第九話 プレゼント
お母さんが電話してすぐに、お父さんは帰ってきた。
「はぁっ……はぁ……ただい、まっ……」
息を切らしながらも、口角は上がっていた。
「おかえりなさい」
「……おかえりなさい」
お父さんは手も洗わずにドタドタと私の所まで来て、私に目線が合うようにしゃがんだ。
「お誕生日おめでとう、リリス」
そう言って笑顔でわしゃわしゃと私の頭を撫でた。
「あり、がとう……」
「騎士団に連絡するよ。力になれなくて申し訳ないが、お父さんも初めてのことでわからないから」
「えぇ、わかったわ」
「……うん」
お父さんはまたドタドタと外へ出て、帰ってきたのは5分後くらいだった。
「ただいま」
「おかえりない」
「おかえりなさい。あなた、どうだった?」
今度は口角も上がっていなくて、なんというか、微妙、みたいな顔をしてる。
「それが、騎士団の人が真面目に取り合ってくれなくてさ。産まれた時間を間違えてるだけじゃないのかって」
「全部説明しようと思ったんだけど。その前に、今日が終わっても悪魔が出てこなかったら来いって一方的に電話を切られてしまったよ」
お父さんは肩をすくめている。
「まぁ、今日はどうしようもないし、切り替えてリリスの誕生日を盛大に祝おうじゃないか!」
「そうね、せっかくのリリスの誕生日だもの。さぁ、お風呂に入ってご飯にしましょう」
「……うん、そうだね!」
私は笑顔を浮かべるので精一杯だった。
——————————
お風呂に入った後、リビングでぼーっとテレビを見ていた。
ミコ巫女の公開前の番宣だろうか。ルカちゃんが笑顔で何か喋っている。
白い肌が、首元にあるチョーカーを引き立てていた。
チョーカーについている髪色と同じピンクの宝石が、笑顔と同じくらい輝いている。
私のガラス玉は……まだ白いままだ。
「お待たせ、お風呂あがったよ。腹減りすぎて風呂どころじゃなかったよ」
お父さん、髪濡れてるし……。
「ふふ、今日の主役はあなたじゃないのよ」
そう言ってお母さんは晩御飯を運んでくれた。タイミングばっちりだ。
「わぁ……すごい!」
「おぉ、うまそうだな」
オムライスにオニオンスープ、ハンバーグにエビフライまで、私の好きなものが勢ぞろいだ。
誕生日はいつも私の好きなものが並ぶけど、今年は一番豪華な気がする。
聖人するから、豪華にしてくれたのかな。
「お母さん、張りきって作りすぎちゃったわ」
品数は多いけど、その分一品一品が小さいので食べ切れそうだ。
「すごい嬉しいよ! ありがとう、お母さん!」
「リリスの誕生日だからね。喜んでもらえて嬉しいわ」
「さ、早く食べよう!」
良い匂いが、鼻をくすぐる。
「今年もリリスの誕生日をお祝いできることをミカ様に感謝して」
「「「いただきます!」」」
美味しいご飯が、私を満たしてくれた。
——————————
晩御飯をぺろりと食べ終え、リビングでのんびりしていた。
「リリス。明日は学校を休んで、3人で騎士団に行こう」
「うん」
「学校をお休みする連絡は、お母さんが朝にしておくわ」
お母さんはケーキを食べる為に紅茶を入れてくれている。
「ありがとう」
ふんわりと、紅茶の良い匂いがしてきた。ダージリンかな。
「そうだ。週末にリリスの誕生日プレゼントを買いに行く予定だったけど、明日は騎士団に行った後は予定がないし、買いに行こうか」
「良いの? 嬉しい」
私は毎年、本を買ってもらっている。
決められた金額に収まれば、何冊でも良い。家族で本屋さんに行って、じっくり本を選ぶ時間はとても幸せだ。私のお小遣いじゃないから、尚更。
「リリスも中学生になったし、今年から5000円にしようか」
「ほ、本当に!? やったー!」
去年までは3000円だったのに。今年は文庫本じゃなくて、ハード本にしようかな。
どんな本を買ってもらおうか考えていると、お母さんがケーキを運んできてくれた。
「美味しそう……」
いちごたっぷりのタルト。
ケーキの中ではタルトが一番好き。
「リリス、ケーキを食べる前に渡したい物があるんだけど」
「何……?」
どこから取り出したのか、お父さんが手のひらサイズの小箱を渡してくれた。
「13歳の誕生日は特別だからな。これもお父さんとお母さんからの誕生日プレゼントだ」
「ありがとう……開けるよ?」
「えぇ」
そっと開けると、中には指輪が入っていた。虹色に輝く宝石がついている。
「綺麗……」
「ピンキーリング。小指につけるの。指輪についてる宝石はオパールよ」
ピンキーリング……初めて聞いた。
「右手につけると幸運を呼び込んでくれるらしいわ。左手だとチャンスを引き寄せてくれるみたい」
「指輪って左右によって意味が違うんだね。ありがとう! とっても嬉しいよ」
私は早速右手の小指につけた。オパールは、どういう原理で虹色に輝いているんだろう。不思議だな。
「さぁ、紅茶が冷めないうちにケーキを食べましょう」
「うん!」
2人が親で、本当によかっ、た。
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