第四十五話 教育係
おぉ、笑うとなんだか可愛い人だな。しかし俺の視線に気付いたのか、目が合った瞬間元のいかつい顔に戻ってしまった。そして睨まれる……怖い……。
「赤ちゃん竜てめちゃくちゃ可愛いっすね!」
そう言った瞬間甘噛みしていた赤ちゃん竜がボッと炎を噴き出した。キーアのそれよりさらに小さい炎。そうめちゃくちゃちっさい炎だが、でも炎なんだよ!
あっつ!! 顔面に当たりかけて慌てて避ける! 見よ! この俺の瞬発力! キーアで鍛えられた避ける技! いや、キーアにはいまだにしょっちゅう激突されているんだが。
「あ、あっぶね……」
「あぁ、油断すると炎やら水やら噴き出すぞ」
ロキさんが淡々と話す。いやいや! 先に言って!! シーナさんに爆笑されるし。
「改めて紹介すると、リュシュとディアン。リュシュはまず教育係から開始させる。そこを一年過ごしたあとこの育成係に来るかもしれんからよろしくな」
「ハ、ハナです……、よ、よろしくお願いします」
「ロキだ」
「二人は育成係として長いから分からないことがあればなんでも聞くといいぞ」
「わ、私は頼りにならないかもしれませんが、ロキさんは凄い人ですから! ロキさんに聞いたらなんでも分かりますよ!」
「おい」
ハナさんはロキさんをべた褒めだな。目を輝かせてロキさんのことを語っている。それだけ信頼している同僚なんだろうな。常にロキさんを目で追ってるし、うん、良い仲間なんだ! うんうん、と一人頷いていたら、なぜかディアンが苦笑していた。ん? なんだ?
「まあ育成係の詳しい話はリュシュ自身が育成係になったときにな」
「はい」
「ディアンは、育成係でなにか研究したいことがある場合は、ロキを通してくれ」
「わかりました」
そう言って挨拶を終えると育成係を後にした。
そのままさらに部屋を移動すると育成係の隣には教育係。ここはキーアと一緒に来たからもう見慣れたな。
「ルーサ、リュシュともう一人紹介したいやつがいるからちょっとこっちに来てくれ」
部屋に入ると子供竜たちがやはりというかなんというか、暴れ回っていた。これ、大変だな……今までルーサ一人でよくやってたよな……。
「ん? あ、ログウェルさん、リュシュ、おはよ!」
ルーサは小走りにこちらにやって来た。やっぱ可愛いなぁ。いや、変な目で見てるわけじゃないぞ! 純粋にだな! 可愛い子はやっぱ可愛いと思うだろ! って誰に言い訳してんだか。
「リュシュは良いとして、こっちは治療師のディアンだ」
「よろしく~! あたし、教育係のルーサだよ」
ルーサは手を差し出しニコッと笑った。ディアンはその手を取り握手をする。
な、なんか良い雰囲気だな。お似合いというかなんというか……、いや、駄目だ! そんなこと考えたらアンニーナに殺される!
『リュシュ!』
そんなことを考えているとキーアが毎回恒例のように腹にドーンッ!! と激突してきた。ぐふっ。
くそっ! いつまでもやられる俺ではない! 激突してきたキーアをガシッと羽交い絞めにしてやった。
「ふっふっふ、これで動けまい」
自信満々に言ったつもりが、キーアはきょとんとした顔をしたかと思うと、フンッと鼻息を噴出し、翼を思い切り広げ、あっという間に羽交い絞めから抜け出した。チッ。
それを見ていた他の子供竜たちが次々に背中から激突してくる。ガスッ、ドカッ、ガツン、ドシン、と次々に繰り広げられるアタックに限界を迎え、前にばたりと倒れ込むと次々に上へと乗られ、こんもり子供竜山が出来上がった。
ちーん。な、なんだよこれ……。
「ブフッ、アッハッハ!! リュシュってば、完全にこの子たちに気に入られちゃってるわね!」
「き、気に入られてるというか、馬鹿にされてるというか……、それより助けて……」
ずっしりと上に乗られて身動きが取れない。また下手にまき散らして起き上がると、こいつらをただ喜ばせるだけだしな。それは疲れる。
「あー、笑った笑った。ほんとリュシュ最高」
そう言いながらルーサは子供竜の小山から引っ張り出してくれた。しかも片手で軽々と……さすが竜人だな。
「リュシュは相変わらず竜に気に入られてるんだな」
ディアンがクスクスと笑いを抑えきれずに言った。シーナさんは鼻息が荒くて怖い。
「まあ教育係はなにも心配いらないくらい、すでにリュシュは馴染んでるしな。細かい説明はルーサに聞いてくれ」
ログウェルさんまで笑いながら話す。俺の存在って一体……。
ログウェルさんはディアンに教育係について説明をしていた。ディアンは真面目に話を聞き、シーナさんは子供竜にちょっかいを出している。あの人はブレないな……。
全ての説明が終わったら戻って来るとルーサに伝え、次の場所へと移動する。
巨大な食糧庫を通り過ぎると次は訓練係の部屋だった。
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