第十八話 ただいま
「リリスさんのお父さんはどちらに?」
「今、連絡します。少々お待ちください」
ぱたぱたとお母さんは家に戻って、私とユイさんだけになった。
「お二人をだいぶ心配させちゃったね、ごめんなさい」
「いえ、私のせいなので」
お母さんはすぐにでてきて、お父さんは5分もしないうちに帰ってくるとのことだった。
ではその間に、とユイさんはお母さんのラザームを、小瓶に溜まっている黒い液体をさっき取り出した袋に回収した。
ラザーム——ガラス玉からでてくる、自分の負の感情。悪魔を封印しても、負の感情は止められないんだって。
だから負の感情を持ったらラザームとしてガラス玉から滲み出てくる。どういう原理かは知らないけど。
「リリス!」
「お父さん!」
お母さんのラザームを回収し終えてしばらくしないうちに、お父さんは帰ってきた。
私を抱きしめたお父さんからは、汗のにおいがした。
ユイさんはお父さんのラザームを回収すると車に乗り込む。
「じゃあ、元気でね。リリスさん」
「はい。ありがとうございました」
ユイさんの乗った車を見送る。
はぁ、やっと帰ってきたんだ。
「リリス」
「何?」
車が見えなくなって家に入ろうと思ったらお父さんに呼び止められる。
「リリスがいなくなったことはタクミくんが教えてくれたんだよ。だから帰ってきたことを伝えた方が良いんじゃないかな。ひどく心配していたよ」
「あっそうだね。タクミに言ってから部屋に入るね」
ユイさんに殴られたところは大丈夫だろうか。
「わかった。なるべく早く帰ってきなさい」
「はい」
私は家に入るのをやめ、タクミの家のピンポンを押した。タクミになんて言ったら良いかわからなくて、ちょっと緊張する。
「はい」
でたのはタクミのお母さんだった。
「リリスです。タクミはいますか」
「リリスちゃん? 無事だったの?」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
「無事で良かったわ! タクミを呼んでくるわね」
はじめに何て言おうか考える間もなく、勢いよくドアが開いた。
「リリス!?」
「タクミ……」
タクミは制服のままだった。
「ユイさんに殴られたとこは……うわ!?」
ここまで走ってきたかと思えば突然肩を掴まれてびっくりした。
「はぁ……良かった……」
「タクミ……ちょっと痛いよ?」
「あ、ごめん」
慌てて私の肩から手を離すタクミ。ちょっと目がうるうるしてない?
「心配かけてごめんなさい。それと、あの時は助けようとしてくれてありがとう」
「ありがとうなんて、言わないでくれ」
「え?」
タクミの赤い目が、私を見つめた。
「助けようとしたけど……でも、助けられなかった。次、こんなことは起きないと思うけど……もしまた何かあったら、絶対、助けるから。お礼はその時までとっておいてほしい」
「うん、わかった。でも……私、ほんとに嬉しかったよ」
タクミはさっと目を逸らした。
「詳しい話は、また後日でも良いかな? お父さんが、早く帰ってきてって」
「あ、あぁ。また時間ある時に聞かせてくれ。じゃあ、おやすみ」
「うん。ありがとう。おやすみ」
こうしては私達は、家に帰った。
——————————
ベッドに入って、とても長かった今日を思い返していた。
買ってもらった本を早く読みたい気持ちもあるのだけれど、どっと疲れてしまったのと、ミカ様とお会いしたのが夢のようで、ぼんやりしていた。
あの、優しい微笑みが忘れられない。
思い出すだけで心が温か、く——。
その夜は久しぶりに、嫌な気持ちにならずに眠りについた。
聖女奮闘記 彼岸キョウカ @higankyouka
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