第二十六話 ドラゴンに囲まれた

 とりあえずドラゴンに近付いてみる。

 他の受験者たちは恐る恐るといった感じだ。


「アンニーナとフェイはどう? 怖い?」

「う、うん、まあやっぱり近いとかなりの大きさだから、ちょっとビビるよね」


 アンニーナも恐る恐る近付く。フェイは普通だな。


「僕はそんなに怖くはないね」


 普通というより明らかにウキウキしてそうだな、というのが分かってちょっと面白かった。


「フェイってドラゴン大好きだろ」

「え、いや、まあ、うん。アハハ、分かる?」

「アハハ、バレバレだな」


 フェイは照れ笑いをしながらドラゴンを嬉しそうに眺める。どのドラゴンにしようかウキウキだ。

 アンニーナも恐る恐るながらもドラゴンを見比べて行く。


 さて、俺は……と見上げたところで、キーアが頭に激突! ぐふっ。

 うん、分かってた。来ると思った。


『キーアも探す!』

「お前関係ねーじゃん」

『探すー!』


 キーアとごちゃごちゃしていると、ドラゴンたちがなんだなんだとばかりに近寄ってきた。


 うおっ、巨大ドラゴンに囲まれた!

 えぇぇえ! 周りが見えん! さ、さすがにこんな囲まれるとちょっと怖いわ!

 まるで山の谷間に落ちた気分。山の向こう側で他の受験者たちのざわついた声が聞こえる。

 えぇ、これまた俺が嫌われるパターンなんじゃ……。


『なんだこいつ? なんで子供連れてんだ?』


 ん? 子供? あぁ、キーアのことか。俺の子じゃないからな! なんか紛らわしい言い方しないでくれ!


「おーい! ちょっと! なんで俺に集まるのさ!」


『んん? こいつ、今俺たちに言ったか?』

『ん? んなわけないだろ』

『だよなぁ』


 ドラゴンたちが俺の頭上で井戸端会議してやがる。


『こいつ、でもなんだろな、なんか懐かしい匂いがする』

『ん? 懐かしい?』

『あぁ』

『どれどれ?』


 うぉ、ドラゴンの頭が近付きフンフンと頭やら首やら匂いを嗅がれる。な、なんなんだよ!


『ほんとだ、なんかなんとも言えん匂いだな』


 なんだそれ、臭いとか言われたら泣くぞ?

 他のドラゴンたちにも群がられ、揉みくちゃに潰されそうだ!


「うぉぉい!! ちょっと!! いい加減にしろー!!」


 うがーっと両手で力いっぱいドラゴンたちの頭を押し退ける。この際牙が怖いとか言ってられん!

 さすがに力の強いドラゴンを簡単に押し返せるわけもなく、ちっこい人間がなんか暴れ出したぞ、とばかりにドラゴンが自分たちで頭を離した。


『お前今俺たちに言ったのか?』

「そうだよ! いきなり寄って来て匂い嗅いでってなんなんだよ!」

『おぉ、お前言葉が通じるのか!』


 珍しいものでも見るようにドラゴンたちは再びみっちりと俺に近寄った。


「だぁ! だから! 暑苦しい!!」



「おい! お前らなにやってやがる!!」


 ドラゴン山の向こうからヤグワル団長の怒声が響いた。

 それを聞いたドラゴンたちは叱られた子供のように、わらわらと散る。ドスドスと凄い足音だな。

 はぁぁあ、やっと解放された……酸欠になっていたかのように深く深呼吸。


「ったく! なにやってんだ! 試験中だろうが! 並べ!」


 ドラゴンが叱られてるよ……ちょっと面白い。


「リュシュ、大丈夫?」


 アンニーナとフェイが駆け寄って来た。


「あ、あぁ、大丈夫、びっくりしたけど」


 アハハ、と笑って誤魔化したが、なんであんな寄ってきたんだか。キーアと一緒にいたのがそんなに珍しかったのか? うーん。


 ヤグワル団長に叱られているドラゴンたちは『だって、なぁ?』とか本当に叱られた子供のようで笑いを堪えるのに必死だった。


「すまんな、では選んでくれ! 選び終わったら竜の前に並べ!」


 改めてドラゴン選び。さて、気を取り直しドラゴンを見比べる。

 コソコソと話しているドラゴンってのも人間臭くて笑えるなぁ。


 一列に並んだドラゴンたちを順に見て行く。じっくり見ていると、鱗の色だけでなく顔付きも違うもんだな。

 凛々しい顔のやつ、のんびりしてそうなやつ、キョロキョロと落ち着きのないやつ、優しそうな顔のやつ。

 瞳の色も金色だったり銀色だったり、翠色だったり、空色だったり。


 面白いもんだな。


 どのドラゴンにしようか、決まるかな、と考えていたが、あるドラゴンに目がいった。

 濃紺の鱗に金色の瞳。精悍な顔付きのドラゴン。きっと人間ならば超イケメンなんだろうな、と思うくらい、なんだか物凄くかっこいいドラゴンだった。


 そのドラゴンと目が合うと……


『なんだこら、俺になんか文句でもあんのか!? あぁ!?』


 めちゃくちゃ口が悪かった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る