第十話 王都到着!

「失礼かもしれないけど、貴方竜騎士になんかなれそうには見えないんだけど」


 いや、ほんと失礼だな。見た目で判断するなよ。いやまあ、見た目からして弱っちい俺が悪いのかもしれないけど。


「そういうあんたも竜騎士目指してんの?」

「そうよ」


「アンは子供の頃から竜騎士のためだけに訓練してたようなもんだしな。俺も敵わない」


 ハハ、と笑いながら男は言った。


「あ、まだ名乗ってなかったな、俺はディアン。こっちはアンニーナ」


 女を指差し言った。


 ディアンはニ十歳。深紅の髪が目立つ端正な顔立ち。くそっ、どいつもこいつもイケメンだな、おい。ドラゴンの研究を含め、治療師を目指すために王都へ。


 アンニーナは十九歳。紺色の髪に灰色の瞳で髪をポニーテールにまとめ上げ、大きな瞳だがきりっとしたかっこいい女だ。胸もデカい……いや、これはなし!

 竜騎士を目指すために王都へと向かっているらしい。


 十八歳から竜騎士の試験は受けられるはずなのに、何故十九歳になってから挑戦なんだと質問すると「この馬鹿のせいだ」とディアンを指差しうんざりした顔をした。


「ディアンが自分の治癒能力をもっと上げてからじゃないと王都へは行かない、とか言うから!」


「ハハ、だってまだまだな状態で行っても役に立たないじゃないか」


「でもそのせいで私は一年遅れたんだよ!」


「ん? でも別に一緒じゃなくても、アンニーナだけで先に行けば良かったんじゃ……」


 そう言うと横から思い切りヴィリーに肘で小突かれた。


「痛てっ、何すんだよ」


 ヴィリーを見るとめちゃくちゃ可哀想な子を見るような顔で見られた。なんだよ、おい。


「べ、別に待たなくても良かったけど、ディアンが寂しいかと思って待ってあげたのよ!! 弟みたいなもんよ! 一人じゃ心配じゃない!!」


「いや、アンのほうが年下だろ」

「う、うるさいわねー!! 一人じゃ寂しいだろうと心配してあげたんでしょ!!」


「それってアンニーナが寂しいだけじゃ……」


 と言ったところでまたしてもヴィリーに激しく小突かれた。ぐふっ。

 アンニーナは若干涙目になりながら顔を真っ赤にして怒ってしまった。あれ、まずった?


 ヴィリーに「馬鹿だな」と小さい声で注意されました。


 女心……分からん。



 自己紹介やらを終えて、アンニーナの機嫌も直ってくると、ディアンがアンニーナの武勇伝を教えてくれた。

 これまたアンニーナが怒り出すのではとヒヤヒヤしたが、恥ずかしそうにしながらもアンニーナはちょっと自慢気なようだった。

 やはり竜騎士を目指すとなるとそれなりに武勇伝くらいあってもおかしくないか。俺がなさすぎなんだよな。




 途中、昼食休憩を挟み、さらに馬車で走ること半日。夜中にようやく王都へと到着したのだった。


 夜中だったためせっかくの街並みは全く分からず。翌朝から堪能するか、と、早々に諦め、夜中でも泊まることが出来る宿屋に案内され、そこで皆夜を明かした。


 翌朝、宿屋のエントランスに皆集まると、家族は自分たちの親戚の元へと行くと言い去った。子供はこちらに振り返り大きく手を振ってくれていた。


「また会えたらよろしくな、じゃあな。竜騎士頑張れよ」

「ありがとう、またな」


 そう言いヴィリーとガルドさんとは固い握手を交わし別れた。ちょっと泣きそうになったのは秘密だ。




「さて、リュシュはどうすんの? 試験までまだ少し日にちあるけど」

「うーん、そこんとこ何も考えてなかったんだよなぁ。アンニーナたちはどうすんの?」


「俺たちは親戚の家があるからそこに泊めてもらいつつ、訓練しながら試験まで待つつもりだ。リュシュも来るか?」


「え!! 良いの!?」


 あまりに有難い申し出に前のめりで詰め寄ってしまった。ディアンが引き攣っていた。


「あ、あぁ、一人増えたところで大した差じゃないと思うしな。ただ店の手伝いをさせられるとは思うが」

「店?」

「俺の親父の弟の家なんだけど、飲み屋なんだよ」




 ディアンの叔父さん宅を目指しながら初めての王都をディアンとアンニーナに案内してもらうことになった。


 キーアが嬉しそうに羽ばたこうとするが、さすがに街中を子供といえどドラゴンが飛び回るのはいかがなもんかと思い、仕方がないから頭に乗せてやった。いや、重いんだけどさ。出来れば飛んで欲しいんだけどさ、変に飛び回って問題起こされても面倒だしな。


 昨夜馬車で通り抜けた王都への入口は、巨大な壁に囲まれ大きな門が兵士によって守られていた。

 対応した兵士は俺よりも頭一つ分ほど背が高く服の上からも分かるほどの筋肉質な身体つきをしていた。

 これはもしや竜人か!? と思わずまじまじとその兵士を見てしまったことは仕方ないだろう。顔付きも精悍で短い髪に鋭い目付き。見るからに強そうだなぁ、と感心しっぱなしだった。それに比べて俺は……。自分の腕や脚、腹回りを見てがっかりとしたのだった。


 巨大な門をくぐり抜けた先には目の前に道幅が半端なく広い大通りが一直線に伸び、聞けば城まで続いているということだった。

 両脇に街並みが並ぶが、どの建物もカカニアでは見たことがないほど、高い建物ばかりだ。

 カカニアでは精々三階建てほどくらいまでしか建物はなかった。しかしこの街には五階以上の建物が山程ある。完全にお上りさん状態で建物を見上げ溜め息が漏れる。


 そして、何よりも俺の興味を引いたもの、まさに圧巻。


 街の空を多くのドラゴンが埋め尽くしていたのだった。

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