第六十二話 事件

「ほんとに大丈夫?」

「あー、うん、大丈夫、中でちょっと気持ち悪くなっちゃっただけ」

「そうなの?」

「うん、ここって元々なんだったの?」

「ここ? 知らないなぁ、昔からあるみたいだけど、元々なんだったのかはみんな知らないわね。かなり古いことは間違いないけど」

「そうなのか……」


 一体なんだったのか。あのぞわりと感じた不快感。思い出すだけで気持ち悪くなる。うーん、考えても分からないしなぁ……思い出したら気持ち悪くなるんだし、忘れよ。うん。なんだか分からないけど知りたくないような気もするし……。


『リュシュ! キーア、やっつけた!!』


 考え込んでいるとキーアが頭上から目の前にズシャッと落としたもの……うぐっ。血まみれで絶命したランドガーと呼ばれる野獣。猫のような見た目だが、体格は俺くらいの大きさがある。しかも鋭い爪に牙、性格もそこそこ狂暴。


 どうやら襲って来たためキーアと他の子供竜たちで噛み付いたり爪で切り裂いたり、キーアの炎で焼いたり……としたらしい……自慢気に語るキーア。カカニア付近の森にもいたらしいが俺は直接見たことはない。本で見たくらいしかなかったため、そこそこ衝撃の絵面だな……。


「やったな、キーア」


 とりあえず褒めてやらないとな。恐らく初めて仕留めたんだろうし。キーアの頭を撫でてやる。それが気持ち良かったのかキーアは目を細め気持ち良さげな顔。

 そしてそれに満足すると再び子供竜たちの元へと戻り狩りを再開していた。


「フフ、キーアも自慢気だったわね」

「あぁ、ハハ」




 小一時間経ちルーサは終了の笛を吹いた。


「終了―!! 戻って来なさーい!!」


 ルーサが大声で叫ぶと子供竜たちはルーサの元に集合した。皆自分が倒した野獣の前に整列している。普段からそれでいとけよな……。


 倒した野獣は様々なものがいたが、キーアが倒した野獣はそこそこ大きいやつだ。他の野獣と比べると一回りほどは身体の大きさがあるやつだった。


「キーアの倒したランドガーが一番大きいわね。よくやったわよ! みんなで協力して倒したというのがまた偉い! 騎竜になると他の騎竜たちとも協力し合わないといけないことばかりよ。みんなそれを覚えておきなさい」


 子供竜たちはルーサの話は真剣に聞いているようだった。やはり皆騎竜になるための話には真剣なんだな。普段からそれを意識させたら良いのか! ふむ、これはやってみる価値ありだな。


「リュシュ、なにニヤニヤしてんの?」

「え? いや、なにも」


 ニヤニヤしてたのか、俺。いや、でもニヤけるよな、これは。フフフ、もしかしたらこれから楽出来るかもしれないじゃないか。フハハ。


「リュシュ、気持ち悪いわよ……」


 グサッ。ルーサの容赦ない突っ込みが入りました……。




 狩った野獣たちはそのまま大人竜たちの食糧になるから、と、子供竜たちがそれぞれ抱えて飛んだ。それなりに体格が大きくなったため、軽々と運んでいる。スゲーな。これ、激突されたら、俺もう死ぬやつだな。うん。気を付けよう。


 そのまま演習場へと戻り、野獣たちの死体は保存食へと加工するからと、解体作業をさせられた……うぐっ。さすがに解体作業はしたことがないからキツかった……。内臓と肉と皮を分け、燻製加工を……。今日は肉料理はやめよう……。

 そんな作業中でも子供竜たちは元気に暴れ回っておりました……。






 そんな子供竜たちも最初のころより三倍ほどの大きさになったころ、城に入って初めての大きな事件に遭遇することになる。



 ログウェルさんに事務所へと呼ばれた。


 事務所へと入ると中にはログウェルさんだけでなく、ルニスラさん、ヴァーナムさん、リンさんもいた。ログウェルさんと机を挟み、並んで座る三人がこちらを振り返る。


 ん? なんだ? 強化係と訓練係になんかあったのか?


「リュシュ、来たな、こっちへ座れ」


 言われるがままにルニスラさんの隣に座る。


「さてと、リュシュも来たところで話を進めるか」

「俺はなんで呼ばれたんですか?」


 このメンバーの中に俺がいるということが違和感しかないんだけど。俺みたいな新人になんの用だ?


「まずはだな、今、城の竜騎士たちに討伐要請が来た」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る