第二章《仕事》編
第三十一話 育成課
「お前、育成課に入らないか?」
は? 育成課?
育成課? なんだ? 育成課……まあ、言葉からしてドラゴンを育成するところか? え? 俺が? 育成課?
「えっと、あの、育成課って……何の話ですか?」
一応聞いてみる。恐らくヤグワル団長は俺があまりに悲愴で、しかもキーアが離れようとしないから気を遣ってくれたんだろう。
人手が足らないからここで雇ってもらえば良い、ということか。でも俺は……。
「育成課ってのはここの竜たちの世話係だな、まあ詳しくは働くようになったら説明するが、育成課で竜たちと一緒に過ごし、一年に一度の昇任考査を受けて昇級していけば、いつか竜騎士にもなれるかもしれないぞ?」
「えっ!?」
竜騎士に!? 驚いて顔をガバッと上げた。その姿を見たヤグワル団長とログウェルさんは笑った。
「ハハ、やっと顔色が戻ったな。本当だ。ここで育った竜が騎竜になる試験、それに一緒に参加することが出来れば竜騎士にもなれるかもしれない」
「騎竜になる試験……ヒューイが言ってたやつ……」
「あぁ、ヒューイもいずれ受けることになるだろうな」
「そ、それを受けることが出来れば俺も竜騎士になるチャンスがあるってことですか!?」
「あぁ」
竜騎士になれるかもしれない!? 竜騎士試験が駄目だった俺が、竜騎士になれるかもしれないのか!? そう簡単にいくわけはないだろうが……、でも、ほんの少しでも、僅かな可能性でも、少しでも望みがあるのなら……
「俺、ここで働かせてください!!」
勢い良くそう叫んだ。ヤグワル団長とログウェルさんは顔を見合わせ笑った。
「ハハ、じゃあよろしく頼むよ!!」
そう笑いながらログウェルさんは俺の背中をバシッと叩いた。げほっ。ち、力強い……。
「じゃあ、決まりだな。頑張れよ、少年!」
「しょ、少年て……」
「アハハ!!」
『リュシュずっと一緒なのー!?』
キーアが激突してきた。うぐっ。
「あ、あぁ、俺もここで働かせてもらえることになった。お前とまだしばらくは一緒だな」
『リュシュと一緒ー!!』
キーアはバサバサと部屋の中を飛び回る。他の子供ドラゴンたちも一緒になって飛び回っている。ハハ、楽しそうだな。
「この竜、本当にお前に懐いているんだなぁ。こりゃあ、離れられないわな」
ハハ、と笑いながらログウェルさんもキーアを見上げる。
今後のことは明日もう一度この部屋まで来い、と言われ、キーアと共に今日は帰ることになった。
あぁ、あの絶望的な心境から一気にウキウキだ。竜騎士には落ちてしまったが、まだ望みが残っているというだけで、こんなにも心が軽くなるもんなんだな。
育成課……、どんなことをするんだろうな。まあ世話係って言ってたから、馬の世話と似たようなもんかな。
店まで帰るとすでにアンニーナが帰っていた。
「リュシュ!! どこ行ってたのよ!!」
「リュシュ! 大丈夫か!?」
ディアンも心配そうに駆け寄って来る。あぁ、二人とも凄く心配をしてくれている。不謹慎だが嬉しくなってしまう。
「ごめん、ちょっと色々あって……」
タダンさんが見晴らしの良い席を用意してくれ、今晩はおごりだ、と豪華な食事を用意してくれていた。そのタダンさんも少し心配顔。
あまりに皆に心配をかけていたんだな、と反省。合格発表後にあったことを説明した。
キーアを預けること、育成課から働かないかと声を掛けられたこと、もしかしたら竜騎士を目指すことが出来るかもしれないことを。
「え、それじゃあ、リュシュも一緒に城で働けるのね!?」
「そういうこと……かな?」
「そうか! 良かったじゃないか!!」
「もう! 帰って来なくてめちゃくちゃ心配したんだからね!!」
アンニーナに思い切り肩をバシッと叩かれた。い、痛い……。
「ごめん、心配かけて」
「うん、まあ良い知らせを持って帰って来たから許す!」
「ハハ、ありがと」
「それにしても育成課か、なるほどな、キーアと一緒だと納得だな。リュシュはドラゴンと会話も出来るし、ピッタリじゃないか。それに俺とも一緒に働くことになるかもな!」
「ん? ディアンと?」
「あぁ、俺の治療師はドラゴン育成課と共同でドラゴン研究をしているらしいんだ。治療師だけではドラゴンの言葉が分からないからだろうな。育成課に協力してもらいながら、色々調べていくらしい。詳しくは俺も入ってからしか分からないんだけど」
「へー、そうなんだ。じゃあ、一緒になにかすることが多そうだな」
「あぁ、よろしくな」
「ハハ、こっちこそ」
「私だっているんですからね!」
アンニーナが仲間外れにするなとばかりに割って入って来た。
「分かってるよ、アンニーナは竜騎士おめでとう。頑張ってくれよ」
「えぇ、私は一番の竜騎士になるわよ!」
「一番はフェイじゃ……」
言ったあとで、しまった、と思ったがもう遅い。アンニーナに思い切り睨まれた。俺も懲りないな……。
「リュシュもなんとかなって良かったな! おごりだ! 食え食え!」
タダンさんが酒もご馳走してくれ、豪華な料理とともに美しい夜景を堪能した最高の夜になったのだった。
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