもない速度で飛んで行く。フェイたちも必死に付いて行っている様子だ。
「ヒューイ! 大丈夫か!?」
『はっ! 誰に言ってやがる!』
そう叫んだヒューイはさらにグンと速度を上げた。
うおっ! ヒューイの速度に身体の踏ん張りが利かず思わず後ろにのけぞってしまった。危ね、振り落とされるところだったよ。慌てて前傾姿勢に。手綱を握り締め、振り落とされないよう、身体を低くする。
ビュォォォォォオオ!!
風を切り裂く音が耳にうるさい。目も開けていられなくなりそうだ。ゴーグルを買っておくべきだったな、と少し後悔中だ。
物凄い風圧を受けながらも、薄目で前を飛ぶヤグワル団長を確認する。かなり前方を飛んでいるため、小さくしか見えないが、ヤナの港から沖合に向かい飛び始め、しばらくすると急停止するように空中を回転した。
それに気付いた竜騎士たちも慌てて旋回をし、その場に留まる。
「下だ!!」
ヤグワル団長が叫んだ。
俺たちも急旋回でその場に留まり、ヤグワル団長が指示した海面を見た。
日が沈みかけ、海の色も暗い色に変わり出しているため、確認しづらいが……、そこには真っ黒の巨大な塊の影が見えた。
「で、デカい……」
キアフスさんが言っていた通り、三階建ての建物を五倍にした……いや、それ以上か? 半端なくデカい影が見える。
その影がゆっくりと泳いでいるのか波を立てながら移動している。そして海底へと潜ってしまったのか、その影は小さくなり、そして見えなくなってしまった。
上空から見ただけでもあの大きさ……、この人数で対処出来るのだろうか。竜騎士たちに目をやると、少し焦りの色が見える。ヤグワル団長はというと、竜騎士たちほどの焦りは見えないが、眉間に皺を寄せ難しい顔をしていた。
「恐らく今のやつが、ここ最近海を荒らしているやつだろう! 大体の大きさは分かったから、とりあえず戻るぞ! 戻ったら明日の作戦を練る!」
そう言うと再びキアフス邸へと戻るのだった。
ヒューイたち竜は広い敷地内の一画を借り、そこで休むことになった。竜騎士たちとフェイたちは明日の作戦のため、屋敷内で話し合い中だ。
俺はというとどうせ討伐に参加出来ない上に、役立たず、さらには足手纏いになるわけにはいかないので離れたところで見学だ。作戦を聞く必要もないだろうと、竜の世話を買って出た。まあ育成課だしな! 当然俺の役目だろ! ……と、言い聞かせてみる。
「はぁぁあ、やっぱり参加したかったよなぁ」
『参加したら良いだろうが!』
ヒューイたち竜の食事の世話をしながら、やっぱり参加出来ないのが悔しくて溜め息が出てしまった。それをヒューイに突っ込まれる。
「だってさ、俺、竜騎士じゃないし。しかも弱いし。見学だって言われてるし……」
『ケッ! そんなの関係あるか! やる気の問題だろうが! せっかくここまで来てただの見学で終わるつもりかよ!』
「…………」
そんなこと言われても仕方ないだろうが! とキレそうになったが、ヒューイからしたら俺は言い訳ばかりなんだろうな……。もっと自分から積極的に参加をお願いしたら良かったんだろうか。
『なんだなんだ、お前ら喧嘩かぁ?』
竜騎士たちの竜がドスドスと群がって来た。いや、だからデカい身体で囲むな!
『喧嘩じゃねー、喧嘩にもなりゃしねー』
「うぐっ」
くっそー、ヒューイに言われ放題が悔しいのに言い返せない自分に腹が立つ!
「じゃ、じゃあヒューイだって普段からもっとやる気出しとけよな!」
『なんだと!?』
ギロッと睨まれ怯むが、ここは言わせてもらう!
「そもそもお前が普段やる気出してないから、今回ここまで来ることになったんだろうが! こっちに来てから面白そうだからって急に態度変えやがって!」
い、言ってやったぞ! なんとか言い返してやったぞ!
『あ、当たり前だろうが! 普段の訓練なんか、俺はしなくても十分やれるんだよ!!』
「訓練てのは出来る出来ないの問題じゃねーんだよ!! 普段から繰り返し鍛えるのが訓練なんだよ!! お前のは怠けてるだけだろうがー!!」
『うるせー!! 俺はやりたいようにしかやらないんだよ!』
「それが我儘って言ってんだー!!」
『まあまあ、落ち着けよ』
『良いぞ~! もっとやれやれ!』
ぜーぜー言いながら言い合いを繰り広げていると、他の竜たちが宥めるやつやら煽るやつやら……、収集つかねー……。
「と、とりあえず今回は喧嘩してる場合じゃないし! 参加出来なくてもしっかり見学するんだよ! 分かったか!」
『ふん』
くっそー、腹立つ!
「リュシュー! キアフスさんが夕食を用意してくれたわよー!」
アンニーナが屋敷の入口辺りから大声で呼ぶ。
「じゃあな! 明日頼むぞ!?」
『…………』
「た、の、む、ぞ!?」
ヒューイの頭をグイッと掴み、言い聞かせるように目を合わせた。
『分かってる!』
そう呟いたヒューイに笑ったのだった。
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