第五十九話 特別書庫

「特別書庫の閲覧をお願いしたいのですが」


 図書館に着いたと同時にすぐさまカウンターの眼鏡の男に申し出た。男は「分かりました」と大きな鍵束から鍵を一つ取り、それを手に特別書庫まで案内してくれる。


 壁一面本棚の吹き抜けになった大広間を抜け、さらに奥へと進むと、通路がありその先々に小さな扉がいくつもあった。

 少し薄暗い通路は歩みを進めるたびに魔導具であろうランプが自動で灯されていく。他の扉がなんの部屋なのかは分からなかったが、男は一番奥へと進み、通路の突き当りの部屋の扉に鍵を差し込んだ。


 ガチャリと音を立てて開かれた扉の中は先程の大広間より圧倒的に狭い部屋だが、それでもみっちりと本が棚に並べられていた。真ん中には小さなテーブル、天井にはランプが吊るされ、窓も一切ない閉鎖的な空間。


「ご用が済みましたら施錠しカウンターまで鍵を返しに来てください」


 そう言い残すと男は戻って行った。




「さて、探してみますか!」


 ディアンと二人で再びそれらしき本を見付けてはテーブルに積んでいく。ディアンは先に読み始める。俺はそのまま全ての本のそれらしきところを見付けていく。

 いくら大広間より狭い部屋と言えど、本の数は半端ない。全ての本棚に目を通していくだけでもかなりの労力だ。


 目を通していく中で少し気になる本を見付けた。


「どうした、リュシュ?」


 急に静かになり立ちながら本を眺めていた俺に気付き、ディアンが聞いた。


「いや、魔力の本じゃないんだけどさ、建国のときの話が載ってたからつい読んじゃった」

「建国のときの話?」

「あぁ、ディアンは聞いた? 女王の話」

「あぁ、クフィアナ様が建国の英雄だって話だろ? 治療師の先輩方から聞いた」

「その話が少しだけ載ってるんだけどさ、《白と黒の竜》がって書いてあって…………、白って多分クフィアナ様のことだよな? じゃあ黒って?」

「黒? なんだそれ、そんな話、昔話でも聞いたことないけどな」

「だよなぁ、俺も聞いたことない。なんでだろ。それにこの本にこうやってほんの少しだけ載ってるけど、他には一切建国のときの話なんて載ってなかったよな?」

「確かに……」


 今日一日色んな本をさらっとだけにしろ目を通した。まあ、魔力に関してということに重点を置いて探していたのだが、この特別書庫なんかは種別に分けられ並べられている訳ではなかった。

 どうやら年代順に並んでいるようで、仕方がないので全ての本に目を通していたのだ。

 しかし今まで一冊も建国についての歴史やらが載っている本はなかった。


 今手にしている本ですらどうも大事なところは抜けているような、不自然になくなっているような、そんな違和感を感じる本。


「なんだろうなぁ……」

「建国の話がほとんど本に残されていないのは、やはりクフィアナ様が王と呼ばれるのを酷く嫌われるからというのと関係があるんじゃないか?」

「なんで?」

「王と呼ばれるのが嫌だということは、もしかしたら建国の英雄と称えられているのも嫌なのかもしれない。だから建国当時の話は残したくないのかも?」

「そうなのかな……なんでそんな嫌なんだろ」

「さあなぁ、俺たちには分からない葛藤とかでもあるのかもなぁ。まあ全部憶測だけど、ハハ」


「そんなことより魔力についてだよ! 早くしないと日が暮れちまう」


 うーん、と考えているとディアンに急かされた。


「おっと、そうだったな、ごめん」


 慌ててその本を棚に戻し、少し気になる気持ちは残っていたが、再び魔力についての本を探しているあいだに建国の話はすっかり頭から消え去っていた。




「おい、これは!?」


 一冊の本をディアンに差し出した。

 その本には魔力について書かれているようだった。


「この国の魔力について!」


 それは一人の魔導具師が残したと思われる本だった。


 ほとんどは魔導具について書かれた本だったのだが、ある部分にはその魔導具を作るにあたって魔力を放出、蓄積させることから、魔力についても研究を進めたという内容だった。


 この魔導具師はそもそも人間の魔力はどうやって生まれているのかを研究していた。




 ドラヴァルアの人間は元々ナザンヴィアと同じ人間が元だった。

 己自身に魔力があるわけではなかった。本来精霊の力を借りて発現することが出来ていたのだ。

 それなのにいつの頃からか精霊の力を借りず、己の力で魔法を発現させることが出来るようになっていた。


 魔導具師はなぜ、いつから、ドラヴァルアの人間が魔力を持ち出したのかを研究し始めたのだった。

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