第二十八話 ドラゴン騎乗試験!

『まだこれから竜騎士の竜になる試験があるからな。それが終わらないことには相棒を持つことは出来ない』

「竜騎士のドラゴンも試験なんかあるんだ……大変だな」


 ドラゴンの世界も大変なんだなぁ……とか呑気に考えていたらヤグワル団長の大声が響き渡る。


「騎乗出来たか! 騎乗すら出来ないものはその場で見学! 次のやつに交代だ!」


 そう言われ渋々交代する羽目になるやつが続出。


「では、全員準備出来たな! 位置に付け!」


「うおっ! 始まる!」


 ボケッとしていたら急に号令があり焦る。


「そうだ! お前、名前は?」

『は? 名前?』

「うん、どうせなら、今だけでも俺の相棒ってことで名前教えてくれよ」

『…………、ヒューイだ』

「ヒューイ! かっこいい名前だな! よろしくな! ヒューイ!」

『あ、あぁ』


 ヒューイの背中をバシッと叩き、気合いを入れた。


『振り落とされるなよ!!』

「あぁ!!」




「それでは開始!」


 ヤグワル団長が笛を吹いた。甲高い音が響き渡る。


 その合図とともに受験者たちは手綱を振り、ドラゴンに飛ぶように指示を出す。

 アンニーナとフェイはスムーズに上空へと舞い上がり、他の受験者たちも同じく空へと舞い上がるが、中にはやはりドラゴンに拒否され、なかなか飛び上がることが出来ないもの、振り落とされそうになっているもの、様々だった。


「よし! ヒューイ! 行くぞ!」

『あぁ! 上がるぞ!』


 ヒューイは大きく翼を広げるとバッサバッサと砂ぼこりを巻き上げ羽ばたく。そして少し地面から浮上したかと思うと一気に上空まで舞い上がった。


「おぉ、すげー!! 気持ち良いー!!」

『落ちるなよ!』

「分かってる!!」


 上空で浮遊していたヒューイはそう声を掛けると、試験官を目指し進んだ。徐々に速度を上げ、風が顔や身体を押さえ付けるように当たる。凄い風圧だ。

 振り落とされまいと必死に手綱を握る。ずり落ちないようにヒューイの翼の動きに合わせ身体をよじる。

 なんだろう、ヒューイと動きが繋がるような感覚だ。ヒューイの動きを肌で感じる。次にどう動こうとしているかが分かる気がする。これは俺が弱いがゆえに感覚が鋭くなったおかげだろうか。


「ヒューイも感じてるか!?」

『ん? あぁ、最高の気分だ! お前、なかなか良いな!』

「リュシュ!」

『は?』

「俺の名前! リュシュだから! 覚えといて!」

『ハハ、リュシュか。どうせなら一番になるぞ!!』

「あぁ!!」


 ヒューイはさらに速度を上げ、試験官の元へとたどり着くと、勢いを殺さないよう大きく旋回し、出発地点に向き直るとさらに速度を上げた。


 方向を変えたヒューイはいまだ試験官へと向かおうとしている受験者たちとぶつからないよう高度を上げ、さらに上空を進む。少し肌寒く感じるほどの気温差を感じぶるっと身震いをする。


 アンニーナとフェイも試験官のもとから折り返したようだ。


『追いつかれないようぶっちぎるぞ!!』

「おう!!」


 ぐん、とさらに速度を上げたヒューイに振り落とされないよう、風圧を避けるように前傾姿勢で手綱を握り締める。


 その勢いのまま、ヤグワル団長の待つ出発地点を勢いよく通り過ぎた。やった! 一番だ!

 ヒューイは速度を落とすために大きくヤグワル団長を通り過ぎ、徐々に速度を落としながら旋回を繰り返す。そしてゆっくりと地上へと降り立ったのだった。


 バッサバッサと再び砂ぼこりを巻き上げ、地上へと降り立つとそっと翼を閉じた。


「ハハ、お前とヒューイは相性抜群だな!」


 ヤグワル団長が近付いて来たかと思うと、笑いながらそう言った。


「ありがとう……ございます」


 かなりの風圧に耐えながら、振り落とされないよう手綱を掴んでいることは、結構な疲労感だったようだ。ヒューイから降りるとぐったりした。


 他の受験者たちを待つ間に、ヒューイについて話を聞くと、ヒューイはまだ成獣になったばかりらしく、今まで騎乗の経験もないとのことだった。

 竜騎士のドラゴンたちは成獣になってからしばらくの間は、竜騎士のドラゴンになるために二年ほど訓練を重ね、そして騎竜になるための最終試験を受け、合格するとようやく騎竜になれるのだとか。


 ヒューイはその訓練を受け始めたばかりだった。だから今回これほど上手く騎乗出来るとは正直思っていなかった、とヤグワル団長は白状する。

 えぇぇ、そんな初心者ドラゴンを試験に出して良いわけ!? と、ちょっと不満に思ったが、でもまあ結果的にヒューイのおかげでめちゃくちゃ気持ちの良い騎乗が出来たんだしな。ま、いっか。


「ありがとな、ヒューイ。楽しかったよ」

『あー、まあ俺もそれなりに良かった』


 それなりって……素直じゃないな……、フッ。少しおかしくなって笑う。


『なんだよ』

「いや、別に? ハハ」


「すっかりヒューイと打ち解けたようだな」


 ヤグワル団長がなんだか嬉しそうに笑う。

 三日間の試験の中で一番清々しい気分になれた。




 そうやってヤグワル団長と話している間にアンニーナやフェイ、そのほかの受験者たちも次々に到着していった。


「よし! 全員無事に戻って来たな! 次!」


 そうやって全員の騎乗が終わっていった。




「これにて試験は全行程終了だ!! 結果が出るまで控えの間で待て!!」


 さあ、ついに結果が出る!

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