第六十五話 往路
一斉に竜たちは翼を広げ大きく羽ばたいた。
「ヒューイ、行くぞ!」
『あぁ』
手綱をグッと握り締め合図を送るとヒューイは大きく翼を広げた。竜騎士の竜たちもバッサバッサと大きく羽ばたき一気に空へと舞い上がる。
ヒューイもそれに続き、砂ぼこりを上げながら大きく羽ばたくと上空まで一気に舞い上がったのだった。
眼下では見送っていた人たちの見上げる姿が見える。大きく手を振り、そしてぐるりと旋回すると東へと向かって飛んだ。
城がどんどんと小さくなり、王都の街並みを眼下に見下ろし風を切って飛ぶ。大勢の街の人々が行き交う姿が見える。上空は少し肌寒い。上着が風に大きく靡く。
先頭は騎士の一人が飛び、ヤグワル団長と他の竜騎士たちがそれに続く。その後ろにフェイたち、そして俺とヒューイだ。
皆、物凄い速さで飛んで行く。さすが竜騎士だな。竜の飛ぶ速度もとんでもない速さだ。あっという間に城や王都は見えなくなってしまった。
「ヒューイ、大丈夫か? 皆に付いて行けるか?」
激しい風圧を身体に受けるため、耳元も風の音がうるさい。大声でヒューイに声を掛ける。
『あぁ!? 誰に言ってやがる!! 追い抜いてやろうか!』
「え、いやいや! 追い抜くなよ!? ちょっと心配しただけじゃないか!」
『余裕に決まってんだろうが!!』
「はい、すみません」
やいやい言い合っていると、アンニーナが少し速度を落とし、横に並んだ。
「なに騒いでんのよ、リュシュ!」
「え、あ、なんでもない!」
空の上で大声で叫びあっているのもおかしな話だが、声が流れて行ってしまうため、かなり声を張り上げないと会話は出来ない。戦闘の場合は離れていても会話の出来る魔導具とやらが支給されるらしいが、今そんなものは手元にない。
つまり大声で叫び合うしかないわけだ。なんか喧嘩してるみたいだな、と、苦笑。
しかもヒューイ相手だと俺一人で叫んでるみたいだしな。俺、完璧変な人間じゃん。
笑って誤魔化し、アンニーナは再び離れて飛んだ。
王都から離れて行くと平原が広がり、湖のようなものも見えた。しばらくすると森が広がり鬱蒼としている。遠目には鳥が群れを成して飛んでいるのも見える。
王都からヤナの街までは確かカカニアと同じくらいの村があったはずだが、どうやら今回そこは通らずに真っ直ぐヤナの街を目指すようだ。少し離れたところにその村らしき集落が見えたが、そこをあっという間に通り過ぎ、巨大な岩場で先頭の騎士が高度を下げて行った。
「休憩するぞ!」
ヤグワル団長が後方に叫び、片手を上げそこから振り下げた。その合図と共に全員が高度を下げて行き、ごつごつと巨大な岩が多くある場所を避け、平地になった場所に降りて行く。岩場の陰になって気付かなかったが、降りてみるとそれほど大きくはないが、川が流れていた。
竜から降りた騎士たちは竜たちに川の水を飲ませている。それに倣いフェイたちも、俺もヒューイを川の側へと移動させ休憩させた。
「昼飯にするぞ、携帯食で軽く済ませろ。すぐに出発する」
ヤグワル団長は荷から自分の携帯食を取り出すと適当な岩場に腰を下ろした。
昨日寮に帰る前にロナス商会で手に入れていた携帯食。ちなみに金は支度金として少しばかり支給されたんだよな。ぐふふ。
どれにしようか迷っているときにロナスさんがおススメの携帯食を教えてくれた。自分で考えても分からないため、結局おススメされたものを数個買って行ったのだった。
その携帯食は包装された紙を取り除き、手で握って齧っていくものだった。見た目はただの茶色い塊。なんだっけ、えっと、確か野菜や肉を味付け調理したものを乾燥させ、粉にしたものをさらに野菜や肉を煮込んだあとの煮汁で練り固め形成したものをさらに乾燥させて出来上がったもの……だったかな。
齧ってみるとかなり固く、少ししか齧ることが出来なかった。それを口の中でしっかりと噛んでいくと口の中に野菜と肉の旨味が広がって行った。
おぉ、美味いな! 携帯食ってマズそうな印象だったけど、これなら普通に美味い! おススメにして良かった!
固さのおかげで齧るのにも、口に入れてからもそれなりに時間がかかり、一つ食べただけで満腹感があった。スゲーな携帯食。
一人で感心しているうちにほとんど皆食べ終わり、再び荷を竜の背に括り付けていた。慌てて最後の一口を口に放り込むと俺もヒューイの背に括り付け準備完了となった。
ちなみにヒューイたち竜には乾燥肉を。この前の解体作業を思い出しちゃった……おぇぇ。
再びヤグワル団長の掛け声と共に一斉に大空へと舞い上がる竜たち。
王都のあった山と同じくらいの山並みを横目で眺めながら山間を飛ぶ。そしてその山間を抜けた瞬間、目の前にはキラキラと輝く巨大な湖……
「海よ!」
アンニーナが叫んだ。
湖よりもさらに大きく真っ青な……これが「海」か!
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