第二十一話 一日目終了!

「リュシュ! おかえり! どうだった!?」


 アンニーナとフェイが駆け寄って来る。


「あー、うん、なんとかまあそれなりには戦えたかな……」


 そう言いながらヤグワル団長に放り投げられ床に伸びている男をチラリと見た。


「え!! この人! え!? リュシュが!?」

「え! い、いや!! 違う!! 俺がやったんじゃなくて!! これはヤグワル団長が……」


 俺がやったと思われても困る! 説明をしようとしたところで、ヤグワル団長の大声が響き渡る。




「今日はこれで終了だ!! 一日目皆よく戦った!! 楽しませてもらったぞ!! 明日は魔法模擬戦だ!! 遅れずに来いよ!! では、解散!!」




 ヤグワル団長の大声で解散の合図がなされ、皆ホッとした表情で各々その場を後にしていく。

 俺とアンニーナとフェイも一緒に控えの間を後にした。

 アンニーナとフェイは俺が模擬戦に行っている間に仲良くなったようだ。


「で、リュシュどうだったの? さっき床に伸びてたやつでしょ? なんであんなことなってんの?」

「あー、あれはヤグワル団長が……」


 苦笑しながら模擬戦の内容を説明した。フェイは俺が弱いことを知らなかったため、驚いた顔をしていたが、それらの経緯を説明した上で、改めて模擬戦の内容を褒めてくれた。


「リュシュが弱い、ということは知らなかったけど、やっぱり僕の勘は当たってたね」


 フフッと笑いながらフェイは言う。確かにフェイは最初から俺の模擬戦は「大丈夫」だと言っていた。


「なんで分かったの?」


 アンニーナも不思議そうだ。


「うーん、分かったというか、リュシュが弱いなんて感じなかったから」

「「?」」


 俺とアンニーナは目を合わせたが、お互いどういう意味なのか全く分からなかった。


「弱いなんて全く思えないんだよね。なんでだか不思議だけど。ごめん、上手く説明出来なくて」

「ふーん、リュシュが弱くなさそう……」


 アンニーナが俺をじーっと見詰めた。お、おい、照れるからやめてくれ。


「私には全く分からないなぁ」


 ガクッ。見詰めた挙句にその言葉はやめて……悲しくなるから。


「ハハ、まあ僕にもはっきりとしたなにかを言えるわけじゃないからね。それよりも明日の魔法戦を考えたほうが良いんじゃない?」

「あ、明日……あぁぁあ、大丈夫かなぁ……」

「リュシュは魔法も使えないんだね、それは……うん、大変だね……」


 同情した目を向けられるのには慣れているが、はぁぁあ、今回ばかりはなんとかなるような気が全くしない。気が重い……。


「ま、まあ今日もなんとかなったんだし、明日もきっとなんとかなるわよ!」


 そう言いながらアンニーナは俺の背中をバシッと叩いた。げほっ。




 また明日、と挨拶を交わし、フェイとは別れディアンの叔父さんの店へと帰る。

 高台の店からは夕陽が綺麗だった。

 店はすでに多くの人がいる。今日は手伝いを免除してもらっているため、ディアンの姿は店にはなかった。


「おー、おかえり!! どうだった!?」


 タダンさんが大声で聞くものだから、客たちも全員こちらに振り向いた。うぉい! やめて! 恥ずかしい!


「バッチリですよ! もちろん!」


 アンニーナが腕を突き出し親指を立てて自慢気に言った。客たちも今日が試験日だったということを知っているのだろう、皆「お疲れさん」と笑顔で労ってくれる。


「リュシュはどうだった!?」

「え、あー、俺もまあまあですかね、アハハ」


 頭をガシガシと掻きながら、誤魔化すためにあやふやな返答になってしまった。

 タダンさんはガハハッと豪快に笑った。


「なんだなんだその頼りない答えは! もっと自信もって報告しろよ!」

「あ、ハハ、そうですね」


 だってそんな自慢出来る内容じゃなかったし……、卑怯だとか罵られたし……、俺の精一杯なのに……。

 い、いかん、グチグチと情けないぞ。あれが俺の精一杯なんだ、俺なりに頑張った戦いなんだから胸を張れ! 自分で自分を慰める……ちょっと切ない。


「ディアンはどうでしたか?」


 話を逸らしてしまった……。


「あー、ディアンならちょっと前に帰って来て部屋にいるんじゃないか? 結果は本人に聞け」


 そう言うとタダンさんはニッと笑った。

 この様子からするとディアンも大丈夫そうだな。


 アンニーナと共に中庭へと出るとディアンがいた。


「ディアン!!」


 アンニーナが駆け寄った。嬉しそうだな、おい。


「アン、リュシュ、おかえり! どうだった!?」

「「ただいま!」」


 アンニーナは満面の笑みで自信満々に報告している。俺はまあそれなりにね。


『リュシュ、かっこよくなかった~』


 キーアが腹の立つ台詞を吐きながらドガッと頭に激突しやがった。

 ガシッとキーアを掴み勢いよく引き剥がす。そしてキーアを抱えると目一杯締め上げた。


「うるせー! あれが俺の戦い方なんだよ!!」


 ぐぎぎ、と力の限り締め上げたつもりが、キーアの力も半端ない。さすがドラゴン。難なく翼をバサッと広げ、あっさりと腕から抜け出してしまった。ぐぬぬ。


「ハハ、なにやってんだよ、で、リュシュも大丈夫だったんだな?」

「え、うん、まあ……それなりにはね。なんとか戦えたよ」

「それはなにより!」

「で、ディアンはどうだったんだよ」

「俺? 俺はもちろん、合格してきたよ」


「え!! もう合格!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る