第五十一話 裸の付き合い

 辺りが暗くなるころ、今日はもうあがって良いとルーサが言ってくれ、先に俺だけ終了となった。一日目の感想としては……とにかく無駄に疲れる! なんせ何をしていてもずっと子供竜たちが群がってきやがるし! 掃除してもすぐに汚くなるし! 食事させたら巻き散らかすし! すぐに喧嘩し出すし! あれやって、これやって、うるさいし!

 挙げ出すときりがないほど、まともに教育係としての仕事にならん!


「はぁぁあ、疲れた……腹減った……」


 寮へと帰ると美味しそうな匂いが漂っていて腹が鳴った。初めての食堂だ! と喜び勇んで食堂へと向かう。

 ウキウキしながら食堂へと入ると、すでに多くの男たちが夕食を食べていた。


 育成課のメンバーは紹介してもらったしな、今いるのはみんな竜騎士たちか。

 見ると屈強な男たちがテーブルで談笑しながら食べていたり、料理を食堂の人からもらっていたり、メニューを睨んでいるやつがいたり、と賑やかだった。


「リュシュ」


 声を掛けられ振り向くとフェイとネヴィルがいた。


「リュシュももうあがり?」

「あぁ、フェイたちも?」

「うん、良かった、一緒に食べよう」


 フェイはそう言うとニコリと笑った。

 入口付近に置かれた三種類のメニューを見て、何を食べるか決めるとカウンター越しに食堂の人へと伝え、料理をもらう。すでに準備されているため、出てくるのも早い。


 空いている席へと移動し、テーブルに着く。

 今日のメニューは肉の煮込み料理、肉の焼き料理、あとは魚料理だった。メインをその中から選び、あとはご飯と汁物、付け合わせは同じものが付く。

 俺は肉の煮込み、ネヴィルは肉の焼き、フェイは魚、と皆それぞれ違うものになった。どれも美味しそうで、良い匂いに釣られて腹が盛大な音を上げて鳴る。


 うへ、恥ずかしい。


「は、早く食べようぜ」

「ハハ、うん、いただきます」


 今日どんなことをしたか、お互いに報告のように話しながらの食事になった。ネヴィルは意外とよく喋る。しっかり食べながらもしっかりよく喋って、しかも面白いやつだ。

 笑いを交えながら竜騎士の訓練を教えてくれる。


「いやぁ、でも先輩方は凄いよな、俺は全く歯が立たなかった」


 ネヴィルは思い出すかのように話す。


「そんな凄いの?」


 俺の隣に座るフェイを見ると、綺麗に食事をしながらも今日を思い出しながら話す。


「うん、やっぱり凄いよね、動きが違う」

「動き?」

「あぁ! 剣技や魔力はフェイも負けてはいないが、それでもなんだろうな、経験値の差っての?動き方が全く違うかった」


 ネヴィルが興奮気味に言った。

 聞くところによると、実践に特化した動きだったそうだ。模擬戦を見せてもらったらしいのだが、相手を本気で殺せるのではないか、という戦い、しかしそれを寸止め。見ているだけで緊張感が半端なかったらしい。


「へぇぇ、良いな、俺も見たかった」

「訓練係か強化係になれば見れるようにもなるんじゃない?」

「あ! そうそう! 俺、訓練係をたまに手伝うことになったんだ!」


 ヒューイの件を話すとフェイも喜んでくれていた。ネヴィルはというと逆に羨ましそうな顔。


「良いなぁ、俺たちはもう少し地上訓練を経てからしか騎乗訓練出来ないのに」

「そうなの?」

「うん、最初の何ヶ月かは地上訓練で身体強化らしいよ? それから騎乗訓練に入るらしい」

「へぇ、そうなんだ、やった、じゃあ、俺の方が早いじゃん!」


 ニヤッと笑うとネヴィルがあからさまに拗ねた顔になった。


「ちぇ、ずりぃな」

「アハハ、ラッキー」


 そんな言い合いを繰り広げ、そのまま一緒に風呂へ行こうとなった。


 部屋へ着替えを取りに行き、風呂場へ向かうと脱衣所には恐ろしい光景が……。いや、まあなんというか……いかつい身体つきの男たちの中に放り込まれたか弱い子羊……じゃなく……。

 うわぁ、な、なんか居たたまれない……、こんなやつらに囲まれて素っ裸になる勇気が……。


 ネヴィルはすでに素っ裸。良い筋肉ですな。引き締まったケツもかっこいいしな。羨ましい……。いや、男の身体に興味があるわけではなく!

 だ、だってさ! だって! 俺のこの…………この……ぷよぷよな腹!! くっそー! どうやっても強くならない筋肉の付かない色白で貧弱な身体……。がっかり。

 別に太ってるとか締まりがない身体、とかいうわけではないのだが、なんだかどこもかしこも柔らかそうなんだよな……。はぁぁあ、こんな屈強なやつらに囲まれるとか……拷問だ。


 フェイはというと……、周りを見回し探してみると、端の方で今まさに服を脱いでいた。ぐわぁぁ! なんだよ! フェイもめちゃくちゃ細マッチョな良い筋肉!! 細身で優し気な顔だからもっと線が細いのかと思ってたのに!! くっそー……俺だけ……。はぁぁあ、脱ぎたくない……。


「リュシュ、なにやってんだよ、早く脱げよ」


 ネヴィルがそう言って人の服を捲り上げる。


「いやぁぁん! やめてー!!」


「お、おい! 気持ち悪い声上げるな! 俺が襲ってるみたいだろうが!!」


「フハハ! 脱がそうとするからだ!」


「このやろ!」


 そう言ってネヴィルに羽交い絞めにされ、早々にギブ……。あっという間に上着をはぎ取られました。


「いやん」


「だから! キモいわ!!」


 ネヴィルがぷりぷりと怒りながら先に風呂場へと行ってしまった。


「なにやってんのさ」


 フェイが笑いながら側に来た。


「だってさ、俺、身体に自信ないのにネヴィルが脱がそうとするから」

「ハハハ、そんな気にする必要ないのに。誰も男の身体なんか興味ないよ」


 グサッ。気にしてるのは俺だけか。地味に凹む。


「ま、まあそうだな、風呂、行くか……」


 そう言って再び湯舟でネヴィルとお互いの腹筋を触り合うという、キモいやり取りを繰り広げるのであった……。

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