第五十四話 建国の英雄
「建国の英雄って!?」
「ん? あぁ、知らなかったか。まあそうか、城の人間以外には知られないようにしていたっけな。新人なんて長いことこなかったから忘れてた、アハハ」
そう言いながら笑うログウェルさん。いや、笑ってないで教えて!!
「リュシュも建国の話は知ってるだろ?」
「はい、あのおとぎ話的な話くらいしか知らないですけど」
大昔に人間に支配されていた竜たちが反乱を起こし、人間たちと戦い勝利し、今のドラヴァルアが出来た、という所謂子供たちにするような昔話。
「うん、その話のままらしいんだが、昔戦いに挑み人間たちから竜を解放させた英雄がクフィアナ様で、そのまま王となられてドラヴァルアを建国なされたんだ」
「え、でも何百年も前の話ですよね」
「あぁ、五百年ほど前か?」
さらっと言われて驚いたが、でもそういえば竜って何百年も生きるんだっけ。昨日寿命の話をルニスラさんから聞いたばかりだったな。
まさかのおとぎ話の王様だったとは! 驚き過ぎて言葉が出ない。白竜かどうかも気になるが、建国の英雄とか遠い存在の人物が目の前にいるとかわけ分からん。
「この事実を知っているのは城の人間しかいない。ナザンヴィアには特に情報が漏れないようにしているから気を付けろ」
「は、はい……でもまさか建国の英雄が女の人だとは思ってなかったです」
そう言うとログウェルさんは笑った。
「アハハ、まあ確かにあれだけの英雄伝説だと男だと思うかもな! しかもクフィアナ様はあんな儚げな見た目だしな」
うんうん、と頷いた。あんなに綺麗で美しくて儚げな女王……、っとクフィアナ様だっけ、あんな女性が人間たちと戦って勝利しただなんて、話を聞いた今でも信じがたい。
「まあ、あの見た目に騙されんほうが良いぞ。戦っている姿は俺も見たことはないが、尋常じゃない力を持っていらっしゃるらしいからな」
「へ、へぇ……怖いな」
でもちょっと見てみたい気もする……。
他にも色々聞いてみたい気持ちやら、白竜が気になったりやら、色んなモヤモヤがあったのだが、上手く言葉にすることが出来ず、とりあえず仕事へ行け、と促され教育係の元へと仕事をしに行った。
◇◇◇
「先程の挨拶はなんですか」
壇上でクフィアナの側にいた男が言う。
「マクイニス、お前が厳しいからだろう。私は王などやりたくない。愚痴くらい言いたくもなる」
マクイニスと呼ばれた男は溜め息を吐いた。
「いい加減に慣れてください。もう何百年経ったと思っているんですか」
「何年経っても嫌なものは嫌なんだ」
ぶすっとした顔をするクフィアナ。
「フフ、まあまあ二人とも。クフィアナ様の王嫌いは今に始まったことではないじゃない。マクイニスも諦めたら?」
笑いながらそう話す女はクフィアナにお茶を出した。真紅の艶やかな長髪をゆったりと括り前に垂らしているため、お茶を差し出すときにさらりと揺れる。
金色の瞳でクフィアナを見詰めにこりと微笑んだ。
「ビビは優しいな。マクイニスとえらい違いだ。よく一緒にいられるな」
「フフ、こんな人でも二人のときは優しいんですよ?」
「ビビ、余計なことを言うな」
あらあら、とビビはクスクスと笑い、クフィアナはそんな二人の様子にムッとした。自分には厳しいのにビビには優しいだなんて。いくら夫婦とはいえ扱いの差が酷いだろ、と拗ねてみた。
「貴女は英雄なのだから仕方がないでしょう」
「それを言うならお前たちだってそうじゃないか」
「あら、私たちはただの従者のようなものでしたからねぇ」
そんなわけないだろう、とクフィアナはじとっと二人を見詰めた。
クフィアナは紛れもなく建国の立役者。人間から竜を解放した英雄だった。だが、マクイニスとビビも一緒に戦った仲間なのだ。だから二人だって英雄だろうが、とクフィアナは腑に落ちない気分でいっぱいだった。
なぜ自分だけこうも崇められなければならないのだ。堅苦しくて仕方ない。それに自分は王には相応しくないんだ……。
ぶつぶつと文句を言っているとマクイニスが溜め息を吐きながら話題を変えた。
「そういえば先程何かを見て驚かれましたよね? 何に驚かれたんですか?」
「え……いや、な、なにも?」
マクイニスとビビはクフィアナの側近だ。マクイニスは特に常日頃からクフィアナのことを全てにおいて把握している。監視とも思えるその状況にクフィアナはうんざりするのだが、マクイニスが国政を取り仕切ってくれているおかげでなんとかやっていけているというのも理解していた。だからこそ頭が上がらないのだが。
そんなマクイニスにはクフィアナの少しの感情の機微にも気付く。誤魔化したところで無意味だろうと思いながらも、クフィアナは誤魔化してみた。
「未だに私のことを侮られておられるようだ」
マクイニスは不機嫌そうにじろりとクフィアナを見た。
「え、あ、いや、そんな大したことではないから……」
そもそも話してしまうと自分が仕事をさぼったことがバレてしまう、そうなるとどんなことが起こるのか……、それが分かっているクフィアナはなんとか誤魔化そうと必死になった。
そう、あの式典のときに、あのときの少年を見付けてしまったのだ。
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