第十一話 城
巨大なドラゴンたちが街の空を縦横無尽に飛び回っている。中には騎乗した竜騎士もいる。こんな巨大なドラゴンたちが空を飛び回っている光景がこの街の日常なのか。凄い。
「ブフッ、口が開いたままよ、リュシュ」
アンニーナがクスクス笑っている。ハッとし、慌てて口を塞ぐが、再びすぐに口が開きそうだ。
「城にある演習場から決まった時刻にドラゴンたちが一斉に飛び回るらしいの。それが王都の時計替わりみたいになっているわね」
そう言いながらアンニーナがフフっと笑った。
ディアンもアンニーナも初めて見たときはとても驚いたそうだ。そら、こんな巨大なドラゴンが空いっぱいに飛び回っていたら、初めて見る人間は驚くよな。
いつまでも空を呆然と眺める俺を二人は先へ進もうと促した。うん、いつまでも見てられる。
大通りを歩いて行くとどうやらこの辺りは一帯が商業区のようだ。店が多く建ち並ぶ。
「大通りは城に続く間ずっと店が並んでる。んで、途中にある脇道も抜けるとその先に店があったりするな」
「へぇぇえ!」
キョロキョロと周りを見回すと、横に逸れる道が見えたかと思うと、裏路地のように少し薄暗い。しかしその先には階段が続き、少し高台になったところに、また店のような建物が見えた。
王都自体が山の麓に造られたらしく、この街全体に勾配が多く見られる。大通りも徐々に上り坂のようになっていたため、体力のない俺はだんだんと息切れが……。しかも頭にはキーアが乗ってるし……。なんで俺がドラゴンを運んでるんだか。
「あ、あのさ、大通りって、ま、まだ続くの?」
ぜーぜー言いながら二人に聞いた。アンニーナは呆れたような顔、ディアンは笑いながら答える。
「ハハ、もうバテたのか? もう少しだ。もう少しで城に着く」
遠目では少し小高くなった場所に城らしきものが見える。息切れしながらもなんとか城までたどり着くと、頑張って歩いた甲斐がある、そう思えた。
「スゲー……」
城壁は大したことないが、城が……なんというか要塞? 綺麗な四角、箱のような、と言っても良いかもしれない。石壁で出来た巨大な四角い建物がそびえ立っていた。
それが何棟もある。
大通りから見上げたときはそれほど大きくもないのかと思ったが、近付いてみると半端なくデカい。
『でっかい! なにこれ!』
キーアが頭の上でしがみついたまま翼をバタバタと広げる。そのせいでバランスを崩しそうになった。
「こら! キーア、暴れるな!」
『暴れてない! 翼広げただけ!』
広げただけでもこっちにしたら暴れられてるようなもんなんだよ!
キーアとぎゃーぎゃー言い合っているとディアンは全く気にしていないかのように話し出す。
「今度行われる試験はこの城の一角であるそうだ。俺は治療師としての試験だから場所は違うけどな」
「へー、アンニーナと俺は一緒なんだよな?」
「あぁ、アンニーナは竜騎士の試験だからな」
「お前たち今度の受験者か?」
城の前で話していると、どうやら城門を守る兵士らしき人物が声を掛けて来た。
街の入口にいた兵士と同様に屈強な身体つきの兵士。この人も竜人だろうか。
「はい」
ディアンが返事をすると、兵士はふむ、と顎に手をやり俺たちを観察するように見た。
「その竜は?」
「え? あ、えっと……」
キーアは俺の……なんだ? ん? ペット……じゃないよな。
「友達?」
「は?」
「え、いや、と、友達かなーっと……」
なんて答えたら良いのか分からなかった。だって行きずりだし……。
「友達ねぇ、その竜はどうするつもりなんだ? 城に入れるのか?」
「えっ」
城に入れる? ん? どういうことだ?
「城に入れるってのは?」
「ん? そのつもりじゃなかったのか。野生の竜は珍しいが、城で育成して竜騎士の騎竜になることは可能だぞ」
「え、マジっすか! おい、キーア、やったな! お前、竜騎士の騎竜になれるかもってよ!」
頭の上のキーアを見上げ、腹をワシワシと撫でた。キーアはなんのことか分からないようなキョトンとした顔をし……顔面に貼り付いた。
『どういうことー?』
「もごっ」
頭の上から覆いかぶさるように顔面に貼り付かれ息が出来んわ!!
「ぶはっ! やめい!!」
キーアを鷲掴みにすると、力の限り下に引きずりおろした。ベリッと音がしそうな様子でキーアはコロンと転がり落ちた。
「アハハ! 面白い奴らだな」
兵士は声を上げて笑うが、こっちは必死だっつーの。死ぬかと思ったわ!
転がり落ちたことに訳が分からずキョトンとしたままのキーアは地面にぼてっと座り込んでいた。
「だから、お前竜騎士のドラゴンになりたかったんだろ? なれるかもしれないってさ」
『!! ほんとにー!? なる!! キーア、竜騎士のドラゴンなるー!!』
キーアはようやく理解したようで翼を広げ空に舞い上がり喜んだ。上空でクルクルと回転をしたり、俺たちの周りを飛び回ったり大興奮だ。
良いなぁ、キーアは試験なしで城に入れるのか……、羨ましい……。
「お前、竜と話せるのか? 竜人……じゃないよな」
ま、またか……、竜人とは絶対思われないんだよな……ガクッ。
「あー、なんでか話せるんですよね~」
もうめんどくせー。適当に誤魔化すか。
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