閑話

アンニーナとフェイの試合 その一 剣

「次!十一、十二!」


 呼ばれて演習場にやって来たのは、屈強とは言い難いが、背が高く大剣を持った男。

 それと細身の長剣を腰に下げ、長い髪をポニーテールで纏め上げ、キリッとした表情のアンニーナ。


 男はニヤニヤとしている。確実にアンニーナを舐めているようだ。アンニーナはその表情にイラッとする。


 なによ、あいつ、ムカつくわね! 女だからって馬鹿にしてんのね! 絶対負けないんだから!


 イラつくアンニーナは気合いを入れた。


「模擬戦は五分間!! 武器は剣が基本だが、何を使っても良い! 相手を殺したら失格だ! 気を付けろ! あまりに力の差がある場合、こちらが中断させる場合がある! そのときは大人しく従え! 以上だ、では位置に付け!」


 アンニーナと男は距離を取り、そしてお互い剣を構える。男は大剣を両手で構え、アンニーナは長剣を右手に持つ。


「開始!」


 ヤグワルの声が響き渡ると同時に男は大剣を肩に担ぐように掲げアンニーナまで駆け寄る。

 アンニーナは動かない。長剣を下にダラりと下げたままだ。


 さて、どれくらいの力かしら。受け止めてやる。


 長剣を握る手に力を込める。


 男は勢い良く大剣を振り下ろす。アンニーナは冷静にそれを見据えると、男の大剣に合わせ、長剣で受け止めた。


 ガキンッという金属音が響く。


「へへっ、受け止めるとはなかなかやるな」


 鍔迫り合いをしたまま、男はペロリと唇を舐めながらそう言った。


 キモッ!!


 アンニーナはあからさまに嫌そうな顔付きになり、鍔迫り合いから長剣を下に思い切り振り下ろし、男の大剣を流した。


 男の一撃を受け止め、アンニーナは頷いた。


 よし、この男は大したことない! いける!


 アンニーナは長剣を右手に下げたまま、一気に男に詰め寄り右下から左上へと振り上げた。

 瞬足とも思える速度で距離を詰められ、男は驚愕の顔で後ろに飛び退く。


 しかしアンニーナはすぐさま再び近付き、左から右へと横一文字に振り抜く。


「うおっ!!」


 男は辛うじて避けるが、切っ先は服を掠め、はらりと上着が垂れ下がる。


 男は思ってもみなかったアンニーナの速度に驚き苛立ちを覚えたようだ。怒りをあらわにした表情で怒気を混じえた声を上げた。


「くそったれが!!」


 大剣を真横一文字に振り抜いた男の足元にしゃがみこみ、それを避けるとアンニーナは左下から右上へと長剣を振り上げ、そして男の頬を掠める。


 たらりと血が滴り、振り上げたと同時に立ち上がったアンニーナは長剣の腹を男の首に押し当てた。


「そこまでだ!!」


 ヤグワルの声が響き渡り、試合は終了となった。


 ニッと笑ったアンニーナは長剣を軽やかに鞘へと収めると、一礼し演習場を後にした。

 男は治療師に傷の治癒を受け、屈辱的な表情で控えの間へと戻るのだった。



 ◇◇◇



「二十七、二十八、来い!」


 フェイは落ち着いた顔で演習場へと出る。後ろから続く対戦者はまるでまだ子供なのかと思えるほど、背も低く幼い顔をした女。オドオドとしながらフェイに続く。


 フェイはそんな姿を見て苦笑する。


 なんだか子供を虐めるようで気が引けるなぁ……、でもこう見えて凄い剣の使い手かもしれないしな。油断は出来ない。やりにくいな。


 フェイは小さく溜め息を吐いた。


「模擬戦は五分間!! 武器は剣が基本だが、何を使っても良い! 相手を殺したら失格だ! 気を付けろ! あまりに力の差がある場合、こちらが中断させる場合がある! そのときは大人しく従え! 以上だ、では位置に付け!」


 フェイとその女は距離を取る。フェイは片手剣。優雅な動作で鞘から引き抜いた。

 女はそれを呆然と眺めたかと思うと、ハッとした表情になり慌てて鞘から剣を抜く。その姿にフェイは苦笑するが、それよりも女の剣に目が行った。


 二刀流か。


 女は長さの違う短剣を二振り逆手で構えた。


「開始!」


 さあ、どうくるかな。様子を伺うようにお互い睨み合いで、じりじりと横に足を動かす。

 しかしそれでもやはり女はどこか不安げな顔。


 意を決したように女は地を蹴り、水平に跳ぶように一瞬でフェイの足元へとたどり着く。


 速い! 小柄な分動きが速いのか!


 フェイの足元を狙い、女は身体を回転させながら短剣を振るう。

 フェイは軽やかにジャンプし、女の肩に手を付き飛び越えた。


 女はそのまま背後を向き、さらにフェイを切り付ける。しかしそれは想定済みである。フェイは片手剣でそれを弾いた。


 キンッと甲高い音と共に女の短剣が一振飛んだ。


「あっ」


 女はしまった、といった顔だが、しかしすぐに再び回転しながらフェイの足元を狙おうとする。


 同じ手か?


 フェイは再び避けようとするが、女は手を地に付き回転しながら逆立ち、開脚しながら振り回す。


 一瞬ギョッとしたフェイは蹴りを両腕で受け止め、痛みに顔を歪めた。


「ハハ、なかなか良い蹴りだね」

「フフ、でしょ?」


 蹴りを入れた女はその勢いのまま足元で再び短剣を振るう。しかしフェイはすぐさま片手剣を女の短剣に当てる。


 再びキンッと甲高い音を立て、短剣が宙を舞った。そのまま低い姿勢の女の首に押し当てるように片手剣を突き立てた。


「そこまで!」


「あぁぁあ!! 負けたー! 悔しいぃ!!」


 短剣を手放してしまい悔しさを滲ませる女。しかも結局フェイは攻撃をしていない。防御だけで負けたのだ。


「もう! 攻撃する必要すらないって!? 悔しいぃ!」

「いや、別にそういうわけじゃ……」


 詰め寄られ愚痴られ、たじたじなフェイ。


「ほれ、もう終わりだ。戻れ!」


 ヤグワルに促され渋々控えの間に戻る女と、苦笑しながらそれに続くフェイだった。

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