第十二話 目指す理由
「ふむ、それは得だな。試験官に良い印象になるんじゃないか? その竜と一緒に受けたら良いぞ。恐らくその竜は何もしなくても城にはそのまま入れるはずだ。お前たちはまあ実力次第だがな」
そう言ってハハっと笑う兵士だった。
その後兵士は色々試験について教えてくれ、激励をもらいそのまま別れた。
「まさかキーアまで城に入れるとはな。しかも一番簡単に入れそうじゃん。羨まし……」
キーアは興奮冷めやらぬ感じでずっと上空を飛んでいる。
「キーアが城かぁ、じゃあ俺は城に入れたらキーアを研究させてもらおうかな」
「え? キーアを研究?」
「あぁ」
「俺、ドラゴンの生態も研究したいんだよね」
「生態……」
その言葉を聞いたアンニーナはピクリと反応をし、なんだか少し辛そうな表情を浮かべた。
アンニーナはディアンを気遣うような素振りを見せたが、ディアンは「大丈夫」とだけ言うと話し出した。
ディアンが子供のころ、街の近くにある森で遊んでいると野生のドラゴンの卵を見付けたらしい。周りを見回しても大人のドラゴンはおらず、その卵は見捨てられてしまったのか、ポツンと森の中にあったそうだ。
どうにかしてその卵を孵化させてやれないかと街に持って帰り、必死に世話をしたそうだ。
しかしドラゴンの生態はよく分かっておらず、ましてや卵は未知のものだった。それでもディアンは必死に孵化させてやろうと頑張った。そうやって世話を続け、孵化した瞬間…………ドラゴンは死んだ。
「一声上げたんだよ……なのに死んでしまった……」
ディアンの表情は泣きそうな、しかし諦めにも似た表情。どちらかと言えばアンニーナのほうが泣きそうな顔をしている。恐らくアンニーナも当時のことを知っているんだろうな。
「ドラゴンの孵化率は凄く低いらしいんだ。俺はその原因を突き止めたい。そしてもっとドラゴンの孵化率を上げたいんだ。だから俺は城に入って治療師としてもドラゴンの研究をしたい」
「そっか」
「お前は? お前はなぜ竜騎士になりたいんだ?」
「ん? 俺? 俺は大した理由じゃないよ。ただ誰かに認めてもらいたいだけ……」
そしてあのときの白いドラゴンに会いたいだけだ。
子供のころに会った、あの白いドラゴンは今どうしているだろう。俺のことを覚えてくれているだろうか。フッ、きっと忘れてるよな。
覚えていてもらいたいという願望はあるが、所詮あのとき一瞬会っただけの、しかもあんな子供のころの顔をドラゴンが覚えているとは思えない。
それはもう仕方がないと思える。でも、竜騎士になるという夢を与えてくれたあのドラゴンには感謝をしている。いつか会えたら良いのにな……。
「アンニーナは? アンニーナは何で竜騎士になりたいの?」
「え? 私? 私は……やっぱり竜騎士ってみんな憧れるじゃない! それだけよ!!」
ん? なんか他にも理由がありそうな……。
「他にもなんか理由あるんじゃないの?」
「え! な、ないわよ!! 何言ってんのよ!」
「アンは昔から竜騎士になるんだ、ってのは変わってないよなぁ。俺もなんでなりたいのか理由は知らなかったな。なんでなりたいんだ?」
「ちょ、ちょっとディアンまでなによ! 今までそんなこと聞いてきたことないじゃない!」
「えー、だって気になるじゃないか」
「だ、だから理由なんてないわよ!」
「ほんとに~?」
なんだかディアンとアンニーナだけの世界に入ってしまった……。じゃれ合ってやがる。俺、お邪魔? くそぅ、俺も彼女欲しいなぁ! いや、まああの二人が恋人同士なのかは知らないが……。
『リュシュはキーアとあそぼー』
「いや、別にあの二人は遊んでいる訳では……」
キーアは俺の頭に再び飛び乗った。うぐっ、と声が出たがなんとか耐えたぞ!!
なんだかキーアに慰められたようになってしまい、余計に落ち込む……。
「あの、もう良い? アンニーナが竜騎士を目指す理由はもう聞かないから街に戻ろうよ」
いつまでもイチャイチャしやがって! きりがないので話に割って入った。アンニーナは顔を赤らめプイッと視線を逸らした。ディアンはやれやれと言った顔。
こっちがやれやれだぜ。
話ながら歩いている内に、ディアンの叔父さんの飲み屋とやらに着いたようだ。大通りからは少し外れ、高台の上にある見晴らしの良い店。
「おぉ、良い景色!」
「だろ?」
ディアンが自慢気にニヤッとした。この高台の景色は自慢なようだ。
眼下には王都の街並みが一面に見え、さらには城もよく見える。遠目には城の背後にそびえる山並みも見える。素晴らしい景色だ。
「この街並みの向こう側に夕陽が沈むんだ。めちゃくちゃ綺麗だぞ」
「へー、凄いとこに店があるんだなぁ」
叔父さんの店はその景色を楽しむためにかなりの客がやってくるらしい。そのためいつも忙しい。訪れると大概手伝いを頼まれるとか。
昼は軽食屋になり、夜には飲み屋。客が途切れることがないのだそうだ。
ディアンは店の正面から入り、叔父さんらしき人に声を掛けた。
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