第三十話 勧誘
「あー、まあ、残念だったな……」
「はぁ」
ヤグワル団長は頭をガシガシと掻きながら言い訳でもするように話す。
分かってるよ。自分の実力くらい分かってる。俺が竜騎士になんてなれる訳がなかったんだ。だからそんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫だ。
「まあお前なりに精一杯やったんだろう? 竜騎士は無理にしても、他にも仕事があるだろう」
「そうですね」
励ましてくれているのは分かるが今はそっとしておいて欲しい。どうにもまともに返事が出来ない。もうそっとしておいてくれ。
そんな空気に居たたまれなかったのか、ヤグワル団長はそれきり何も喋らなかった。
演習場をひとしきり歩き、たどり着いた先は演習場の周りにあった建物。その一つに入る。
ヤグワル団長に続いて中へと入ると……。
「うわ……」
広々とした部屋に何匹もの子供ドラゴンがいた。色とりどりの子供ドラゴンたちが自由に飛び回っている。
「ここで子供の竜を育てている」
「育てて……」
「あぁ、ここでは子供のときから育て、成獣になると訓練をし、そして騎竜へと育てるんだ」
「ヒューイのように?」
「あぁ。ヒューイもここで育った」
「へー……」
だからなんだ、ともう完全に気力を失ってしまった。
「じゃあ、キーアをここに預けたら良いんですね? キーア」
頭の上のキーアに声を掛け、キーアはヤグワル団長の前にちょこんと降りる。
「キーア、ここで騎竜になるために世話してもらえるんだってよ。良かったな、お前も何年後かには立派な騎竜だ」
俺は何年後になろうとももうここにはいないだろうけどな。
『キーアここで騎竜になるー!!』
「うん、頑張れよ。じゃあな」
『? リュシュは?』
キーアが俺を見上げる。
「俺はここにいられない。お前はこれからここで頑張れ。俺とはさよならだな」
『?? キーア、リュシュと一緒!』
「ハハ、一緒なんていられるわけないだろ。そもそもお前とはただ成り行きで一緒にいただけなんだから」
『やだ! リュシュと一緒にいる!』
「お前騎竜になりたいんだろ?」
『騎竜なる!』
「なら俺とはいられないって言ってんだよ」
『キーア、分かんない!!』
聞き分けのない子供を相手にしているようでイラッとしてしまう。俺だってここにいたいけど無理だって言ってんだろうが!!
「いい加減に……」
涙目になりながら怒鳴りそうになる。それを見兼ねたヤグワル団長が声を掛けてきた。
「ちょっと待て」
「?」
そう言って部屋の奥へ行ってしまい、何やら話し声が聞こえた。
漏れ聞こえてくる声は、ヤグワル団長ともう一人男の声。
「お前、人手が欲しいと言っていたよな?」
「えぇ、ずっと言ってますよ! 当たり前じゃないですか! 全く人手は足りてないのに、最近受験者も募らなくなってしまって!! どうしてくれるんですか!!」
「い、いや、募集しなくなったのは俺のせいじゃ……」
「そんなの分かってますよ! でも誰かに当たりたくもなるってもんでしょうが!」
「ま、まあな……その、すまんな」
「まあ、団長のせいじゃないし、俺もすみません。で、なんですか?」
「あー、その、良いやつが見付かってな!」
「は?」
そんな会話が繰り広げられたあと、ヤグワル団長が戻って来た。一人の男と一緒に。
ヤグワル団長に負けず劣らずの屈強な身体つきに、濃紺の髪と灰色の瞳。ヤグワル団長もかなりのデカさだが、この男も相当デカいな。竜人か。
「こいつだ」
「ん? この子どうしたんですか?」
「今年の竜騎士受験者でな、竜騎士は無理だったんだが、ここで雇ってはどうかと思ってな」
「「は!?」」
その男とハモった。
は!? 雇う!? どういうことだ? なんのことだ。
「こいつ、なぜだかめちゃくちゃ竜に気に入られるようでな。竜騎士試験でもやたら竜たちに囲まれていた」
え? な、なんの話だ? あのやたらドラゴンたちに絡まれたやつか?
「竜に気に入られる……」
「あぁ、しかも竜と会話していたぞ」
「えっ!! マジっすか!?」
「あぁ」
え、なにこの反応。
「君! 本当に竜と会話出来るのか!?」
ぐりんと俺のほうを向き、ガシッと肩を掴まれめちゃくちゃ間近で見詰められる。
いやちょっと近い!! 男とそんな見詰め合っても嬉しくねー!! しかもデカいから怖いし!!
「そうですけど! ちょっと! 近い!!」
腕でグイグイ押してもビクともしない。
「あ、あぁ、すまん。俺はログウェル。ここの責任者だ」
「はぁ」
名乗られても、それがどうした。わけがわからない。
再びヤグワル団長がログウェルさんとやらに並び、ニッと笑った。
「お前、育成課に入らないか?」
は? 育成課?
*************
これにて第一章完結です。
次回、2話ほど閑話が入ります。
アンニーナとフェイ、二人の試験をお送りします。
その後第二章開始します。
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