第五十八話 図書館
「おはよう、リュシュ」
「ん?」
ちょうど朝食を取っていた最中で食堂にいた俺の背後から声を掛けられ振り向くとディアンがいた。
「おぉ、ディアン、おはよ、どうしたんだ?」
今日はフェイやネヴィルは休日ではない。だから俺一人で少し遅めの朝食と取っていたところだった。
別の寮に住むディアンがわざわざこちらの寮に来るってのはなんかあるんだろうな。
ディアンは俺の向かいに座り、食べながらで良いよ、と言った。じゃあ、遠慮なく、と、食事を続ける。
「今日はさ、俺も休みなんだけど、リュシュも休日だって聞いたから、ちょっと頼みがあって」
「頼み?」
「あぁ。探しものを手伝ってほしいんだ」
「探しもの?」
「あぁ」
「別に暇だから良いけど、探しものって何を?」
とりあえず食べ終わるまで待ってる、と言い、俺が食事を終えると外へと連れ出した。
「で、どこに行くんだ?」
「城の図書館に」
「図書館?」
「あぁ」
ディアンの頼み事、それは魔力を調べたい、ということだった。
「この国の魔法はナザンヴィアとは違って精霊に力を借りるわけでもない。みな生まれたときから持っていて、教わらなくても使い方を知っている。それなのに誰も使い方や魔力の源を知らない。それを俺は調べたい」
ディアンは真剣な表情で言った。
そういえば王都に来る馬車のなかでそんな話をしたっけ。
「それに魔力の源がなんなのかが分かれば、リュシュの魔力があるのかないのかも、もしかしたら分かるかもしれないだろ?」
「おぉ! なるほど!」
自分であるのかないのか分からない魔力を感じようとするよりも、実際魔力の源がなにかということが分かれば、俺にもあるのかないのかがはっきりするかもしれない。
「よし! 調べよう! 俺も手伝う!!」
「ハハ、リュシュならそう言ってくれると思った。行こう、図書館へ」
城の図書館は奥まったところにあった。城門よりも離れた場所、演習場の反対方向。ロナス商会を抜け、さらに奥へと進む。
城内の端のほうまでやって来ると、巨大な棟が現れる。表側には窓は一切なく、重厚な雰囲気の扉。重々しくその扉を開くと、中は壁一面に据えられた本棚。三階まで全て吹き抜けになっていて、二階、三階部分には階段と通路で繋がっていた。
「おぉ、スゲー……」
圧倒された。紙の匂いなのかインクの匂いなのか、独特な匂いがする。しかし空気は澄んでいてひんやりとする。窓は一切ないのにどうなっているんだろうか、と思わずキョロキョロと見回してしまう。
入口に管理者だろうか、カウンター内に座った眼鏡の男にディアンが話しかけた。
「治療師のディアンです。閲覧許可をいただいております」
そう言ってなにやら札のようなものを見せた。男は立ち上がりそれを確認する。
「確認致しました。どうぞご自由にご覧下さい。特別書庫は鍵が必要になりますのでご覧になる場合はお声掛けください」
眼鏡の男はそう言うと札をディアンに返し、再び椅子に座った。
ディアンは男にお礼を言うと「行こう」と小声で言い、奥へと促した。
案内板を見ながらディアンは目的の本がありそうな本棚まで移動する。
「この辺りの本が魔法について書かれているようだから、とりあえずここを調べよう」
「分かった」
それらしい本を見付けたら、とりあえず手当たり次第に持ってテーブルへと向かった。閲覧用に数台置かれている四人掛けほどのテーブル。
そこへ次々と運び込み、ディアンはひたすら読み漁っていく。俺は本棚からそれっぽい本を見付けてはテーブルへと運ぶ。
そうこうしているうちに関係ありそうな本は全てテーブルに運んだだろう、というころに俺も一緒になってテーブルに置かれた本を手あたり次第読み漁って行くことになった。
しかしなかなか思うような情報は載っていなかった。
「ほとんど魔法についてのみだなぁ……」
「はぁぁ、そうだなぁ」
魔法について知りたいわけではない。今知りたいのは魔力だ。
「魔法については色々載ってるのになぁ」
「うん、魔法属性、属性ごとの内容、魔導具について、とかはいっぱい載ってるのにな」
「あぁ、俺が知りたいのは魔力であって魔法じゃないんだよな……」
「「はぁぁあ」」
あまりの収穫のなさにぐったりし、とりあえず片っ端から持って来た本を全て片付けると、一旦休憩しようということになった。
ディアンの寮のほうが近かったため、そちらの食堂で昼食を食べながら話す。
「とりあえず次は特別書庫を見せてもらおう」
「うん…………、でもさ、ディアンてなんでそんな許可証持ってんの?」
閲覧許可ってそんな簡単にもらえるもんなのか?
「あー、許可証はシーナさんに頼んだ、ハハ」
「シーナさん……」
「あんなだけど、やはり国で一番の魔力コントロールというのは伊達じゃなかったらしい。治療師の先輩たちがなんだかんだと認めていたしな。毎度シーナさんに振り回されて怒鳴ってるけど、アハハ」
あんなだけど実は凄い人なのか……やっぱり自分で豪語するだけのことはあるな。
「シーナさんは国からかなり信頼されているようでな、比較的すんなりと許可証をもらえた」
「そ、そうなんだ……スゲーなシーナさん」
「本当にな……人は見掛け、いや、内面も……いや、ともかく凄い人はどんな変人だろうが認められるんだよな」
かなり言い淀んだかと思ったらディアンのやつ……「変人」て言い切ったな……。
お互い乾いた笑いになったことは言うまでもない。
「ま、まあ、そんなわけで! 特別書庫へ行くぞ!」
「おぉ!!」
昼食を食べ終え、再び図書館へと向かうのだった。
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