第五話 王都への旅立ち

「「「!?」」」

「王都へ行って、竜騎士になる」

「はぁ!? あんたが竜騎士!? 無理に決まってるでしょ!?」


 ラナカは驚愕の顔で叫んだ。それから「しまった」といった顔で口をつぐんだ。


「ハハ、分かってる。そんなこと俺が一番よく分かってるよ」


 ちょっと泣きそうになって焦ったが、それが正直な気持ちだ。自分のことは自分が一番よく分かっているが、それでも俺だってプライドくらいある。弱っちい俺でも夢を見るくらい許してくれよ。そうじゃなきゃ生きていけない。


「リュシュ……」


 ラナカも両親も同情したような表情になった。それが居たたまれなく、出来る限り明るく話した。


「無謀だってのは分かってる。でも俺にもプライドがある。頼むよ、父さん、母さん、ラナカ。俺は王都に行って自分を試したい」


 父さんたちは顔を見合わせ、溜め息を吐くと真っ直ぐに俺を見詰めた。


「分かった。お前ももう大人だしな。自分の道は自分で見付けなさい」

「父さん……」

「でもここはお前の家だ。いつでも帰って来て良いんだ。それだけは覚えておきなさい」


 そう言って父さんは俺を抱き締めた。


 あ、泣きそうだ。


「フフ、なに泣きそうになってんのよ。泣き虫リュシュ。しっかりしなさい!」


 父さんに抱き締められたままの俺の頭をラナカがワシワシと撫でた。


「父さんの言う通りよ。ここはあなたの家。いつでも帰っておいで」


 母さんも俺の手を取り涙ぐんだ。


 あぁ、俺は幸せ者だな。家族に愛されている。許嫁に振られたからと言ってなんだ。そんなものどうでも良い。俺には帰る場所がある。それだけでこんなに安心感がある。

 俺は心からこの家族に感謝した。




 俺とミリアが許嫁を解消したという話は一気に村に広まり、そして俺が傷心で村から逃げ出したと噂が広まった。

 しかし俺の家族はそんな噂を全く気にしない。しかもそれを吹き飛ばすだけの人望もある人たちだった。


 だから俺は安心して村を後にしたのだった。




 ミリアと婚約解消した次の日に俺は旅立った。家族に見送られながら。


 王都へは隣町からしか馬車が出ておらず、仕方がないので隣町までは歩く。

 隣町までは道路が整備されているため迷うことはない。商売人の荷馬車も通ったりするらしいのだが、今日は一切通らない。

 荷馬車が通れば頼み込んで乗せてもらおうかと思ってたのにな……。


 道路を外れると森が広がる。背後を見るとすでにカカニアはすっかり遠目にしか見えない。


 生まれ育った街を離れるという寂しさと、新たな土地へ向かうというワクワクと、今俺は最高潮に気分が高揚している!


「うん、やっぱり楽しみのほうがデカいな。王都ってどんなとこだろうなぁ」


 ワクワクしながら歩いていると、なにやらけたたましい鳴き声のような声が聞こえた。


「ん!? なんだ?」


 声のするほうへ恐る恐る近付いてみた。

 するとそこには目を疑うような光景が広がっていた。



『グウォォォ!!』


「くそっ! 俺たちは何もしてない!」


『ギュワァァ!!』



 な、なんだ!? ド、ドラゴンがいる!! なんでこんなところに!? しかも人間らしき男の腕の中には鮮やかな真紅の身体をした子供ドラゴンらしき姿!!


 なんなんだ!! どういった状況なんだよこれ!!


 男は大人のドラゴンに襲われてるし、子供ドラゴンを庇ってるのか? いや、ドラゴンが子供ドラゴンを助けようとしてるのか? おいおい、どっちなんだよ! 分からん!!


 さらにその後ろにはおっさんがいるし!! いや、ごめんなさい、人間のおじさまがもう一人いらっしゃる。


 お、そのおじさん、結構強そうじゃん。身体もがっしりしているし、長剣を取り出したぞ。いやぁ、でもドラゴンに剣は通じるか微妙だろうな。なんせ固い鱗に覆われているしな。


 とかって実況中継してる場合じゃないな……、ここは……逃げるか?

 なんか天から総突っ込みされたような……気のせいか……。


 いやでもさ、俺だよ? 助けられる訳ないし。言ってて自分で悲しくなるから触れないで。

 でも本当に俺が入っていったところで逆に足手まといってやつだよな。うーん。


 あ、ヤバい! ドラゴンの牙があの男に!!



「ちょーっと待ったー!!」



 あぁ……やっちゃったよ……。なんかの告白大会じゃあるまいし、なんだよその声の掛け方……自分で恥ずかしいわ!


 ほらほら、微妙な空気になったじゃん。

 突然乱入した意味分からん男に全員が釘付けだよ。

 仕方がないから堂々と行くか……。


「あー、あの、すいませんが、通行の邪魔なんで終わってもらえますかね」


 うぉぉい!! なんだよそれ!! 俺、何言ってんの!? 自分で意味分からーん!!

 ほら全員目が点ですよね。うん、分かる。俺も目が点だから。


『お前は何者だ』


「えっ!?」


 ん? 今の誰発言!? そこの男? それとも後ろのおっさん? あ、またおっさんって言っちゃった。いや、まあそれは良いとして、まさか……


『お前は何をしに現れた。この人間の味方か』


 やっぱり……、俺の勘違いじゃなかった。大人のドラゴンが喋ってる。

 あー、良かった、俺変な奴じゃなくて。ん? 変じゃないでしょ。うん。


 そういやだって俺、ドラゴンと会話出来るんだもーん!!


 今、思い出したんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る