第三十八話 手紙

「手紙はどうやって出すんですか?」

「お手紙ですね、封筒をしっかりと封をしていただきこちらにお持ちいただければ大丈夫です。どちらにお届けですか?」


 ニコリと男は微笑む。


「カカニアなんですが……」

「カカニアですか、ならば二日ほどでお届け出来るかと思います。こちらをご購入いただき、手紙と同封していただければ次回からはその場でお届け出来ますよ」


 そう言いながら男は小さな紙に描かれた魔法陣を見せた。


「え!? なんで!?」


 驚いて大きな声を出してしまい、男はクスッと笑った。


「こちらの魔法陣には転移の魔法が施されております」


 そう言って男は先程見せた魔法陣と同じものをカウンターに置いて見せた。

 二つの紙に書かれた小さな魔法陣。それらの二つを行き来するわけか。


「でも転移魔法って結構珍しい魔法じゃなかったですっけ?」


 転移魔法を扱える人間はかなり限られている。カカニアにはいなかった。特殊な魔法なため使える人間も少なく、カカニアのような辺境地では詳しい情報などなかった。転移魔法がある、という事実くらいしか実際のところ知らないのだ。


「さすがに人間を転移させるほどの魔力を持っているわけではないのですが、小さいものならこの魔法陣を介して行うことが出来るのですよ」


 そう言った男はニコリと笑った。


「え、貴方が?」

「えぇ、私はロナス商会を取り仕切っております、ロナスと申します。以後、お見知りおきを」


 ロナスと名乗ったその男……この男がロナス商会の代表!? 結構若そうだけどな……意外と歳いってんのか? と、目を丸くしているとロナスさんはクスッと笑った。


「若く見えるかもしれませんが、それなりに長い年月を経て信用を得ていますのでご安心を」

「あ、はい、すみません」


 なんでか謝ってしまった……。長い年月……一体何歳なんだ、この人……謎。


「お手紙を出されますか? 今書かれるのでしたら、ペンをお貸ししますよ?」


 そう言いながらロナスさんは胸ポケットから繊細な模様が刻まれたペンを差し出した。あまりに綺麗なペンで気が引けたが、今書いて良いなら書いてしまおう、そう思い立ちペンを借りることにした。だってさ、気分が上がっているうちに書かないと忘れそうだし。


 カウンターに椅子を用意してくれ、買ったばかりの便箋に手紙を書く。



 カカニアを出てから色んな人たちと(ドラゴンにも)出逢って、無事王都にもたどり着き、友達も出来て一緒に竜騎士を目指したこと。

 三日間の試験を受けたが駄目だったこと。

 茫然自失でどうしたら良いか分からなくなっていたときに育成課の話をもらったこと。

 これから寮に住み始めること。


 そして、もしかしたら育成課を頑張れば、再び竜騎士を目指せるかもしれないこと。


 だから俺はまだ王都で頑張ってみるよ。



 そう手紙に書いた。今までのこと、これからのこと、まだ諦めないことを。


 いつか胸を張ってカカニアに帰るから! そのときまで待っててくれよな! そう決意を新たに手紙を封筒に入れた。


「ではこちらはどうされますか?」


 ロナスさんが先程の魔法陣が書かれた紙を見せた。


「買います、いくらですか?」

「ご購入ありがとうございます」


 魔法陣は紛失したり破ってしまったりしなければ、半永久的に使用出来るらしい。しかし送るときにはロナスさんの魔力を注がなければならないので、半永久的といってもロナスさんがいなければタダの紙屑なのだ。

 毎回ロナスさんの元で送ってもらうことになるのは普通の配達と同じなので、魔法陣の値段自体は安いものだった。


「ではこちらも一緒に同封してくださいね」


 魔法陣と一緒に渡されたその魔法陣の使用方法が書かれた紙も一緒に同封。しっかりと封をし、ロナスさんに渡す。


「それではこちらは責任を持ってカカニアまで届けさせていただきます」

「よろしくお願いします」


「リュシュ、なにやってんの?」


 ちょうどロナスさんとやり取りが終わったころにアンニーナとディアンが現れた。デートは終わったのかよ、こんちくしょう。


「家族に手紙を出してた」

「手紙かぁ、私も書こうかなぁ」

「アンは手紙なんか書かなくても皆心配してないだろうけどね、ハハ」

「ちょっと、どういう意味よ」

「アハハ」


 おい、俺が失言したときよりも穏やかじゃないか。俺が同じことを言ったらめちゃくちゃ睨むくせに……。




 ロナス商会をあとにし、タダンさんの店まで戻ると三人揃って明日から寮暮らしになることを説明した。

 ディアンは俺たちとは違う別棟の寮だ。そちらは他部署の人たち全員の寮らしい。結構な人数になるんじゃないかと聞いてみると、案外採用人数が多くないらしく、どの部署もそれほど人数がいないようだ。しかも結婚すると寮からは出るらしいので、実質的には部屋が余っているらしい。

 聞いている様子では俺たちの寮とさほど変わらない感じだった。


 その日は夜各々荷造りをし、明日へと備えた。カカニアから出て来たときに持ってきた荷物はさほどない。あっという間に荷造りを終え、ベッドに横たわる。


 いよいよ、明日からは城での生活。楽しみだな。

 キーアのいない静かな部屋でこれまた眠れぬ夜を過ごすのだった。

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