第六十一話 野獣狩り
ある日の教育係の一日。
「今日は遠出に行ってみよー!」
突然ルーサがそう宣言した。
「は?」
「遠出よ、遠出! ずっと城の中じゃつまんないじゃない。たまに外で思い切り遊ぶのよ!」
「はぁ、外で?」
「そう、野獣狩り!!」
「えっ!?」
急に思いつきのようにルーサが宣言し、キーアを始め、子供竜たちを引き連れて城の外へ出たのは良いのだが……、まあめんどくせー…………。
子供竜たち、キーアを合わせると今現在七匹いる。それを引き連れて外部に出るという行為。無謀だ……。
あちこち勝手に飛んで行くわ、付いて来ないやつがいるわ、人の頭の上に乗るわ、腹減ったなど我儘言い放題だわ…………行くだけで疲れる……。
しかも子供竜たちは最近少しずつ大きくなっていた。キーアなんかも出会ったころに比べたら二倍ほどの大きさになっていた。大人の竜に比べるとまだまだ小さいが、しかし、もうすでに頭に乗られて良いような大きさではない。首が折れるわ!!
大きさに比例して重くもなっているし、とてもじゃないが群がられて無事に済むとは思えないほどの大きさ・重さになっている。
そんなやつらが自由気ままにあちこち行きまくるもんだから、もううんざりだ。
目的地に着くまでにすでに疲れ切っている。
「リュシュ、大丈夫~? もうすぐ目的地に着くから頑張って~」
「目的地ってどんなとこ?」
「フフ、お楽しみに!」
城から出るときは正門から出ずに裏門から出た。正門から出てしまうと街中で子供竜たちを連れて歩かないといけなくなるからだ。
裏門から出ると、森へとすぐ直結していた。
元々山の中腹辺りに建てられた城だ。裏門を出たところはすでに山の中。城周辺は切り開かれているが、しばらく歩くとすぐに木々が生い茂っている。
そんな鬱蒼とした木々の合間を抜けていき、途中小川が流れていると休憩し、またしばらく歩く、ということを繰り返していた。
「着いたよ」
そう言ってルーサが笑顔で振り向き、指差した方向を見ると、森から抜け出し切り開かれた場所に石造りの廃墟があった。
「ここは?」
見た感じ人間が住んでいたような廃墟。
「この子たちの遊び場なんだけど、廃墟だからよく野獣も巣食っててさ。狩りの練習をよくさせてるの」
「へー……」
いや、聞きたいのはそういうことじゃなく、この廃墟はなんなのかを聞きたかったんだけど……ま、いっか。
「さてと、みんなー! 集まれー!」
「?」
子供竜たちは自由気ままに飛び回っていたが、ルーサの掛け声で集まってきた。ルーサの言うことはよく聞くんだよな、ちくしょう。
今回初めて遠出に来たキーアだけがキョトンとしていた。他の子供竜たちはなにやらウキウキしているような?
「キーアは初めてね、みんなはもうよく分かってると思うけど、今から狩りのゲームをしまーす! この廃墟の見える範囲内、廃墟の中、そこにいる野獣を何匹狩れるかの勝負よ! ただし襲ってきた相手だけ! 逃げるものを追っちゃ駄目。協力しても自分だけでも良いわよ! 相手に勝てなさそうなら逃げなさい! 分かった?」
『わかったー』
全員が返事をした。キーアは理解したのかしていないのか、ただワクワクしているようだった。
「あたしが終了の合図をするまでだからねー! それでは……はじめ!!」
ルーサが笛を吹いたと同時に子供竜たちはみな一斉に散らばって行った。キーアもみなが飛び去ったのをキョロキョロ見回すと、自分も慌ててそれに続いたのだった。
「へー、なんだか楽しそうだけど……そんなに野獣っているの?」
襲って来られたら俺ヤバいじゃん。ちょっとビビる。
「うーん、大量にいる訳じゃないけど、それなりにはいると思う。リュシュは気を付けてね~。なんかありそうだったら、あたしや子供竜たちを呼びなー」
ルーサや子供竜たちに守ってもらうってのも情けないなぁ……でもきっとそうなるんだよな……シクシク。
外に出るということで、武装準備をして来いと言われた理由はこれか。短剣と暗器を確認し、とりあえず周りに神経を集中させておく。
子供竜たちは野獣を見付けると、炎で攻撃したり自らの爪で攻撃したりと、どうやら戦い慣れているようだった。
キーアも最初は戸惑っていたが、他の子供竜たちの見よう見まねで同じように攻撃をしていた。ふむ、なかなか良い訓練になるんだな。
そんなことを考えながら、ついでに、と廃墟の中も散策してみることに。
ボロボロに崩れた石造りの建物は扉があったであろう場所から中へ入ると、天井がすっぽりと抜け落ち空が見えていた。
なにやらひんやりとする。少し陰になっているからか? 瓦礫を跨ぎながら他の部屋らしき場所も見てみると、どうも以前は治療院? そのような雰囲気の残骸が転がっていた。割れたガラスが散らばっていたり、朽ち果てたベッドのようなものもある。
ぞわりと鳥肌が立つ。なんだろう、凄い不快な気分になる……気持ち悪い……ヤバい、吐きそうだ。
慌てて外に飛び出し、吐きそうになるのを必死に耐えた。大きく深呼吸をし息を整える。
なんだあれ、なんであんな気持ち悪くなったんだろう。
「どうしたの? リュシュ」
木に凭れかかり呼吸を整えていると、ルーサが心配そうな顔をして近付いて来た。
「あ、いや、なんでもない」
「本当に? なんでもないって顔じゃないけど……」
「え?」
「ん? 自覚ないの? 顔、真っ青だよ?」
そうなのか……、顔を触ると額にはビッショリと汗が浮かんでいた。なんなんだ、一体。
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