第三十九話 初出勤!

「じゃあな!! 城でも頑張れよ!!」


 タダンさんは俺たちの背中を一人ずつバシッと叩いた。げほっ。


「また遊びに来てくださいね」


 フィリアちゃんも見送りに出て来てくれた。もちろん来ますとも! とフィリアちゃんの手を握ろうとしたら、物言わぬタダンさんの圧が凄かったのでやめました……。怖い。


 フィリアちゃんは大きく手を振り、俺たちを見送ってくれた。タダンさんもマヤさんも優しく見守ってくれている。

 振り返り大きく手を振ると、再び前を向いて歩き出す。




 カカニアから出て来た荷物をそのまま担ぎ、何度目かの城門を通る。今日から俺たちもこの城の一員だ!

 途中でフェイにも会い、一緒に寮へと向かう。


「じゃあ、俺はここでな。たまにみんなで会おうぜ」


 ディアンが立ち止まり笑顔で言う。


「うん、そうだな、また休暇のときには一緒に酒でも飲もう」


 四人で腕を重ね、そして離れた。

 アンニーナも女子寮へと。俺とフェイは男子寮へと向かう。




「さて、荷物を置いたらすぐに演習場へ向かわないと。リュシュもだよね?」

「あぁ、俺は事務所のほうだけどな」


 そう言ってフェイとも「じゃあな」と笑い合い別れた。


 用意された部屋の鍵を開け、中へと入る。

 まだ朝早くだからか部屋へ入ると少し薄暗い。荷物を床に置き、ベッドの横にある窓を思い切り開けた。部屋には朝の冷たい空気が入り込み少し肌寒いが、そのおかげでピリッと背筋が伸びる感じがする。


「今日からここが俺の家だ」


 外の冷たい空気を思い切り吸い込み深呼吸をする。


「さあ、行くぞ!!」


 両頬をパンと叩き気合いを入れる。荷物をベッドの横に置いて、そのまま事務所へと向かう。寮の中では多くの男たちが朝の挨拶を交わしていた。


 見ない顔だからすぐに分かるのだろう、多くの男たちから「おー、新人! 頑張れよ!」と声を掛けられながら向かうことになった。


 竜騎士たちだろう集団を横目に眺めながら事務所を目指す。その集団の中にはすでにフェイやアンニーナの姿があった。ついでにネヴィルも。

 二人とも俺の姿に気付くと、ニッと笑い目を合わせた。それが嬉しくなり、俺もいつかあの場所に行ってやる! そういう気にさせてくれた。


「おはようございます!」


 事務所に入り大声で挨拶をする。


「おー、おはよう」


 今日はログウェルさんがいた。良かった。


「よし、来たな。今日からよろしくな!」

「はい! よろしくお願いします!」

「ハハ、気合い入ってんなぁ、はりきりすぎてバテるなよ?」


 ログウェルさんが笑いながら言う。う、確かにはりきりすぎて空回りしそうだな……自重しよう。


「えーっと、まずはだなぁ、仕事の説明をこれからするのと、忘れないうちに……」


 ログウェルさんは書類やらが山積みになった机の上をガサガサと漁り、何かを確認中。

 その机……なんとかしたほうが良いのでは……。バサバサっと大量に書類が床に散らばる。しかしログウェルさんは放置……おいおい、良いのかよ。


「あったあった、これだ。昨日通知が来たんだよな」


 だ、大事な書類がそんな適当で良いのか?


「えーっと、明日新人全員この演習場に集まってだな、王からのお言葉があるらしいぞー」

「えっ!! 王様ですか!?」

「あぁ、王様だな」

「王様を見ることが出来るなんて……」

「あー、ま、うん。とりあえず伝えたからなー、覚えといてくれ。明日新人全員と俺たち責任者も一緒に集まるから」


「…………、それって自分が行くのを忘れそうだから、俺に覚えとけってことじゃないですよね?」


 じとっとログウェルさんを見ると明らかにうろたえた。


「い、いや? そんなことないぞ? お、お前が参加しないとだろ? それだけだ、ハハ」


 絶対俺のためじゃないだろ。通知自体失くしかけてたし。はぁ、まあ良いか。とりあえず明日人生で初めて王様を生で見られるんだからな! 楽しみだ!



「相変わらずきったない部屋だな!」



 そんなことを話しているとき背後から女性の声がして振り向くと、濃紺の髪の毛を頭のてっぺんでお団子にし、真ん丸メガネの気の強そうな美人さんが腰に手を当て立っていた。ムチムチの服に白衣を着ているが、あのデカい胸には見覚えが……、と思っていたら、その美人さんの後ろにディアンが苦笑しながら立っていた。ん?

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