第十三話 試験内容

 店の中は丸テーブルがたくさんあり、ちょうど昼の時間になるからだろう、客が大勢いる。店の中からも大きな窓やテラスに出られるような扉もあり、食事をしながらも景色を楽しめるようになっていた。


 王都には凄い店があるもんだ。こんなところで女の子とデートでも出来たら楽しいんだろうなぁ、なんてぼんやり考えていると、叔父さんがこちらにやって来た。


「ディアンの友達か、タダで泊めてやるから店の手伝いよろしくな!」


 そう言うと叔父さんはガハハッと豪快に笑った。ディアンのイケメンぶりからは考えられないほどの男臭い叔父さんだな。きっとディアンの母ちゃんが美人なんだな。うんうん。


「ありがとうございます、よろしくお願いします」


「なんだなんだ! 竜騎士目指してんだろ? もっと覇気を出せ!」


 そう言いながらバンバンと背中を叩かれてむせました。げほっ。

 叔父さんはキーアを撫でると「お前もよろしくな」とニカッと笑った。


 今日はとりあえず着いたばかりだからと、手伝いは免除され、昼食と夕食をごちそうになった。有難い。

 夜になるとこれまた凄い夜景が広がり感嘆の声が漏れた。眼下に広がる街の灯りがめちゃくちゃ綺麗! あぁ、デートで来てー……、虚しくなるからやめよう。


 食事を終えるとディアンが部屋へと案内してくれた。

 部屋は店とは違う建屋で厨房の奥から繋がっていた。叔父さん家族が住んでいる部屋以外にもまだ四部屋もあるらしく、でっかい家だな、と感心しっぱなしだ。

 ちなみに叔父さん家族は叔父さん夫婦、それに娘が一人いるらしい。いわゆる看板娘のようだ。


 叔父さんの名はタダンさん、その奥さんはマヤさん、一人娘のフィリアちゃん。

 タダンさんはどっちかというといかつい男なのに……奥さん超美人だな。藤色の髪に青色の瞳。さらにはその娘のフィリアちゃんも超美人。お母さん似だね。十六歳らしく歳が近い……ドキドキしちゃうじゃん。タダンさんが怖いからなんも出来ないけど……。


 その夜は疲れか、安堵感か、泥のように眠った。



 翌朝、起きて表へ出ると店と家の中間部分に当たる中庭でアンニーナが剣を振るっていた。


「おはよう、アンニーナ。朝から頑張ってるな」


「あー、リュシュ、おはよう。身体が鈍るからね。毎朝の習慣。リュシュはしないの?」

「え、あー、そうだね。俺もしようかな……」


「おはよう、リュシュ、アン」


 ディアンもやって来た。ディアンにとってはアンニーナの朝練は慣れたものなんだろう、全く気にも留めず、俺に話しかけてきた。


「店の手伝いは昼と夜だから、訓練するなら朝のうちだぞ。いつも俺たちは朝食後昼まで訓練するんだがリュシュはどうする?」


 ふむ、昼からは手伝いに追われる訳だ。なら朝から昼までは二人と一緒に訓練するほうが無難だよな。


「確か試験は五日後だよな? それまではじゃあ一緒に訓練お願いしても良いか?」

「あぁ」


 ディアンもアンニーナもニッと笑った。




 竜騎士の試験は、というより城の職に採用されるための試験は毎年一回行われる。ちょうど五日後。今回たまたまタイミング良く村を出たため、今年の試験に間に合った。ま、まあ運悪くそのとき婚約破棄されたとも言うが……。そこは触れないで……。


 城で採用される試験は竜騎士と治療師以外にも、王身辺警護のための兵士や、外部兵士。他国との交渉のための外交官。魔法専属の魔法部隊。魔道具を研究・生成する部署など。今は採用試験が行われていない部署も過去にはいくつかあったらしいが。


 竜騎士の試験は三日間に渡って行われる。


 一日目は受験者同士での模擬戦。剣で戦う。

 二日目は同じく模擬戦だが、今度は魔法のみ。

 三日目は実際ドラゴンに騎乗しドラゴンとの相性を判断する。


 二日間の模擬戦は勝敗ではない。より竜騎士に向いているかどうかの試験だそうだ。試験官が受験者の適正を判断していくための試験らしい。


 さて、ここからが問題なわけだ。ドラゴンの騎乗はともかく、その前二日間の模擬戦。いくら勝敗ではない、と言ったところで、俺がどうやっても合格出来るわけがないよなぁ。ここをどうやって乗り越えるかが問題だ。


 この日から五日間、ディアンとアンニーナにも手伝ってもらい、店の手伝いがない時間にはひたすら剣と魔法の訓練をすることになった。

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