第十八話 団長とキーア

 一日目、剣での模擬戦。


 三十六人の受験者たちはクジを引き対戦相手が決まった。俺は運悪く三十六番。マジかよぉ、一番最後って……待ってる間ずっと緊張じゃないか。はぁぁあ、ついてない。

 アンニーナは早めの十二番だった。


 模擬戦を行うにあたって、対戦する二人の受験者以外は演習場の周りにある控えの間で待機。要するに他の受験者たちの戦っているところは見られない訳だ。まあ他の奴が戦っているところを見れば、後の人間のほうが得とも言えるしな。


 最初の二人を残し、その他の受験者たちは用意された控えの間へと移動していく。


「おい、お前、ちょっと待て」


 屈強な身体の竜騎士団長に肩を掴まれ、それだけで後ろに吹っ飛びそうになったわ!


「な、なんですか?」

「お前か、竜を連れて来たというやつは」

「あ」


 そうだった。キーアのことは竜騎士の試験会場で聞けと言われていたんだった。


「そうです、そうでした! このドラゴン、騎竜になれませんか?」


 空でバタバタ飛び回っているキーアを見上げ、竜騎士団長に聞いた。

 デカいなこの人、見上げていると首が痛い。俺も別に背は低くないほうだが、それでも頭二つ分ほどデカい。確実に竜人だな、この人。こんな人間見たことないもんな。


 スゲーな、竜人。こんなに背が高く、屈強な身体。くそっ、羨ましい。自分のひょろさが嫌になる。


「騎竜にか……ふむ。おい、お前、降りて来い」


 キーアに向かって声を上げた団長。


『キーアのこと~?』


 キーアは空から眺めていたが、くるりと旋回し俺の頭に降りて来た。

 いや、俺の頭って……。


「お前は騎竜になりたいのか?」

『キーア?』

「キーアか、良い名だ」


 良い名だと言われ機嫌を良くしたのか、キーアは俺の頭から離れ団長の目の前に降りた。

 竜人はドラゴンと会話出来るってのは本当なんだな。キーアと普通に喋ってる……。


『キーア、騎竜なりたい!! かっこいいから!!』

「ふっ、王都の竜でもないのに珍しいな。ならば今回の試験が終わったらお前が行くべき場所へ案内してやろう。それまではこの男と一緒に試験を見届けろ」

『わかったー! リュシュの応援するー!』

「ハハ、お前たちは珍しい関係だな。普通野生の竜は人間にそれほど懐かないし、わざわざ王都の竜になりたいなんて思わんのだがな」

「あー、ハハ、キーアはなんか変わってますね……」

「まあとにかく試験を頑張ることだな、少年」


 ガシッと頭を鷲掴みにされ、ワシワシと豪快に撫でられた。少年て……、まあ団長からしたら子供みたいなもんなんだろうな、この体格差よ。


「ハハ、ありがとうございます」




 団長と別れ、控えの間へと行くと受験者たちは各々自由にのんびりとしていた。食事や飲み物も用意されており、自由に飲食をしていていいようだ。一日がかりだしな。


 端のほうではトレーニングをしている奴もいれば、受験者同士で仲良くなり話し込んでいるグループもある。女子たちはなんだか皆仲良くなったのか、全員でおしゃべりに花を咲かせている。

 アンニーナもそれを見付けると、堂々とその女子の輪に飛び込んで行った。スゲーな女子。

 人見知りではないが、すでにグループが出来つつある中に入って行くのにはかなりの勇気がいる。うーむ、どうしよ。


 とりあえず食事でもしてみるか、と並べられた料理を見に行った。

 なんだか豪快な料理が多いな……、肉、肉、肉、たまに野菜……。野菜少なっ!! おいおい、栄養偏るぞ。とか、妙な心配をしてしまう。


「肉ばっかりだねぇ」


 俺の心の声を代弁してくれたよ。バッと横に振り向くと、メガネをかけた優し気な男が立っていた。

 竜騎士を目指している風には見えないが……この人も竜騎士受験者なんだよな。いや、まあ俺が言うなって感じだが。


「僕はフェイ、よろしくね」


 フェイと名乗ったその人は物腰柔らかにふんわり微笑んだ。茶色の髪に銀色の瞳。色白で竜騎士よりも学者が似合いそうな雰囲気だ。


「あ、俺、リュシュ、よろしく」

「僕も食事しようかと思うのだけど、一緒に良いかな?」

「え、あぁ、うん」


 丁寧に聞かれ思わずたじろいでしまった。竜騎士を目指すくらいだから、言い方は悪いがガサツな人間が多いのかと思っていた。いや、失礼だよな、うん。でもまさかこんな物静かで物腰柔らかな人間がいると思っていなかったからさ。


 フェイと共に料理を取り、テーブルに着くと向い合せで座り、話しながら食事をした。フェイは丁寧に手を合わせ「いただきます」と呟き食べ始める。全ての所作が丁寧でとても竜騎士を目指す人間とは思えない。しつこいって? いやだって、誰でも絶対思うよ!


「リュシュは何番?」


 そんなことを考えながらボーッと見詰めてしまっていたため、突然目が合いビクッとする。いやいや、乙女じゃあるまいし!


「あ、あー、俺は三十六」

「最後なんだ、大変だね」

「あー、ほんと待ってる間緊張だよ」

「ハハ、そうだね。でもそれよりも相手が大変そうだね」

「え?」


 フェイはチラリと視線を横にずらし目で合図するようにある方向を見た。


「リュシュの対戦相手だよ」


 その視線の先にはとんでもなく目付きの鋭い男がいた。怖っ。

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