第五十三話 王

 そう声高らかに言葉にするとその男は少し横に逸れ、後ろを見た。


 壇上に上がって来たのは…………、こ、これは……。


 言葉にならなかった。


 美しい白髪はくはつ、いや、太陽の光を浴び煌めく虹色の髪。とてつもなく美しい虹色の髪を靡かせ、壇上に上がった女。

 スラリとした身体に長い美しい髪。透き通るかのような白い肌に、キラキラと煌めく銀色の瞳。まるで輝く宝石のようだと思った。あまりの美しさに言葉が出ず呆然とし、吸い込まれるように見詰めてしまう。


 他の新人たちも同じようで、皆呆然としている。


 風に靡く美しい虹色の髪。まるで真珠の色のようだ。そう夢うつつのようにぼんやり考えていると…………ん? んん??


「真珠色って…………まさか」


 ボソッと呟くと、ログウェルさんが苦笑しながらもシッと人差し指を口に当てた。


 えぇぇえ!! まさか!? マジで!? ログウェルさんが言いにくそうにしていたのはこのせい!?


 壇上に上がる女の白髪は、俺が探し求めていた白竜の色と全く同じだった……。




「新人諸君、ようこそドラヴァルアの城に」


 透き通るような声で話し出す。


「私はクフィアナ。この国の王とやらをさせられている」


 横に立つ男が小声で「余計なことを言わないでください」とか言っている。な、なんか面白い王だな。


「君たちはこれからこの城で働くことになるわけだが、この城を護るわけではない。君たちが護るべきはこの国の人々だ。この国の人々のために日々努力していってくれ。期待をしている」


 そう言葉にすると王は新人たちをゆっくりと見渡した。視線が動くなか、目が合ったような気がする。そのとき王は少しだけ、ほんの少しだけ驚いた顔をしたように見えた。気のせいかもしれないけど。


 それだけ言い終わると、王は早々に壇上を降り去って行った。その後横にいた男が細かい話をし、入城式典とやらはあっさりと終わった。


 俺はというと王の姿が気になりすぎてログウェルさんに詰め寄る。


「ログウェルさん!! 俺が言ってた白竜ってもしかして!!」

「ちょっと待て、とりあえず事務所に戻るぞ」


 言いかけた俺を制止し、事務所へと戻る。周りに人がいなくなったことを確認してからログウェルさんは話し出す。


「ログウェルさん!」

「あー、とりあえず落ち着け。お前が言ってた白竜の話な」


 ログウェルさんと向かい合い椅子に座る。


「クフィアナ様は確かに白竜だ」

「やっぱり!!」

「だがな! お前の言う白竜ではないと思うぞ?」


「え? なんでですか?」


「クフィアナ様はもう何十年、いや、何百年かな、もうずっと竜化はしていないはずだ」

「竜化?」

「あぁ」


 ログウェルさんは説明し出す。


 竜が人の姿になること、所謂竜人になることは「竜人化」。逆に竜人となった人型の竜が再び竜の姿に戻ることが「竜化」。

 竜人化試験後に竜のままでいるか竜人になるかは選ぶことが出来る。一度竜人に人化することが出来た竜は自由にどちらの姿にもなることが可能らしい。

 しかし一度竜人になった竜は、あまり竜に戻ることはない。ほぼ竜人の姿のままで一生を過ごすことが多いそうだ。


 女王も然りだった。


「クフィアナ様は確かにお前の言う白竜の特徴とよく似ている。だが、クフィアナ様が竜化したという話は聞かない。ましてや、カカニアの側の国境だろう? そんなところにクフィアナ様が行っているとは思えない」


「そ、そうなんですか……」


 じゃああの白竜は一体どこに行っちゃったんだ!? 本当にあのときの竜は女王じゃないのか?

 せっかくあのときの白竜なのかと思って嬉しかったのにな……。


「まあそんながっかりするな。いつか見付かるかもしれないだろ」

「でもあの女王以外に白竜っていないんでしょ?」


 拗ねるようにチラリとログウェルさんを見た。


「いや、まあ……うーん、まあなぁ……いや、でもどっかにいるかもしれないだろ!」


 焦るようにログウェルさんは明るく言った。

 可能性はかなり低そうな気はするが……まあいないものは仕方ないしな。いつか女王に「あのときの白竜ですか?」って聞けたらな。


「はぁぁ、まあ他にいるかもしれないと少しだけ期待しときますよ」

「ハハ……」


 盛大に溜め息を吐きながらそう言うとログウェルさんは苦笑するしかないようだった。


「あー、それからクフィアナ様のことは女王って呼ぶなよ?」

「? なんでですか?」

「なぜだか《王》と呼ばれることを酷く嫌われるんだ。建国の英雄なのになぁ」


「え!?」


 なんか今凄いこと言った!!

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