第十七話 試験受付!

「ここに名前と出身地、希望部署を書いて受験番号を受け取ったら自分の試験会場へ行けー」

「は、はい」


 言われた通りに名前と出身地カカニアの名と、希望部署……「竜騎士」と書き受付のお姉さんに渡す。


「竜騎士? 君は竜騎士希望か!」


 でっかい! 声がでっかいよ!! ほら、周りのみんなが「お前が竜騎士!?」みたいな顔になってんじゃん!! ひぃぃい、居たたまれない! 早く受験番号をくれよ!


「まあ難しそうだが頑張りたまえ! 自分を信じないものには道は拓かない! 自分が一番自分を信じてやれ!」


 そう言いながら思い切り背中をバシンッ!! と叩かれた。ぐふっ。


「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」


 そう答え、そそくさとその場を離れようとすると、むんずと襟首を掴まれ引き戻された。ぐえっ。絞まる!


「ちょっと待て!」

「な、何ですか!? まだ何か!?」


 襟首を掴まれたまま涙目で振り向くと、そのお姉さんの視線は俺の頭上にあった。


「そいつはなんだ?」

「そいつ?」

「そのドラゴンだよ」

「あ」


 すっかり忘れてた。見上げると俺の頭上でキーアがバサバサと飛び回っていた。


「あー、すいません、忘れてました。こいつ、城の騎竜になれませんかね?」

「城の騎竜に?」

「はい、なれるかもって聞いて一緒に来たんですけど……」

「ふむ、そうだな。なれるかどうかは私には判断できん。竜騎士の試験会場で聞くと良い」

「分かりました、ありがとうございます」


 なんか弱そうな奴が竜騎士を目指し、しかも子供のドラゴンを連れている、というかなり特殊な状況のせいでめちゃくちゃ注目の的だ……。早く逃げよう……。受付のお姉さんにペコリと頭を下げそそくさとこの場を離れた。




「大丈夫か? リュシュ」

「アハハ、めちゃ注目されちゃったね」


 ディアンもアンニーナも笑っていた。おい、お前ら他人のフリしてただろうが。

 じとっとした目で二人を睨むが、二人は苦笑するだけだった。


「まあでもあの人に勇気もらえたな」

「うん、恰好はあれだけど、良いこと言ってたよね」


 二人そろって、うんうん、と頷き合っている。

 うん、確かに良いことを言ってもらえた。「自分が一番自分を信じろ」と。そうだよな、他の誰にも信じてもえなくても、自分だけは「合格出来る」「やれる!」と信じてやらないとな。




 もらった受験番号を胸に付け、城の中を歩く。間近で見るとますます威圧感を感じる重厚な建物。真四角で見上げると小さな窓がいくつもあった。

 さらに歩いて行くとその分厚い四角の建物の奥には広い中庭が広がっていた。そこから各試験会場に分かれて進む。


「じゃあな、二人とも頑張れよ!」

「もちろんよ! ディアンもね! 落ちたりしたら許さないから!」


「それって二人で城勤めしたいから……」


 と、言いかけたところで、しまった! と気付きアンニーナからそーっと目線を逸らしました。チラリと見たアンニーナの顔が怖かったよ……。


「ディアンも頑張って」


 何事もなかったかのようにアンニーナからは目を逸らしつつディアンに言った。


「あぁ、リュシュもな!」

「うん」


 そしてディアンは中庭から別れ、建物の中へと消えた。


 俺とアンニーナは建物内ではない。竜騎士の演習場だ。中庭をさらに抜け進むと、同じように四角い建物なのだが、塔のように異様に高いものや、三階ほどしかなさそうな低い建物もあった。


 それらを抜けて行くと思い切り見晴らしの良い場所に出た。


「おぉ、ひっろいな!!」

「竜騎士や兵士たちの演習場らしいからね。そりゃ広いでしょ」


 きょろきょろと見回すと、演習場となっている広場を中心に、何やら建物が並んでいる。全てが三階建てほどの建物。それらがぐるりと演習場を囲んでいる。


 演習場にはすでに受験者たちが集まっていた。結構な人数だな……、待っている間数えてみると、今だけでも三十人ほどはいた。


 屈強な男もいれば、結構なおっさんもいる。思っていたよりは女も多いな。アンニーナだけでなく三分の一ほどは女だった。その女たちもやたらがたいの良いのがいたり、子供じゃないのか!? というような幼そうな子もいた。


 そうやって人間観察をしていると、ここにいる受験者たちよりも遥かに体格が良く背も高いいかつい男がやって来た。真紅の髪に金色の鋭い瞳。怖っ。


「注目!!」


 空気が震えたんじゃないかというほどの良く通るバカデカい声でその男は叫んだ。


「ここは竜騎士の試験場だ! なんかひょろい奴も混じっているが、間違えて来てはいないな!?」


 ひょろい奴……俺のことか? うるせー! ひょろくて悪かったな!

 ひょろさは試験に関係ないだろが! ……いや、あるか……。


「私は竜騎士団長、ヤグワル! ここにいるお前たちが今年の受験者だな! 今年の竜騎士受験者は全員で三十六人だ! その内何人が残るか楽しみにしているぞ!」


「試験は三日間行う! 一日目は剣での模擬戦、二日目は魔法での模擬戦、三日目は竜への騎乗試験、以上だ! ちなみに模擬戦には治療師が救護隊として待機しているので安心しろ! 思う存分戦え! ただし、相手を死なせた場合は不合格だ! 気を付けろ!」


 相手を死なせた場合……ゾッとした。俺、死ぬんじゃ……、い、いやいや! 死んでたまるか!


「剣での模擬戦は基本的にどうやって戦っても構わん! 剣でなくても打撃攻撃でもなんでも良い! 実際の戦場でそんなものをこだわってはいられないしな。魔法での模擬戦、これは魔法のみだ! 魔法以外を使った奴は即不合格だからな、気を付けろ!」


 あぁ、やはり魔法の模擬戦は勝てる想像が全く出来ないな……剣を使えたら何とかなったかもしれないのになぁ……まあ今さら言っても仕方ないんだが。


「竜への騎乗はまた三日目に説明をする! では今このときより竜騎士の採用試験を開始する! 対戦相手のクジを引け!!」


 一日目の模擬戦が開始したのだった。

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