第六十三話 討伐要請

「討伐要請?」

「あぁ」

「それでなんで俺が?」


 訓練係のヴァーナムさんとリンさんも呼ばれている理由も分からない。竜騎士に要請なら強化係のルニスラさんだけで良いんじゃないのか?

 そんなことを考えていたのが分かったのかログウェルさんは順を追って説明してくれた。


「討伐要請はヤナの街から海獣が出て困っているとのことだ。ワシェヌとの貿易に支障が出ているらしい」

「海獣……」


 港町ヤナ、ロナス商会のときに聞いた街だよな。ワシェヌと言えば、ドラヴァルアとは友好国で所謂「獣人」の国。海を隔てた国のため、詳しいことは全く分からないが、ヤナの街にやって来る船乗りたちは皆、獣人だそうだ。

 カカニアにいたころ本で読んだ限りではドラヴァルアと同じように獣人の国といっても、普通の人間もたくさん住んでいるということだった。貿易を行っているヤナの人々、ワシェヌに行ったことのあるものたちの証言で書かれていた本だった。


 ログウェルさんの話では、ヤナとワシェヌを繋ぐ航路の途中の海に巨大な海獣が出るらしく、街のものたちや船乗りだけでは対処が出来ず、すでに数隻の船が沈められているらしい。

 船乗りはなんとか無事だったらしいのだが、積み荷が全て駄目になり損失がとんでもないことになっているらしい。


「それで城の竜騎士に討伐要請が来たんだ」

「はぁ、それは分かりましたが、なんで俺?」


 それがいまだに分からない。


「ヤグワル団長やルニスラと話し合いの結果、今年の竜騎士見習いたちも連れて行くことになったんだ」

「え、フェイやアンニーナにネヴィルですか!? 良いなぁ!!」

「あぁ、そのため一番相性の良い竜がその三人と一緒に行くことになった。そこでだ、なんでヴァーナムとリンも呼ばれていると思う?」

「? 分かりません」


 ログウェルさんがニヤッと笑う。ん? なんだ?


「お前とヒューイも同行させようかと思ってる」


「!? えっ!? は!? えっ!? 俺もですか!? えぇ!?」


 あまりの驚きにまともな返事が出来なかった。


「ヒューイにやる気を出させるために実戦を見せようかと思ってな、それをヴァーナムとリンに相談していた。二人ともヒューイに実戦を見させるのには賛成してくれてな。だからお前を呼んだんだ」


「え、で、でも俺戦えない……」


 竜騎士でもなく力も魔法もない弱っちい人間。ヒューイの足手纏いになるんじゃ……。


「戦えるはずないだろうが」


 ヴァーナムさんが苦笑しながら言った。


「そうそう、アンニーナたちも見学よ。見習いに参戦させられるわけないじゃない」


 ルニスラさんもクスクス笑う。


「見学……」

「そうだ、竜騎士見習いたちも見学。お前とヒューイも見学だ」


 見学……それはそれでがっかりな気もするが、アンニーナたちもだしな。しかも本気で俺は戦えないだろうしな。見学が当たり前か……。それよりも……


「それってヒューイに乗ってヤナまで行って良いってことですか!?」

「あぁ、当然だろ」

「やった!!」


 思わず立ち上がり拳を突き上げた。あ、しまった。

 全員に爆笑された。リンさんですら笑っている……。


「ブッ。アハハハ! リュシュならそう言うと思った」

「え、あ、ハハ、すみません」

「まあしかし遊びに行くわけじゃないからな、そこのところ間違えるなよ」


 ログウェルさんはそう言いながらニッと笑った。


「は、はい!!」


 その後は今後の予定を聞いた。

 出発は明日の昼前、夜までにはヤナに到着。翌日朝から討伐へ向かう、とのことだった。俺とヒューイはとにかく討伐の邪魔にならないよう、少し離れたところから見学。

 アンニーナたちは臨機応変に。万が一のときは討伐にも参加するかもしれないが、とのことだった。

 今日の間に準備をしておけ、と言われ、早めに仕事を上がらせてもらうことになった。ウキウキで寮へと帰ったのは言うまでもない。


 食堂ではフェイとネヴィルと顔を合わせ、明日の話に盛り上がった。


「リュシュも一緒に行くのか、良かったな!」


 ネヴィルが夕食を口いっぱいに頬張りながら言った。


「うん、めちゃくちゃ嬉しいよ! でもまだ騎乗訓練始まってそんなに経ってないのに本当に行って大丈夫なのかな」


「「うーん」」


 竜騎士見習いであるフェイたちも、もちろん俺もだが、騎乗訓練を開始し出して日が浅い。それなりに回数は騎乗していても、実戦訓練をしているわけではない。所謂「乗る」だけだ。

 竜に乗り慣れるための騎乗訓練しかまだしていない。それでは本当にヤナの街へ行くというだけだ。討伐に参加出来るわけがない。下手をすると討伐の邪魔になるんじゃ、と心配にもなる。


「討伐に参加出来ないのは残念だが、でも竜に乗って遠出だぞ! それだけでも良い訓練になるだろうよ!」

「ハハ、ネヴィルは前向きだな」

「当ったり前だろうが! そこは前向きにだな! 今後さらに力を伸ばすための準備だ!」

「だね」


 フェイも一緒になって笑う。ネヴィルの前向きさのおかげでヤナの街までの騎乗は楽しみでしかないな。


 フェイもネヴィルも早めに夕食を食べ終えると急ぎ準備をしないと、と解散となった。


 俺も部屋で荷物の準備をし、早めに就寝するが、やはり当然のようにワクワクでなかなか寝付けないのだった。

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