第二十話 模擬戦一日目!!剣!

「リュシュ、頑張れ!!」

「頑張って」


「あぁ、ありがと」


 アンニーナとフェイに見送られながら、緊張しつつ演習場へと向かう。

 前にはあの男が歩いている。あー、なんかピリピリした気配を感じるよ……怖いな。竦む足をなんとか進め、演習場へと到着する。


「よし来たな! お前らで最後だ!!」


 ヤグワル団長が腕組みし仁王立ち。俺たちの姿を見ると叫んだ。

 演習場にはヤグワル団長以外にも、二人の屈強な男がいた。恐らく試験官にあたる人物なんだろう。


「模擬戦は五分間!! 武器は剣が基本だが、何を使っても良い! 相手を殺したら失格だ! 気を付けろ! あまりに力の差がある場合、こちらが中断させる場合がある! そのときは大人しく従え! 以上だ、では位置に付け!」


 そして俺とその男は二十歩ほどの距離を開け対面して立つ。


 き、緊張する……、この男がどれくらい強いのか……、俺の短剣で勝負になるのか……、不安しかない。だがしかし今さら考えたところで勝てるわけもなく、とにかくがむしゃらに戦うしかないんだよな。


『リュシュ、頑張れ~』


 呑気なキーアの声が頭上から聞こえ、なんだかふっと力が抜けた。ハハ、ありがとな、キーア。おかげで緊張が解れた。



「開始!!」



 ヤグワル団長の合図の声が響き渡った。




 その声と同時に男は素早く長剣を腰の鞘から抜き取り、猛スピードでこちらに駆け寄る。


 うわ! ヤバい!


 慌てて短剣を抜き、だからと言って短剣で受け止められるはずもないだろう。男がこちらにたどり着き、長剣を振り抜こうとした直前に背後に飛び避ける。


 ひぃぃい、やっぱ振り抜く威力が半端ねー! あれ、当たったら身体真っ二つじゃん!!


 振り抜いた剣先をこちらに再び向ける隙を突いて、男の足元に潜り込む、左脇腹目掛けて短剣を突き立てようとするが、そんな簡単にいくはずもなく、男の肘で思い切り俺の身体ごとはじかれる。


 うぐっ、痛ってー! 肘で突かれただけなのに、半端なく痛い! くっそー! いくら頑丈な身体でも痛いのは痛いんだよな。


 吹っ飛ばされた身体をなんとか受け身を取り、素早く身を起こす。いくらどんくさい俺でも、十年の間にそれなりには動きもマシになったつもりだ。


 男はそんな俺目掛けて再び迫る。短剣を構えた瞬間、男の姿が消えた!


 えっ!? どこに!?


 一瞬焦ったが、ラナカとの訓練でもそんなことはよくあった。思い出せ!

 ラナカよりもこの男は遅い!!


 僅かな空気の流れ、息遣い、魔力の気配、それらを俺は感じることが出来るようになっただろ! 弱い俺には集中力でしかカバー出来ないのだから! それらを極めたときにはラナカの動きも追えるようになったじゃないか!



 左だ!!



 咄嗟に左へ振り向き、太腿から取り出したクナイを投げる。


 男は肩の高さで真横一文字に剣を振り抜こうとしていたが、突如放たれたクナイに驚愕の顔をし、勢いを増した足を止め、上半身を思い切りのけぞりクナイを躱す。


 命中はさすがに無理だと分かってた!! その躱した瞬間だよ!! そののけぞった体勢を見逃さない!! 短剣を右下から斜め上にと思い切り振り上げる。

 切っ先が男の服をかすめたが、男はのけぞったまま背後にバク転をするように手を付き飛んだ。


 くっそー! もうちょっとだったのに!!


 男は俺みたいなひょろい奴に切っ先を当てられたのが相当悔しかったのか、鋭い目付きがさらに一層鋭くなり俺を射殺しそうなほどの形相で睨む。


 う、お、おぉ……怒っちゃった……い、いや、でもさ、それが勝負ですよね……、俺だって少しくらいはやるんですよ……。とか考えていたところで、きっと向こうさんの怒りは止まらないんだろうけどね。


 でも、なんだろうな、ラナカやアンニーナと訓練したからか、この男もそりゃ強いんだろうが、あんまり驚くほどじゃないというかなんというか……、これ口にしたらキレられるんだろうな。

 もしやラナカとアンニーナが強すぎ? そんな人間と訓練してた俺も、もしやそれなりに強い? いや、んなわけないか。カカニアで誰にも勝てたことないんだしな。まああんまり対戦とかしてないけど……。


 男は射殺す目付きのまま再び突っ込んでくる。やっぱりラナカより遅い。いや、それでも俺よりは断然早いんだけど、でも相手のスピードに見慣れていると動きやすい!


 その男が近付く前に距離を取り、クナイを投げる、そのたびに剣で薙ぎ払われるが、そのたびに男と距離を詰め短剣を振るう。それを躱されると再び距離を取る。


 それを繰り返すたびに男の苛立ちがピークに達したようだった。




「そこまでだ!!」




 男の怒りが頂点に達したところで終了してしまった……え、これ、大丈夫? 俺、どこかでこっそり男に殺されない?


 男は肩で息をしながらヤグワル団長に掴みかかっていた。


「まだだ!! あいつを叩きのめす!!」

「もう終わりだ。控えの間へ戻れ」

「俺があんなやつと引き分けなんてあるわけないだろうが!! あんな卑怯な戦い方しやがって!!」


 うわぁあ、めっちゃ怒ってるよ。ど、どうしよ、だからと言って俺も負けるつもりないし。勝てなくとも負けるつもりはない。そう、あのまま戦っていたとしても、きっと負けることはなかった。

 ラナカとの十年間の訓練は無駄ではなかった。そう思えた。卑怯だと言われたとしてもあれが俺の戦い方だ。


 ガスッ!!


 ん? なんか変な音がした。チラリと男とヤグワル団長を見ると、男は静かになっていた。

 え、殴っちゃった?


 どうやらヤグワル団長の手刀を浴び、男は撃沈。ヤグワル団長に抱えられ、控えの間に放り投げられた。おぉぉう、扱い雑!! ちょっと同情。

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