第四十話 四つの係

「やあ! 君か! 君が育成課に入ったという新人か! 竜騎士は駄目だったんだな! まあ竜騎士は狭き門だからな! 仕方ない!」


 そう言いながら少し目線の低いムチムチお姉さんは俺の肩をバシバシ叩いた。


「は、はぁ……」


「ログウェルはいい加減な男だからな! 気を付けろ!」


「おい、どういう意味だよ」


 ログウェルさんがめちゃくちゃ嫌そうな顔をしている……。ムチムチお姉さんは豪快に笑いながら、ログウェルさんに近付いた。


「私が嘘をつくわけがないだろう、そのままの意味だ! アハハハ」


 ムチムチお姉さんは普通の人間女性らしく、小柄でもないが俺よりも背は低い。ログウェルさんはヤグワル団長にも負けず劣らずの背の高さ。そのせいで二人の身長差は頭二つ半ほどあるのではというくらい差があった。


 ログウェルさんの横で豪快に笑っているムチムチお姉さんを眺めながら、ディアンがこっそりと話しかけてきた。


「彼女、シーナさんて言って、俺の上司だ」

「え、そうなの!?」


 それで入って来たとき苦笑していたのか……このお姉さんのテンションについて行くの大変そうだな……。


「覚えてないか?」

「ん? なにが?」

「試験のとき受付にいた人だよ」

「受付…………え!? 受付ってあの受付!? あのときのツインテール……」

「そう、その人」

「そっか、髪型が違うから気付かなかったのか。道理で見覚えのあるおっぱ……ゔぅん」


 あのときのツインテールお姉さんかぁ。そういやこんな喋り方してたな。


「あのあと俺が試験会場に行ったとき、試験監督としてあの人が来たんだ。そこで上司だと知った」


 ディアンは苦笑しながら話す。あの人が上司か……なんか大変そうだな。



「君! 名はなんだ!?」

「え、は、俺?」

「君以外に誰がいる、私は他の者たちの名は知っている」

「あ、そうっすね……ハハ、リュシュです」


「よし、リュシュか、私はシーナだ! そこにいるのは治療師の新人ディアン、以後よろしく頼むぞ! なぜ我々がここにいるかというとだな、治療師と育成課は一緒に研究をしているからだ!」

「は、はぁ」


 ログウェルさんがそろりと逃げ出そうとしていたので、シーナさんは視線を俺のほうへ向けたままログウェルさんをガシッと掴んだ。


 おぉ、スゲー……。明らかにログウェルさんがたじたじになっている……。

 ログウェルさんを掴んだままシーナさんは話を続ける。


「今日はこれから育成課の説明をログウェルに聞くのだろう? ついでにディアンも一緒に聞いたらいいと思ってな。そのために我々はここにいる」

「そ、そうなんですね」

「ちなみに治療師の新人もディアン一人だけだ! 仲良くしてやってくれ!」


「え、そうなの?」


 驚いてディアンの顔を見た。ディアンは再び苦笑する。


「あぁ、今回試験が厳しかったらしくてな、俺以外合格者はいなかった」

「へぇぇえ、凄いな、さすがディアン」


「なんだ、君たちは知り合いか、なら話は早いな。これから一緒に研究をすることもある。よろしく頼む」

「あ、はい」


 ログウェルさんがとてつもない大きな溜め息を吐いたのが聞こえた。ハハハ、見なかった、聞かなかった……うん。

 アンニーナが知ったらめちゃくちゃ不機嫌になりそうだな……、ということにも気付かないふりをした。




 あまりの散らかり具合だったため、少し書類関係をまとめてから椅子を並べログウェルさんの育成課の説明が始まった。


「えーっと、まずは育成課の係を説明する」

「係……」

「あぁ、育成課には四つの係がある。それらを全部ひっくるめて育成課という部署になっている」


 ログウェルさんの説明では育成課には四つの係……


 ・番が卵を産み、孵化するまでの世話『育成係』

 ・孵化したあと少し落ち着いてからの幼獣期の世話『教育係』

 ・成獣になったばかりの竜の世話『訓練係』

 ・成獣になってからしばらく訓練を続けた竜の世話『強化係』


 その四つの係があるらしい。


 キーアが今いるのは教育係。したがって俺も必然的に教育係になるわけだな。


「ルーサが教育係なんだが、今一人しかいない。だからとりあえずリュシュは教育係に入ってくれ。まあどちらにしろ最初は教育係からなんだがな」

「? なんでですか?」

「育成係は難しいんだよ。卵の孵化率は低い。さらに竜は一年に一度しか卵を産まない。産む頻度は少ない、孵化率も低い、では新人には任せにくくてな。だから新人が入るとまず教育係から始まり、育成係→訓練係→強化係と進む。一年に一度昇任考査があるから、その考査次第で先の係に進める」

「なるほど」


 ディアンも一緒になって真剣に聞いている。シーナさんは……船を漕いでいた……おい。

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