第六十九話 討伐開始!

 ヤグワル団長を先頭に沖合へと飛ぶ。するとヤグワル団長が急停止した。


 な、なんだ!?


 慌てて皆が急停止する。


「まずい! 街に近いぞ!」


 ヤグワル団長が叫び指差した方向の海面を見ると、街からそれほど離れていない海面に巨大な黒い影が見えた。

 その影は勢いよく海中から飛び出したかと思うと唸り声を上げて、頭から巨体を海面に叩きつける。激しい水飛沫が上がり、波となって港に押し寄せる。

 ヤグワル団長や竜騎士たちは慌ててその水飛沫は回避したが、港には激しい波が打ち付けてしまった。港にいた人々の悲鳴が響き渡る。


「フェイ! アンニーナ! ネヴィル! お前たちは港にいる人間を避難させろ!」

「「「はい!!」」」


 ヤグワル団長が叫んだその言葉にフェイたちは一時港に戻る。


「ヒューイ! 俺たちも手伝うぞ!」

『あぁ!』


 俺とヒューイもフェイたちに続いた。チラリと振り返りヤグワル団長たちを見ると、すでに作戦は開始しているようだった。

 二人の竜騎士が海面すれすれを飛び、そして俺たちとは真逆に飛んで行く。


 そのままバレイラシュを街から離すのか!


 黒い影は海面から飛び出し黒い山の塊となり、二人の竜騎士たちに体当たりをしようと再び水飛沫を上げている。そのたびに波が押し寄せるが、物凄い速度で離れて行くため、街へ波が届くのは時間がかかりそうだ。


 その間に! と、フェイたちは急ぎ港へ。港の上空で旋回し叫ぶ。


「皆さん!! 港から離れてください!! バレイラシュが港近くにいます!! 波の被害があるかもしれません!! 避難を!!」


 四人で大声を張り上げていると、それに気付いたキアフスさんが手を上げて了承の意思を示した。


「よし、ここはキアフスさんに任せよう! 戻るぞ!!」


 ネヴィルが叫んだ。再び俺たちはヤグワル団長たちを追いかけるべく、沖合に向かって速度を上げて飛んだ。


 俺たちの今現在出せる最高速度。物凄い風圧を受けながらヤグワル団長たちを探す。


「いたぞ!!」


 ネヴィルが叫んだ先に見えたものはすでに戦闘を始めていたヤグワル団長たちだった。




 囮の二人が海面すれすれを縦横無尽に飛び回っている。見事にバレイラシュの体当たりを避けながら。しかも潜られてしまわないように魔法で攻撃をしている。


 一人の竜騎士は自らが氷の魔法でバレイラシュの周りの海面を凍らせている。とてつもない大きさのバレイラシュの周りを凍らせるには限界があった。身体の半分ほどしか凍らせることが出来ていない。

 そのためすぐに氷は割られてしまう。そこへすかさずもう一人の竜騎士が雷撃を海中に放ち、バレイラシュの動きを止める。しかしそれもあの巨体の動きを完全に止めることは敵わない。

 すぐさま再び暴れ出すバレイラシュ。囮二人の竜たちも同様に氷と雷撃でなんとか動きを止めようと繰り返している。


 二人と二匹の攻撃でなんとか逃げられずにいる間に、上空からはヤグワル団長と二人の竜騎士たちが魔法を繰り出している。


 一人の竜騎士は氷弾を。試験のときに見たような小さな氷弾ではなく、人の頭の大きさほどありそうな巨大な氷弾。それを休む間もなく打ち込んでいく。

 その相棒の竜は炎竜巻を起こす。激しい炎の竜巻がバレイラシュの身体を焼く。しかし焼けたにしろ、精々半分ほどだ。それでも攻撃を止めるわけにはいかない。ひたすら炎を浴びせる。


 もう一人の竜騎士は雷竜巻を起こしていた。竜巻とともに電撃がほとばしる。囮の竜騎士と同じ辺りを上下から雷で攻撃。少しの間は痺れているようだ。

 竜は吹雪を噴き出している。バレイラシュの身体自体を凍らせようと吹雪いた先には巨体を覆う氷が見える。しかしそれも半分ほどを凍らせるのが精一杯のようだ。


「「「あ!!」」」


 フェイたちが叫んだと思った瞬間、囮の二人がバレイラシュの体当たりで吹っ飛ばされる。


 あの巨体とは思えない素早さで一人を吹っ飛ばしたかと思うと、再び身体を振り上げもう一人を。二人の竜騎士と二匹の竜たちは海面に激しく叩きつけられる。


 二人の竜騎士たちが離れた瞬間、バレイラシュは海中に潜ろうと身体を捻らせた。


「ヤバいぞ!! 逃げられる!!」


 ネヴィルが叫んだと同時にフェイとアンニーナも海面すれすれを飛んで行く。


「!!」


 三人が!! 声にならなかった。三人は囮の代わりにバレイラシュを潜らせないよう攻撃をしかけた。


「み、みんな!!」

『俺たちも行くぞ!!』


 ヒューイが叫ぶ。


「で、でも俺が行っても足手纏いになる……」

『俺が攻撃出来るだろうが!!』

「でも……」


 俺には攻撃に参加したほうがいいのかの判断が出来なかった。

 自分ひとりならいくらでも攻撃をしかけて問題はないと思っている。でも、今は他の人たちがいる。自分ひとりの問題ではない。俺のせいで連携が取れなくなり足を引っ張る可能性が高い。だから簡単に攻撃に参加なんて出来るわけがないんだ。


 苛立つヒューイをなんとか抑えて状況を見守る。




 フェイとアンニーナはバレイラシュを挟んでお互い反対側から己の最大炎を繰り出し海面を滑らせる。ネヴィルは雷撃を海中に巡らせた。


 なんとか海中に潜ろうとしていたバレイラシュを海面に留めることに成功した。


 そう思った瞬間!!


 激しく暴れ出したバレイラシュ!!



「フェイ!! アンニーナ!! ネヴィル!!」

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