第二十七話 ドラゴン選び

 うわぁ、なんだこのドラゴン……めちゃくちゃ口悪いな。や、やめとこうかな……。

 そろーっと何事もなかったかのように視線を外し、違うドラゴンの元へと向かおうとすると……


『おい、待てよ、こら。お前、今俺と目が合っただろうが。どこに行きやがる』


 うぉぉお、ドラゴンに絡まれてるよ! ど、どうするよ、これ! うわぁ、嫌だな、このドラゴン……。めちゃかっこいいと思ったのに性格悪そうだ……。


「あー、いやぁ、その……他のドラゴンたちも見たいしなぁ、と……」

『ほほぅ、俺よりも他のやつが良いと。そういうわけだな?』

「え、いや、そういうわけじゃ……」


 こ、怖いわ! なんだよ、このドラゴン!


『まあ他のやつも見てきたら良い』

「え? 良いの?」

『あぁ? お前がそう言ったんだろうが!』

「え、あ、いや、まあそうなんだけど……」


 まさかそんなあっさり引き下がると思わなかったから。もっとしつこく絡まれるかと思った。なんだ良いやつじゃないか!


「ありがとう! じゃあな!」


 なんかニヤッとした気がしたけど気のせいだよな。うん。ドラゴンなんだし表情分かんないし。

 サラッとそのドラゴンと別れ、他のドラゴンたちを見て回る。徐々に相手のドラゴンを決めた受験者たちがドラゴンの前に並ぶ。


 凛々しいやつを選ぶか? それとも優しげなやつか?

 どうしよ……。


 フェイは比較的体格が少し小さめのドラゴンを選んだようだ。

 アンニーナは優しげなやつ。

 二人に理由を聞くと「自分と似てそうだから」と。なるほど。そんな理由もありか。

 アンニーナが優しげかどうかは置いといて……とか言ったらまたキレられるから黙っておこう……うん、アンニーナも優しいよ。怖いけど。


 うーん、どのドラゴンもピンと来ないんだよな……。となると、一番最初にピンときたやつ……、う、なんだかなぁ、嫌なんだけどなぁ……あの口悪いやつ……。でもどのドラゴンにもピンと来ないんだから仕方ないよな……。

 小さく溜め息を吐きながら、再びあのドラゴンの元へと向かった。


 なんかニヤニヤしてる気がする!!


『ハハ、やっぱり戻って来やがった』

「なんだよ、なんか分かってたみたいな言い方しやがって」

『分かってたんだよ、お前はどうせ俺を選ぶってな』

「な、なんでだよ!」

『んー? なんでだろうな、勘?』

「か、勘……」


 なんかめちゃくちゃ悔しい気分になるのはなんでだ。

 くっそー、表情なんかないはずなのにニヤニヤしているように見えて腹立つ!


 はぁぁあ、でも実際ピンときたのはこいつだけだし仕方ないよな……。


 がっくりしながらそのドラゴンの前に立つ。他のドラゴンたちの前には何人も並んでいたりするのに、こいつには俺だけ……いや、どうよこれ。


「お前、人気ないな」


 ボソッと呟いた言葉にギロッと睨まれちょっとビビったが俺は悪くない! 実際俺以外に誰も来ないんだから!


『俺の強さにビビってるだけだろ! お前はなんか知らんが感じないようだがな!』

「ん? 強さ?」

『ふふん、俺はこの中でも一番の強さだぞ! 尊敬しろ!』

「そうなの?」


 イラッとしたドラゴンに思い切り頭突きされる。ぐふっ。俺こんなのばっかり……。




「よし! 全員選んだようだな! 全員竜の背後に並べ! 一人ずつ騎乗、あちらの試験官のところまで飛んだらこちらに戻って来る! それだけだ! 落ちるなよ! まず最初のやつ、前に出て騎乗しろ!」


 皆、恐る恐る騎乗する。中にはあまりの怯えっぷりでドラゴンの気に障ったのか振り落とされているやつもいた。


「うわ、大騒ぎになってる……」


 ドラゴンが怒り出し、受験者を振り落とす、という光景があちらこちらに見える。

 アンニーナとフェイは……。


 おぉ、さすがだな、二人とももう騎乗している。フェイは笑顔でドラゴンの背中を撫でている。ハハ、本当に好きなんだな。

 アンニーナは怖がってはいけないと判断したのだろう、見ている限り怯えたり怖がっている様子は全くない。アンニーナも撫でながら何かドラゴンに声を掛けているようだ。うん、言葉が通じなくても声を掛けることは大事だしな。馬でも同じだ。


 さて、俺は……。


『おい、早く乗れ』


 ふ、ふてぶてしい……ま、まあやる気出してくれてるのは有難いのか?

 ドラゴンの背中によじ登ると目線が高くなり気持ちがいい。やはりドラゴンに乗るのは嬉しいな! 思わずにやけそうだ。


 フェイたちと同じようにドラゴンに触れ、そっと撫でる。温かい。そして固い鱗。あぁ、あのときのドラゴンを思い出す。

 そういえばあのドラゴンは見当たらないな。違うところにでもいるのだろうか。


「竜騎士のドラゴンて何匹いるんだ? この十匹で全部じゃないよな?」

『あ? んなわけないだろ! 竜騎士と同じ数だけいるんだ、まだまだいるに決まってるだろ』

「だよな。うん」

『ん? なんだ?』

「え、いや、なんでもない!」


 この演習場にいるドラゴン、国境を守るために辺境地の砦へと赴いているドラゴン、それらを合わせただけでも数十匹はいるようだ。

 ドラゴンたちは基本的に竜騎士の相棒がいる。人間を騎乗させられるドラゴンはすでに騎竜になっているわけで、だから普段は違う人間を乗せているわけだ。

 だから今日集まっているドラゴンも基本的にはすでに相棒のいるドラゴンらしい。そりゃ、相棒以外乗せるの嫌かもな。


『まあ、俺みたいにまだ相棒のいない竜も今回は参加させられているがな』

「相棒いないのか?」

『俺はまだ見習いだからな』

「見習い?」

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