第十七話 帰宅
もうすっかり日も沈み、街には明かりがついてちょっとした星空みたいになっている。
お父さんもお母さんも心配してるだろうな。
タクミも、ユイさんに殴られたとこはまだ痛んでいるだろうか。
「今日はいろいろ振り回してごめんなさいね」
「いえ、私が
「ミカ様ならリリスさんを聖人にしてくださると思ったけど……何もせずに終わるとは思ってなかったわ」
「そう、ですね」
ミカ様が何を考えているか、私がどうして聖人になれないのか、この先聖人になれるかは文字通り神のみぞ知る、か。
「リリスさんは礼儀正しい良い子だから、大丈夫!」
「あ、ありがとうございます」
初めての13歳の人間なんて、原因も対処法もわからないんだから励ますしかないよね。
その後もユイさんと当たり障りのない話をした。中学の話とか車のラジオから流れてきたルカちゃんの曲の話とか。
ユイさんは思ったより気さくで優しくて、とってもいい人だった。
お友達になれたら楽しそうだな。
次第にビルが減って家が増えていく。やっと家に着く、そう思った時にユイさんが口を開いた。
「リリスさん。大丈夫だとは思うけど、謁見のことは言いふらさないようにね」
「はい、もちろんです」
自分が13歳になっても聖人してないことが恥ずかしいのに、それを自分から言いふらすなんてできそうになかった。
言うとしても、お父さんとお母さんとタクミだろうな。
「あ」
家の前にお母さんが立っているのが見えた。キョロキョロと辺りを見回している。
「お母さん、外で待っていらっしゃるわね」
私の声で察したのか、ユイさんもお母さんに気がついたみたい。
あれ、お父さんの姿が見えない。まだお仕事しているのかな?
「私、ここで降りても良いですか?」
一秒でも早く、お母さんに会いたかった。
「良いよ。でも私も何があったかお母さん達に説明したいからすぐ家の中に入らないでね」
「わかりました」
ユイさんが車を止めてくれたので、急いで降りる。
「リリス?」
「お母さん!」
ドアを閉めた音でこちらに気がついたみたい。
お互いに走った。
走って、お母さんに抱きついた。
「リリス……。良かった、無事で。本当に……」
お母さんも私を抱きしめてくれる。ちょっと、痛い。
「お母さん……ただいま」
お母さんの温かさが、私を日常に戻してくれた気がした。
「あの、すみません」
背後からユイさんの声がする。
私はお母さんから離れて、振り返った。
「あなたは……」
「本日お会いした、キョウト騎士団の村上ユイです」
お辞儀をしたユイさんは、続けた。
「勝手に連れ出してしまい、申し訳ありません。リリスさんはミカ様の謁見がありまして、来ていただきました。ご連絡しようと思いましたが、電話番号がわからず……」
「そういうことでしたか。それで……リリスは……」
お母さんはまた、私を抱き寄せた。
「ミカ様からは特に何もありませんでした。このまま生活していただければと思います」
「このまま……? リリスがいつ聖人するかもわからないのですか?」
お母さんの問いに、ユイさんは俯いた。
「わからないままです。すみません」
「そう、ですか」
結局、何もかもわからないままだね。
「これで私は失礼したい所なのですが、お母さんのザラームが溜まっているので回収しておきますね」
そう言ってユイさんは腰につけているポッケから袋を取り出した。
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