第二十五話 試験最終日!
「いよいよ最終日だな、頑張って来いよ!」
ディアンとハイタッチを交わす。
「「いってきます!」」
俺とアンニーナは気合いを入れた。
いよいよ最終日だ!
泣いても笑ってもこれで最後。今回受からなければ、きっと俺はもう合格は望めない。それくらい今が自分にとっての全てだ。
でももし駄目だったなら……、駄目だったなら俺はこれからどうしたらいいんだろう。
婚約破棄されて、村からも飛び出して、竜騎士になりたいって気持ちだけしか俺にはない。
それが絶たれてしまったら、俺はこの先どうしたらいい?
そんな不安が心を占める。
「今は何も考えない!」
アンニーナが背中をバシッと叩いた。げほっ。
「ドラゴンに騎乗! それだけ考えなさい! 楽しみにしてたじゃない!」
アンニーナはニッと笑う。
うん、そうだな。今心配しても仕方ない! 合否の結果後のことはまたそのとき考えるか!
「ありがと、アンニーナのおかげでスッキリした!」
「フフ、どういたしまして! さあ、いきましょ!」
後押しされるかのような眩しいくらいの太陽の光を背に浴び、アンニーナの後に続いた。
演習場へ着くと、すでに多くの受験者が集まっていた。フェイもすでにいる。
「二人ともおはよう」
「フェイ、おはよう、早いな」
「ハハ、柄にもなくそわそわしちゃって早く着いたんだ」
「アハハ、フェイでもそんなことあるんだな」
『リュシュ! あそこ! キーアと一緒!』
「ん?」
キーアが頭上から叫んだ。一緒? ……とは、まさかと思い、キーアの視線の先を見ると……
「うぉぉお!!」
遠目に数匹のドラゴンがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
受験者たちは興奮状態。皆が歓声を上げている。
大人のドラゴンが大きく羽ばたき俺たちの頭上を旋回する。圧巻だ。巨大なドラゴンがこんな間近に……しかも何匹も……凄すぎる……。
圧倒され言葉が出ない。他の受験者たちも同様だ。皆、口を開けたまま上空のドラゴンたちを眺めている。
アンニーナもフェイも同じだ。
皆が興奮と驚きと憧れの眼差しを向けている。
ドラゴンたちは誰に命令されるでもなく、上空からゆっくりと降りてきた。
大きな翼から巻き上げられる風は、子供ならば吹き飛ばされてしまうのではないかと言うほどの風圧を起こし、砂埃を巻き上げながら地上へと降り立った。
服や髪が風に煽られ、皆それらを押さえながらも、ドラゴンから目を離すことが出来なかった。
大人のドラゴンが十匹。キーアと同じく真紅の鱗。それに濃紺の鱗、深緑の鱗、様々な色のドラゴンたちだ。
目の前に降り立ったドラゴンたちは首を持ち上げると、まるで壁のようなほど高い位置に頭があった。
まさに圧巻。
ヤグワル団長が現れ、ドラゴンを背に受験者たちを見ると叫んだ。
「よし! 集まっているな! 今日で最後だ! 騎乗試験を行う! 一人ずつの騎乗、合図とともに十匹一斉に飛翔! あちら側にいる試験官のところまで行って帰って来るんだ! 競走ではないからな! いかに上手く乗りこなしているかの試験だ!」
「あの、質問よろしいでしょうか」
一人の女の子が声を上げた。
「なんだ? 言ってみろ!」
「我々はドラゴン騎乗は初めてです。乗り方などの指導はないのでしょうか?」
確かにな。馬だって、いきなり乗れと言われても乗れるわけがない。ましてやドラゴンだぞ、空飛ぶんだしな。
俺が子供のころに乗せてもらったドラゴン騎乗は、あのドラゴンがとても気を遣ってくれていた。
だからこそ俺はただしがみついていれば良かっただけだった。
今回の試験があのときのようにいくはずがない、ということだけは分かる。
他の受験者たちも「うんうん」と頷いている。
「指導はない! それが試験だ! 自分の力だけで乗りこなしてみろ!」
えぇぇえ!! 自力!? 思わず口に出そうだったのを耐えたのに、あちこちから同じような声が上がった。
「相性を見る試験だ! 相性が良ければ竜があわせてくれる!」
ほ、ほんとか!? 本当にドラゴンがあわせてくれるのか!?
明らかに受験者たちの頭の中はそういった感情で埋め尽くされた顔。
『団長、無茶言うよなぁ』
『ほんとほんと、俺らに丸投げじゃないか』
ヤグワル団長が叫ぶ合間になにやらボソボソと話す声が……。
ん? なんだ? 受験者の愚痴か? 皆、どうしよ、みたいな顔になってるしな。
「まずどの竜に乗るかを決めろ! 自分で選んだ竜に乗れ!」
さらにヤグワル団長が叫ぶ。
受験者たちは「えぇ……」といった戸惑い顔。そりゃいきなりドラゴンを選べと言われても、どのドラゴンと相性が良いかなんて分からないしな。
さて、俺もどうしたもんかな。
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