第六話 ドラゴンと一緒
「あー、俺はただの通りすがり。君らは何をやってたの?」
『この人間の味方ではないのか。私はその子供の保護者だ。奴らがあの子を傷付け連れて行こうとしたから攻撃したまでだ』
「へー……」
チラリと人間たちの方へと目をやった。
傷付けて、ねぇ。
じーっと見詰めると男はたじろぎながらも大事そうに子供ドラゴンを抱えていた。確かに子供ドラゴンの身体に何やら傷が見える。
「ねぇ、あんたたちは何やってたの? その子供ドラゴンを捕まえてたの?」
「ち、違う!! 俺たちはこの子供ドラゴンが傷付いて動けなくなっていたから助けようとしただけだ!!」
「助けようと……、そのドラゴンどこにいたの?」
普通野生のドラゴンはこんな街のすぐ近くには来ない。森の奥深くで暮らしているそうだが、俺だって野生のドラゴンなんてお目にかかったことはない。話で聞いただけだ。
それなのにこんなところに怪我をした子供ドラゴンがいた?
「信じてくれ! 本当だ!」
「息子は本当のことしか言っていない。事実ここに子供ドラゴンがいたんだよ」
おっさんも真っ直ぐ答えた。
大人ドラゴンにちょっと待っててくれ、と伝え、その二人の男に近付いた。そして男に抱えられた子供ドラゴンに声を掛ける。
「なあ、君はなんでここにいたの?」
『君ってキーアのこと? キーアは森で遊んでたのに、人間に襲われて逃げたらここまで出てきちゃったの』
キーア……、メスか? 名前なんかあるんだな……、いやまあ今それはどうでも良いんだが。
「その襲って来た人間てこの二人?」
チラリと男を見た。
『ううん。違う人間』
てことはなんだ、また別の人間がいて、この子供ドラゴンを掴まえようと襲ったら逃げられて、街道に出てしまい、それをこの男たちが保護していたところに、この大人ドラゴンがやって来て勘違いした、ということか。
「なるほどなるほど」
「なんだ、なにか分かったのか?それもだが……君は何をぶつぶつ言ってたんだ?」
「え? ぶつぶつ?」
「あぁ、独り言なのか? 一人でぶつぶつ」
「ぶつぶつ……なんだよそれ」
「いや、こっちの台詞……ずっと一人で喋ってたぞ。ドラゴンはなんかずっと唸ってたが」
一人で……めちゃ痛い奴じゃん、俺。ドラゴンと喋ってるとそんな風に聞こえるのか。へぇ。だからそれがなんだ、って感じだが、しかし痛い奴だと思われても困るから要注意だな。
「いやまあそれはどうでも良いでしょ。とりあえずお互い誤解みたいだよ?」
『「誤解?」』
男とドラゴンがハモった。仲良いな、おい。
両方に事の経緯を説明した。ドラゴンは助けてくれていた人間を襲ったことを申し訳なさそうにしていた。
『その人間には申し訳ないことをした』
その言葉を男に伝えると笑って許したようだ。なかなか良い男じゃないか。見た目は茶髪に茶瞳で目立たないが、顔面がなんせめちゃくちゃイケメンだしな。羨ましいぞ、こんちくしょう。神様は不公平だ。ぶつぶつ。
「ありがとう、助かったよ。まさかドラゴンと話せる人間がいるとはな。ドラヴァルアは凄い国だな」
「ドラヴァルアは、ってあんたこの国の人じゃないの?」
「俺たちはナザンヴィアから来た」
「へー、商人?」
そうは全く見えないが。こんなイケメン商人いてたまるか。いやまあいるかもしれないけどさ。
「あー、まあそんなところだな。父さんと二人で商売をしに来た」
「へー」
後ろのおっさんは結構鍛えてそうな屈強な身体付きだが、背も高く灰髪灰瞳の渋いこれまたイケメン……いや、イケオジ? なおっさんだった。
「俺たちは王都まで向かおうと思っているんだ、君は?」
「あー、俺も、というか、君ってやめて。俺、リュシュ、よろしく」
「リュシュか、俺はヴィリー、父さんはガルド。よろしく。リュシュも王都へ向かうのなら一緒に行かないか?」
「ヴィリー!!」
ん? ガルドのおっさんが止めた。
「父さん、リュシュは大丈夫だよ」
「…………」
「王都へ向かうためにザンザに行くんだろ?」
「うん」
「なら一緒にどうだい?」
うーん、なんか微妙に怪しいような気もするが……、まあ悪い人間ではなさげだし、まあいいか。
「じゃあ……、と、その前に」
こいつらほったらかしだし。
振り向いたら大人しく待っていたドラゴンたち。
「お前らはどうすんの?森に帰るのか?」
『キーア、一緒に行く!!』
「は?」
『キーア、一緒に行く!!』
「え?」
『キーア、一緒に……』
「ストップ!! 同じ台詞何度も言わなくて良いから!!」
「いや、ちょっと待ってよ。一緒に行くって、え?」
あれだけ言われたら聞き間違いじゃないことくらい分かるが、一緒に行くとは? ちょっと意味が分からない。
『キーアはお前と一緒に行きたいらしいな』
「へー、やっぱキーアって名前なんだな、ドラゴンにも名前あるんだねぇ……って今そこじゃねー!! いや、ちょっと待ってよ! 一緒にって、え!? 俺と!? 何しに!?」
『元からキーアはずっと竜騎士の竜に憧れていた。だから王都へ行きたいようだ』
「へー、竜騎士に……俺と一緒だねぇ……」
って、そういう問題じゃなーい!! ドラゴンと一緒に竜騎士目指すのか!? いやまあありなのか!? いやどうなの!? ありなの!? えぇ!?
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