第十四話 鏡の中へ
賢者に乗せられた車は、中がとても広くて座席もふかふかだ。超がつくほどの高級車なんだろうな。
私は窓側に座って、ぼーっと外を眺めていた。
家の車と違って全然揺れないし、これなら本を読んでも酔わなさそう。
「リリスさん。良かったらこれ飲んで」
私の隣に座っているユイさんが紙コップを渡してくれた。
温かい。この香りは、今日騎士団に行った時に出してくれたハーブティーだな。
「ありがとうございます」
窓に目をやりながらハーブティーを飲んだ。やっぱりこのハーブティーは美味しいな。どこで売っているんだろう。
タクミは今頃どうしているのかな。
ユイさんに殴られたお腹はまだ痛んでいるだろうか。
お父さんもお母さんも、私が急にいなくなって心配していないだろうか。
「…………」
賢者は助手席に座ってずっと黙っている。寝ているのかな?
「あ、あの。どこに向かっているんですか?」
同じく外を眺めていたユイさんに声をかけた。
「今はキョウト騎士団に向かっているわ」
「騎士団、ですか」
そういえば、今走っている道に見覚えがある。
「えぇ。突然連れてきちゃってごめんね」
「い、いえ。私が
この空間で何を話したら良いかわからない。賢者、賢者サマもいるし。
しばらくの沈黙の後、ユイさんが口を開いた。
「でかけてる事ってご両親は知らないよね? 携帯電話持ってるなら今連絡していいよ」
「け、ケイタイデンワ?」
何それ。初めて聞いたよ。
「携帯電話知らない? ほら、こういうやつ」
ユイさんはポッケから小物を取り出した。
なんて表したら良いかわからない、長方形の物体。金属でできているのかギラギラとしている。
そういえば、お父さんが持っているのを見たことがある気がする……。
お姉さんは物体をパカッと開いた。
「これで電話ができるんだよ。家の電話番号とか覚えてない?」
「すみません、覚えてないです……」
財布になら、家の電話番号を書いた紙が入っているんだけど。
「そっか。なら仕方ないね」
「すみません」
でもすごいな。コンセントに繋がってないのに電話できるなんて、どういう造りなんだろう。
いろいろ聞いてみたかったけど、賢者サマもいるしやめておこう。
しばらくするとキョウト騎士団に着いた。
午前中ぶりだな。
「お前らついて来い」
「はい」
「はい……」
車を降りると賢者サマはいつの間にかフードを被っていた。
スタスタとこちらを見向きもせずに歩いていくので、ユイさんと追いかける。
賢者サマ、結構歩くの速いな。
賢者サマに続いて大きな教会に入る。
そういえばこの教会の中に入るのは初めてかも。
「……すごい」
思わず声が漏れてしまう程、綺麗だった。
視界に広がるのは、長い廊下に描かれた美しい壁画。よく見ると壁だけでなく天井にまで絵が描かれている。
どうやって天井にまで絵を描いたんだろう。気になるから今度調べてみよう。
……今度があればの話だけど。
コツコツと、賢者サマとユイさんの足音が綺麗に反響していた。
私なんて靴じゃなくてスリッパで連れてこられたので、ペタペタと音がする。ひどく子どもっぽくて恥ずかしい。
まぁ、子どもなのは事実なんだけれど。
歩きながら壁画をじっくり見ると、これは歴史を表しているようだった。
荒れ果てた大地に、戦車が走っていて人々が銃を撃ち合っている。
すると雲が割れて金髪の女の人——ミカ様かな——がでてきて大粒の涙を流している。
涙が地面に落ちると、荒れ果てた大地に草木が芽生え、人々も銃を捨てて喜びあっていた。
そこで壁画が終わって、聖堂に続く扉があった。
「2人ともいるな。入るぞ」
扉の前でやっと賢者がこちらを振り返った。
私とユイさんが後ろにいるのを確認すると、重たそうな扉をいとも簡単に開けて中に入っていく。
私も後を続くとあまりの綺麗さに、広さに、思わず立ち止まってしまった。
正面の壁には大きくて、それでいて美しいステンドグラスがあった。
ミカ様が佇んている足元に、白いローブを着た人が7人。
フードを被っているからどんな人かはわからないけど、おそらく賢者だろう。
ミカ様の腰まである長い金髪も、誰もが見惚れるような優しい微笑みも全てが美しかった。
「リリスさん、歩いてくれる?」
「はっ、すみません」
急いで賢者サマの後を追う。
こんな上品な空間で走れないから、早歩きで。
結婚式のチャペルに使えそうだけと、それには贅沢すぎるぐらいの美しさだな。
賢者サマは聖堂の奥へずんずん向かって、右端にある古そうな木の扉を開けた。
「まぶしっ」
目を凝らすと、真っ暗な部屋の中に大きな鏡が置いてあった。
お父さんの全身も写せそうな、大きな鏡。
それが虹色に光っていた。
昨日お父さんとお母さんから貰ったオパールみたいに。
賢者サマはもう私達に見向きもせずに、鏡の中に入って行った。
「え?」
鏡の中に、入って行った??
「初めて見たらびっくりするよね。私達も行こっか」
ユイさんが笑いながら私の手を引っ張っていく。
「ほ、本当に鏡の中に入るんですか? ぶつかったりしませんか?」
「大丈夫、大丈夫。輝いてる間は通れるから」
「ひっ!」
ユイさんが鏡の中に入って、私の手も一緒に入った。
なんか、生ぬるい……。
そのままずぶずぶとユイさんに引っ張られて鏡の中に入って行った。
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