第五十二話 自分の魔力

 フェイとネヴィルとは二階で別れ、三階の自分の部屋へと戻る。腹もいっぱいになり、風呂で温まり疲労感もあり、ベッドに横たわると今すぐにでも寝落ちそうな、そんな気持ち良さ。このまま寝てしまいたいが……荷物がそのままだったよな……。

 仕方なくもそもそと起き出し、部屋の中央に吊るされた魔導具のランプに灯りをともす。開け放していた窓からは夜風が吹き込みひんやりとする。窓を閉めようと手を伸ばすと、少し離れた場所に女子寮が見えた。女子寮の各部屋にも灯りが見える。


「おっと、あんまり見てたらヤバそうだからやめとこ……」


 ログウェルさんに言われたことを思い出し、早々に窓を閉めた。

 部屋に置きっぱなしにしていた荷物を整理し片付ける。そして寝る準備もし、再びベッドに横たわるが、今日一日のことを思い出し、色々と頭の中で巡る。


 シーナさんが言っていた「自分の魔力を感じてみろ」という言葉。本当に俺に魔力があるんだろうか。これ、全く感じなかったら本当に心底凹むやつなんだけど。


「魔力は持っていて、発現方法が分かっていないだけ、かぁ……」


 横たわりながら両手を天井に向かって突き出し、自分の手を眺める。


「一応試してみるかな……」


 他人の魔力を感じるときは他人の身体のなかを探るかの勢いで集中して意識する。呼吸の音や心臓の音が聞こえるのではというくらい集中する。すると、腹の辺りでもやもやとうごめくなにかを感じるんだ。


 それと同じように今度は自分の身体のなかを探るように集中してみる。深く深く集中する……。


 しかし、何も感じない……。やっぱり俺には魔力なんてないんじゃ……。


 もう一度だけ、もう一度試してみてそれでも駄目なら諦めよう。俺には魔力なんてないんだ。


 再び集中し、さらに意識的に腹の中心辺りに集中してみる。深く……深く……深く……。


「…………やっぱり、駄目か?」


 そう眉間に皺を寄せ呟いたとき、チリッと何かを感じた。ほんの少しだけ。本当に微かに、あるかないかも分からないほど、微かななにか。しかし、それは再び分からなくなった。

 もう一度確かめようと集中しても全くなにも感じなくなってしまった。


「なんなんだ? 今のはなんだ? あれは魔力なのか? 魔力だとしてもなんでそのあと消えちまったんだ?」


 全く分からん。


 そのあと何度も試してみたが、一向に感じる気配はなく、無駄に疲れてしまった……。


「はぁぁあ、なんなんだよ、疲れただけじゃん。魔力はないんだと突き付けられただけだし……くそっ」


 シーナさんに報告すると、多分もっと頑張ってみろとか言われそうだな。でもこうやって魔力を感じないと、自分自身が嫌になるだけで辛い……。聞かれるまで黙っておこう……。うん。


 結局嫌な気分のまま寝付くはめになってしまった。




 翌朝、食堂で再びフェイやネヴィルとともに朝食を取ると、二人と別れ演習場事務所へと向かった。

 演習場にはすでに竜騎士たちが勢揃いし準備をしていた。


「おはようございます」

「あぁ、リュシュ、おはよう、昨夜はよく眠れたか?」


 事務所を覗くとログウェルさんがすでにいて、ニッと笑いながら聞いた。


「あー、ハハ、それなりに」


 気持ち良く眠りに就くはずが、魔力を感じるかの実験をしていたせいで、気持ちの良い就寝とはならなかった。


 ログウェルさんはそれに気付くでもなく話を続けた。


「今日は新人たちの入城式典だぞー、演習場に行くぞ」


 あ、そういえばそんなこと言ってたな。色々あって忘れてた。良かった、ログウェルさんが覚えてて。昨日の感じじゃ絶対ログウェルさんは忘れるんだろうな、と思ってたよ。ごめん。


 ルーサには伝えてあるから、と、ログウェルさんとともに演習場へと出る。すでに多くの人数が集まって来ていた。


 竜騎士からはフェイとネヴィルとアンニーナ、それからヤグワル団長が。治療師からはディアンとシーナさん。他の部署の人たちも上司だろう人たちと一緒に並んでいる。


 シーナさんがこちらに気付くと、ニヤッとしながらこちらに歩みを向けようとしたところで、ディアンが気付き止めた。そしてディアンもこちらに気付くと苦笑するのだった。


 そのやり取りに気付いたフェイやアンニーナも苦笑し、お互い目で会話をするように笑い合った。


 そして程なくすると、ざわざわしていた雰囲気が急にピタッと静まり返った。チラリと周りを見回すと、ヤグワル団長もログウェルさんも真面目な顔でビシッと立ち前を見据える。

 シーナさんですら姿勢を正し前を向いていた。


 それに釣られ、なんとなく姿勢を正し前を見ていると、濃紺髪と銀瞳の少し冷たい表情の男が正面にある壇上へと上がった。

 几帳面そうな雰囲気のビシッと皺ひとつなさそうな服を着た男が声を上げる。


「王がお見えになります」

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