第四十六話 訓練係
訓練係の部屋は教育係の部屋よりも圧倒的に広かった。竜舎と呼ばれ、厩舎と同じような感じだな。一匹ずつ柵で分けられ小部屋のようになっている。厩舎と少し違うのはやたらと小綺麗なところか? 人間が住んでそうなほど、掃除が行き届いた部屋に真っ白のシーツのような巨大な布がふんわりと寝心地が良さげなベッドのようになっていた。それが何十と並んでいるのだ。
今は訓練中らしく一匹も竜舎のなかにはいなかった。ちなみに強化係の竜舎も全く同じらしいので割愛されました。
「演習場へ行くぞ」
ログウェルさんはそう言うと演習場へと向かう。演習場では多くの竜たちが……
「おぉ!! 圧巻だな!!」
俺よりも先にディアンが声を上げた。あ、そっか、ディアンはこれだけ間近でこんな多くの竜を見たことがないもんな。俺は試験のときに見ることが出来たからディアンほどではないのだが、それでも全ての竜が並んでいる姿というのは凄い迫力だった。
「こっちが訓練係、あっちが強化係だな」
ログウェルさんが指を差しながら説明する。右側の竜たちが訓練係、左側にいるのが強化係か。
まず訓練係に近付いていくログウェルさん。
「おーい! ちょっと来てくれ!!」
竜に向かって声を掛けている……と思ったら、人垣……いや、竜垣? の中から人が顔を出した。二人の男女。
二人とも鮮やかな真紅の髪に、男のほうは琥珀色の瞳。女は灰色の瞳。
「ヴァーナムとリンだ」
こちらに向かってくる二人を見ながらログウェルさんが言った。
ヴァーナムと呼ばれた男はとんでもなく体格の良い屈強な身体つきだった。リンと呼ばれた女はさらっさらな長髪に、キリッとした表情。スラっとしていてかっこいい。まるで騎士のようだが……育成課にいるんだよな。
「なんだ? 今訓練中だぞ」
「あぁ、すまんな。新人の紹介だけさせてくれ」
「新人?」
ヴァーナムさんはこちらを見たかと思うと上から下まで眺めるように見た。
「こいつらが? 新人は募集してないんじゃなかったか?」
「あー、いや、ちょっと色々あってな。あぁ、それからこっちの男は育成課じゃない。治療師の新人のディアンだ」
「よろしくお願いします」
ディアンがそう挨拶をすると、ヴァーナムさんは少し頷き、そして俺を見た。眉間に皺を寄せて……。
「こいつが育成課の新人か? なんかひょろいやつだな」
ムカッ。そりゃあんたに比べたら皆ひょろいだろうよ!
「お前たち竜人がデカすぎるんだよ」
シーナさんがずいっと前に出てヴァーナムさんの前に立つと、腹の位置くらいにまでしかシーナさんの頭は届かなかった。ほ、ほんとでっかいな。
「そうか? お前が小さいだけじゃないのか?」
そう言いニヤッと笑うヴァーナムさん。それにカチンと来たのか、シーナさんまでニヤッとし、両手を前に出すとワキワキと指を動かし腹を狙っていた。
「「あっ」」
思わずディアンとハモった。ま、まさかあの魔法を使うんじゃ! ヴァーナムさん、危険だぞ! と思ったが、その瞬間ヴァーナムさんは後ろに飛びのいた。
「チッ」
シーナさんはあからさまな舌打ち。
「ふん、お前のやることなんかバレバレなんだよ! お前の怪しい魔法なんか誰が受けるか!」
ここにいますよ? 受けちゃった人。
ヴァーナムさんはそう叫ぶが、ディアンと二人でそろーっとログウェルさんの顔を見る。ログウェルさんはそっと目を逸らした。
それにしてもシーナさん、あちこちで色々バレるくらいやらかしてるんだな。想像すると笑ってしまった。
それにしてもヴァーナムさんが俺たちと話している間中、一切一言も喋らないリンさん。な、なにやってんだ? そろりとリンさんを見る。
リンさんは笑うでもなく、少し怒っているのか? というくらいの真面目な顔で腕を組みながら綺麗な姿勢のまま立っていた。
「終わったのなら、私は戻る」
初めて口を開いたかと思うともう戻る宣言!
「い、いやいや、ちょっと待て! シーナとヴァーナムのやり取りですっかり忘れてるじゃないか! リュシュの紹介に来たんだよ!」
そんなことをやいやい言い合っていると、激しい風圧を感じた。まるで暴風が吹き荒れた嵐のような風で髪の毛が踊り出す。
『リュシュじゃないか、なにやってんだ?』
見上げると離れたところにいた竜たちが騒ぎを聞きつけ飛んで来ていた。上空で浮かんでいるもの、ドスドスと歩いてやって来るもの……いや、翼あるんだから飛べよ。
「ヒューイ!」
もうすでに試験が昔のことのように思ってしまう。あのかっこいい竜はヒューイだ。
『お前、俺がせっかくあんな華麗に飛んでやったのに落ちてんじゃねーよ!!』
グサッ。相変わらず口が悪かった……。
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