第六十四話 出発!

 翌朝、演習場へ向かうとすでに騎竜たちの準備が行われていた。鞍や手綱を付けられ、持って行くのであろう荷物が竜たちの足元に並べられていた。

 竜は八匹。三匹はどうやらフェイたちの竜のようだ。アンニーナ、フェイ、ネヴィルも竜に鞍などを取り付けている。


 フェイたちの竜が三匹ということは、竜騎士たちは五人行くということか。もっと大勢で行くのかと思ってたけどそうでもないんだな。


 横目で演習場を通り抜け、事務所へ挨拶しに入ると、ログウェルさんに聞いてみた。


「あぁ、現地の状況を聞き、海獣の大きさや強さを判断した結果五人になったらしいぞ。まあ竜騎士は一人いるだけでかなりの戦力だからな。ヤグワル団長も行くそうだし、俺からしたら五人も送るということはそれだけ巨大な海獣なのか、と思ったな」

「へぇぇ……」


 やっぱり竜騎士ってそんな強いんだな。明日には戦ってる姿を見られるんだよな。おぉ、楽しみだ。


「お前はヒューイの準備に行って来い」

「はい」


 そう言われ訓練係の元まで向かうと、ヒューイがソワソワソワソワ…………ブッ。

 あからさまな落ち着きのなさに思わず笑ってしまった。気付かれたらまた拗ねそうだ。ここは我慢だ。


「ヒューイ、おはよう、今日の話聞いたか?」

『リュシュか、聞いた……』

「大丈夫か?」

『なにが?』

「え、いや、だって城から出るのは初めてじゃないのか?」

『そうだが、でも問題なんかなにもない』

「そっか」


 いやいや、お前、明らかに緊張してるよな。明らかな挙動不審だし、落ち着きないし……。でも指摘したら絶対キレるやつ……。ここは黙っておくか。それにしてもこの落ち着きのなさに笑いそうになってしまう。ま、俺も十分ウキウキソワソワなんだが。


「よう、大丈夫か?」


 振り向くとヴァーナムさんとリンさんがいた。


「ヴァーナムさん、リンさん、おはようございます」

「ヒューイのこと任せたぞ」


 ヴァーナムさんは苦笑しながらチラリとヒューイを見た。リンさんはヒューイを激励でもしているのか、近付き首元を撫でている。


 ヒューイの落ち着きのなさを二人で苦笑。


「アハハ、若干心配だけど……まあ頑張ります」


 何を頑張るんだ、って感じだが……、そこはまあ、なんとなく? とにかく興奮したヒューイが暴れたりしないよう気を付けないとな。うんうん、と一人頷いていると、ヴァーナムさんが何かを察したのか「まあ頑張ってくれ」と小さく呟き、肩をポンと叩いた。


 鞍と手綱を準備し、ヒューイに装着していく。それらを装着することはもうすっかり慣れたのかヒューイは大人しかった。ただ早く行きたいだけかもしれないが。

 鞍と手綱を装着し終えると、今度は自分の荷物をヒューイの背中に括り付ける。荷物運搬用に太めのベルトで、荷物がずり落ちないよう押さえる部分には大きな皮で覆い被せるようになっている。それを翼の邪魔にならないよう装着。


 竜騎士の竜たちも準備が整ったようだ。


「皆、準備は整ったか?」


 ヤグワル団長が声を張り上げた。

 今日はヤグワル団長も行くんだよな。一匹だけやたら他より身体がデカい竜がいる。首には何やら紋章のようなものを下げているし……もしかしてヤグワル団長の竜か?なんかやたら貫禄ある竜だしな。他の竜たちより落ち着き方が半端ない。


 予想通りにヤグワル団長はその竜に近付き、首元を撫でた。そして他の竜たちを見渡し頷いた。


「皆、準備整いました!」


 一人の騎士が声を上げた。その言葉に合わせて、今回討伐へ向かうのであろう三人の騎士たちが他の騎士たちと離れた場所でビシッと整列をする。フェイやアンニーナ、ネヴィルもそれに倣っていた。

 おぉ、さすがかっこいいな。俺もあの中に入ってみたかった。


「よし、リュシュ、お前とヒューイも大丈夫か?」


 ヤグワル団長はこちらを振り向き、俺に聞いた。急に皆の視線が集まりビクッとしてしまった。フェイたちが笑ってるし。


「あ、は、はい! ダイジョウビです!」


 うぐっ、緊張で噛んだ。かっこわる……、がっくし。アンニーナとネヴィルが吹き出してやがる、くっそー。


「よし、ではそろそろ出発するぞ! 俺が不在の間はモーガン副団長が指揮を執る、任せたぞ」


 ヤグワル団長は横に立つ男に向かって言った。


「お任せください」


 濃紺の髪に金色の瞳でモーガンと呼ばれたその男は無表情のまま冷静に答えた。おぉ、ヤグワル団長と雰囲気の全く違う人だな……怖そう……。


「では、竜に乗れ!」


 ヤグワル団長がそう叫ぶと、四人の竜騎士たち、フェイやアンニーナ、ネヴィルも颯爽と竜に飛び乗った。かっこいいなぁ、羨ましい。なにをやっても様になるもんだ。


 ボケッとしていたらアンニーナが凄い顔をしてなにかを訴えていた。ん?


「おい」


 ボソッと小さくヴァーナムさんに小突かれた。

 あ、しまった! 見惚れて自分が乗るの忘れてるじゃん!! アホか!!


 慌ててヒューイに乗り上げる。小さくヒューイにまで『お前馬鹿だろ』と呟かれた。くそー! あんなソワソワしていたヒューイに言われるとなんか腹立つ! まあ自分が悪いんだが。


 乗り上げたころにログウェルさんを始め、育成課のみんなも見送りに来てくれた。


「気を付けてな!」


「はい!」


 ログウェルさんがニッと笑い、ルーサは思い切り手を振ってくれていた。ロキさんは睨んでいるままだが、あれはきっとそういう顔なんだよな、と少しおかしくなり、ハナさんは小さく手を振ってくれている。

 ルニスラさんとヴァーナムさんは腕組みをしながらもニッと笑い、リンさんは優し気な表情で見送ってくれていた。


 みんなの見送りに嬉しい気持ちになり、最高の気分だ。



「出発!!」



 ヤグワル団長の声が響き渡った。

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